国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

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時代によって作られた「おふざけ」アルバム

2010年03月22日 | マスターの独り言(ジャズ以外音楽)
このアルバムはビートルズの最高傑作のみならず
ロック史に燦然と輝く名盤としても名高い。
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』
そのタイトルは長く、覚えるのも一苦労である。
ジャケットにはたくさんの写真やら蝋人形やら、
はたまた楽器やらがまんべんなく並べられ、
加えて中央に並ぶ4人のメンバーは奇抜な衣装に身を包んでいる。
花で「BEATELES」などとご丁寧に字を作り、
その周りを福助やらインド人形やら
「ローリング・ストーンズ」のシャツを着た人形やらが囲んでいる。
今ならCGで簡単なジャケットであるが、
当時はそんな技術もなく全てを並べた状況で撮った写真である。

正直、僕はこのアルバムのどこが20世紀を代表するアルバムなのか分からなかった。
ビートルズの曲ならもっといいものはあるはずだ。
しかも「サージェント軍曹」という架空の人物の作ったバンドという
何やら珍妙な設定であるにもかかわらず、
1曲目のタイトル曲と
2曲目の「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・不ロム・マイ・フレンド」ぐらいしか
その設定が生きていない。
3曲目の「ルーシー・インザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」など
もろビートルズの曲というかレノンの曲だろう。
そこから12曲目のタイトル曲の「リプライズ」までどーでもいいような曲が続く。
(もちろん6曲目の「シーズ・リヴィング・ホーム」など胸打つ曲もあるのだが…)
この「どーでもいい」というのが、また奇妙なもので
7曲目の「ミスター・カイト」(タイトルが長いので省略する)
10曲目の「ラブリー・リタ」
11曲目の「グッド・モーニング・グッド・モーニング」など
「え、ビートルズってこんな曲もやってたの?」という
ベスト盤だけでは絶対に知り得ないような不思議で奇妙奇天烈な曲がそろっているのだ。

どこら辺が「20世紀最大の名盤」なのか?
何度も聴き返している内に1つだけ分かったことがある。
「真剣さ」がないのだ。
「ペパー軍曹のバンド」といったり、「ダイヤモンド持って空飛んだ」といったり、
「なかなかよくなってきた」とか、「サーカスの演目は」とか
「64歳になっても」とか、「可愛いリタは駐禁取り締まりだ」とか
「おはよう。おはよう」とニワトリの声を入れてみたり、
とにかく「真剣」という言葉が似合わない。
そもそもジャケットだってあまりにも大仰すぎで面白すぎる。

ボブ・ディランと対比してみると歌詞に対しての真剣さや暗さ、重みというものが無く、
むしろ「そんなモン考えたってしょうがないじゃん」という
明るいカラフルな色合いの世界が広がっているのだ。
だからこそ最後の「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の持つ意味が重くなってくる。

一曲一曲が独立しては存在することはない。
この『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の中でこそ
全ての曲が密接に結びつき、明るさと共に「おふざけ」としての意味が生まれてくるのだ。

コンセプトアルバムの先駆けであるという。
本当に音楽が好きで、歌詞の持つ重さに引きずられるよりも
より楽しく、ビートルズらしい1枚を作りたかったのではないか。
少なくともポールはそうであった。
多くの曲はポールが中心となり作られているのがその証だろう。

このアルバムが分岐点となり、
やがメンバーはそれぞれの歩く道を見つけていく。
それは1つの時代の終わりを象徴しているのかもしれない。