国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

「ゲッツ!」とゲッツ

2010年03月28日 | マスターの独り言(アルバムのこと)
「ダンディ坂野」という芸人がいる。
一発ネタの「ゲッツ!」で有名(?)だ。
僕は彼がテレビに出てくると安心してしまう。
出てきたときには「一発屋だろう」と思わせながらも
しぶとく芸人として生き残っているのは立派だ。
この世知辛い世界でそれなりに辛苦を舐めながらもがんばっているのだろう。

彼のギャグは正直面白くない。
どうも本人も分かっているようだ。
だから彼は「空気」を使う。
「空気が読めない」という言葉が流行ったが、
彼の場合は会場や観客が「読めてしまった空気」
(つまり「やっちゃったなぁ」的な雰囲気)を笑いにしている。
一瞬の空白を笑いに変えているわけだ。きっと。

と、勝手な講釈はここまでで
ジャズミュージシャンにも空気を支配する者がいる。
まぁ、ジャズ・ジャイアンツと呼ばれている人たちのほとんどは
空気の色をぐっと変えてしまうのだが、
その中でも特別に冷たい張りつめた空気を作り出してしまうのがスタン・ゲッツだ。

ゲッツの音楽は「クール」という一言でよく表されるがまさにその通りである。
燃えたぎるような熱狂がない。
曲全体隅々まで行き渡った緊迫感が張りつめている。
白人だからというわけではないだろう。彼の気質がそんな音楽を作り上げているのだ。
『アット・ストーリービル』は、ゲッツの初期のライブ盤だ。
11曲目「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」では、
ライブのため良好な音質ではないのだが、
音が小さくともゲッツのうねるようなテナーのサウンドが全体を引き締める。
冷たさだけでなく、少しだけ温かみも感じることができるから
僕は非人格者と評されるゲッツを嫌いになれない。

人から注目される職業に就けば特有の苦労があるだろう。
それはお笑いであれ、ジャズミュージシャンであれ今も昔も変わらないのだ。