国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

ヴィルヘルム・ハンマースホイとエリック・ドルフィー (後)

2010年03月21日 | マスターの独り言(曲のこと)
1964年6月2日
オランダのヒルベルサムのファーラー放送第5スタジオで
ラジオ番組用の演奏収録が行われた。
番組は生演奏が通常であったのだが、
メインミュージシャンが
放送日にパリに行かなくてはならないため
日程を合わせられず、事前収録ということになった。
その25日後の27日、
そのミュージシャンはベルリンに新たにできたジャズクラブに出演。
ところが公演中に体調が悪化し、翌日に緊急入院。
翌29日にあっけなくも帰らぬ人となってしまった。

エリック・ドルフィー。享年36歳。
ジャズ界をまた違った方向へ導いたかもしれないミュージシャンは
あまりにも短い生涯を駆け抜けるように終えた。

6月2日に収録した音源はやがてレコードとなり全世界へと広がる。
アルバムのタイトルは『ラスト・デイト』
ドルフィー、公式の最後のアルバムである。
(ちなみにこのアルバム以後、パリでの吹き込みという物も存在している)

ヴィルヘルム・ハンマースホイとエリック・ドルフィーはどこか似ている。
あの白く無機質な部屋は、
僕に『ラスト・デイト』の5曲目に収録された
「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」を思い起こさせた。

ドルフィーのさえずる小鳥のような柔らかなフルートの音色から始まる。
バスクラやアルトのようにスリリングな音色ではない。
ただどこまでも美しく、でもどこか冷めている。
クネクネとフルートの音色は熱を帯び、ぐっと急降下をしては身を持ち直したり、
ワザと楽器の擦れる音を入れたりしながら、
やがて小鳥が飛び立つがごとく、天上に向かい羽ばたいていく。

一流のミュージシャンは音に自分の感情を込めすぎない。
日本の書画が美しいのはその空間に想像の余地があるからである。
ミュージシャンが楽器で語りすぎれば、それはミュージシャンの独白だ。
だが、本当に心を打つものは、
その空間にこそ「何か」があると聴き手に、鑑賞者に訴えてくる。

ドルフィーのラスト録音だとか
最後に意味深に「空に消えていった音楽は二度と取り戻せない」という
別録りのドルフィーの言葉が入っているだとか
そういう物がなくとも
この「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」は最高なのだ。
この日のドルフィーには何が見え、何を考えていたのだろう。
この曲を聴くとき、僕はいつもそう考えてしまう。

ヴィルヘルム・ハンマースホイとエリック・ドルフィー。
孤高の鬼才たち。
彼らは必要以上に何かが見えていたのか。
僕たちが普段見ている中に隠れている何かを見つけ出すことができたのか。
それを僕らは知る余地もない。
ただ言えることは1つだけ。
2人が残したものは僕たちに絶えることのない疑問と新たな感動を与え続けてくれる。