寅の子文庫の、とらのこ日記

本が読みたいけど本が読めない備忘録

昭憲皇太后御摘草記念碑を見て思う。

2005年07月15日 00時39分38秒 | 15年戦争
1月から続いた沼津市我入道の現場もいよいよ大詰め。半年も通い詰めると町に愛着が湧いてくる。仕事中、道を行き交う人たちもいつか馴染みの顔となり、互いに名前こそ知らないが、自然に挨拶の声が出て来る。そして、昼飯はいつもの、我入道公園。

園内の北隅一角に荘厳な記念碑が仰ぐ人影も無く、風除けの松林の中に立っている。見れば正面に【昭憲皇太后御摘草記念碑】と、左脇に海軍大将有馬良橘敬書、の文字が彫られている。


この場所で弁当の蓋を開くこと数十回、これが何なのか、いつも気にかかっていた。現場も残り数日ということで貴重な昼寝の時間を返上して、石碑裏側一面にびっしりと彫られた文語体の碑刻を一文字ずつ手帳に写して解読を試みた。




『歳月ノ流ルルガ如ク昭憲皇太后ノ神去リ給ヒシハ唯昨日ノ如クニ覚ユルニ早クモ二十余年ノ昔トハナリヌ 皇太后ニハ明治37年以来毎年御避寒ノタメ沼津御用邸ニ行啓アラセラレ偶此ノ我入道蔓陀羅ヶ原ニ防風草ノ生イ茂レルコトヲ聞召サレ幾度カ此ノ浜ニ成ラセ給ヒヌ 此ノ地ハ往昔日蓮上人巡錫ノ砌松カ枝ニ蔓陀羅ヲ懸ケテ風浪ノ災無カランコトヲ祈願セシ遺蹟ニシテ牛臥山ノ麓ニ在リ風光明媚実ニ東海の絶勝タリ畏クモ皇太后ニハ玉歩ヲマゲサセ給ヒテ前ニハ洋々タル海原ヲ眺メヤラセ給ヒ顧テハ秀麗ナル富士ノ高嶺ヲヤ仰ガセ給ヒケム 或ハ松風ノ床シキ調ベニ心耳ヲ澄マセ給ヒワケテ此ノ浜ニ香リモ高キ防風草ヲ親シク摘マセ給ヒテ御輿イトモ浅カラザリシャニ承ル 里人等年月ノ経ツルトトモニ御遺徳ヲ追慕シ奉ルコト愈切ナルモノアリ此ノ由緒アル地ノ久シウシテ或ハ忘廃ニ帰センコトヲ憂慮シ有志相謀リテ資金ヲ勧募シ記念碑ヲ建設シ以テ不朽ニ伝ヘントス~ ~ ~/ 昭和十年四月 東京帝国大学教授正四位勲二等文学博士 宇野哲人 謹撰』

碑刻の最後の数行・~ ~ ~の部分は書き取りに辛抱できず割愛したが、清水市のある人が巨費を投じ碑を建立できた、また今日よりはこのことを子々孫々に伝えて忘れてはならない旨が記されている。

*昭憲皇太后(1850-1914)とは明治天皇の皇后で明治天皇死後に皇太后となる、女子教育の振興、和歌を愛しその数36000首に及ぶ、大正3年に沼津御用邸にて崩御。*宇野哲人(うのてつと・1875-1974)は大正から昭和期の中国哲学者1936退官、東大名誉教授、儒学を中心とした中国哲学史研究に新生面を開いた。*有馬良橘(ありまりょうきつ・1861-1944)は海軍大将、海兵第12期、1912年以降第1艦隊司令官、第3艦隊長官を歴任、22年予備役、31年枢密顧問官。いずれも【コンサイス日本人名辞典/三省堂1990年改訂版】を引いた。

沼津御用邸は明治26年に当時皇太子であった大正天皇のご静養別御殿として造営され、明治37年以降、昭憲皇太后も避寒のため毎年ご滞在になられ、滞在中にはこの我入道の浜に草を摘みに足を運ばれた。馬車を降り、皇太后がお通りになられた足跡を『摘み草の道』と我入道の住人は親しみ呼んでいたそうである。

今、思いついて芹沢光治良の年譜を読んでみた。すると光治良は明治29年に我入道一番地に生まれている。続けて【人間の運命第1巻】を開くと、森次郎少年の周囲で皇太子の中学校行啓や御用邸の話が出て来る。自分の中でそれまで個別に意識していたもの・芹沢光治良と昭憲皇太后が今この瞬間に一線上に結ばれ、皇太后の存在がいきなり身近なものとなる。そして皇太后の徳を慕いてその周りに配置されている宇野教授、有馬大将の人となりまでうっすら、見えてくるような、そんな錯覚さえ感じ入る。

こういう忘れ去られ、巷間に埋もれていくような民俗小史/伝承のかけらを拾い集めたい。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
コメントのお礼 (千本太郎)
2005-07-16 14:11:27
こんにちは、早速私のブログにコメント戴きまして有難う御座いました、私がブログを開設した主目的は沼津市民に沼津良さを再認識して貰い、また他地域の人々に来沼を促す為と沼津の知名度向上を目指し勝手な事を無責任に発表しています。
返信する
Unknown (みんなのプロフィール)
2005-07-16 23:55:29
ブログ開設おめでとうございます!

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