ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

〔12 七五の読後〕 【プロ棋士の思考術】 依田紀基 PHP新書

2012年01月26日 | 〔12 七五の読後〕
【プロ棋士の思考術】依田紀基 PHP新書

● オール1 下敷きにした一念も
依田紀基は昭和41年、北海道・美唄に生まれた。
小学校の成績はオール1。体育だけ2だったという。
父に請われて碁会所通い。先に年下の子で二段がいた。負けたくはなかった。
依田は半年で三段になった。
小6の時に上京して安藤武夫家の内弟子となる。
安藤に野球をはじめて教えてもらった時、バットを剣道の正眼に構えて笑われたた。
18歳で杉並のアパートへ、プロの碁打ちのスタートだ。

成績不良の依田は虚仮の一念が、座右の銘。
「こけ」は「虚仮」と書く。
もともとは仏教用語で、うそ、そらごとの意。
転じて、愚か、愚か者の意に用いられた。
「虚仮の一念....」は、愚かな者でも一念を持って行えば、大きな仕事が為しえるの意味。
棋士には東大などの高学歴者も多い。
しかし低学歴・成績劣等生の依田紀基は負けない。名人にもなっている。
囲碁の成績は文末に添付した。




● 歌舞伎町 酒と女のミダメ積み
新宿歌舞伎町は碁打ちをはじめギャンブラーたちのたまり場。
マージャン、バカラなど賭け事には、こと欠かない所だ。
依田紀基はそこで700万円を使いきったことがあったそうだ。
若い無頼派・勝負師気質の血が騒ぐ。



韓国でもカジノにハマり1000万円の借金もする。
ギャンブルだから逆に大金も手にすることもあるが、だんだんと金銭感覚は麻痺してゆく。
酒もとことん飲む、朝まで飲む。
飲むことが、もはや意思的な惰性だ。
碁の用語でダメをつぶしてゆくのを「ミダメ」という。
二十代の依田紀基は酒と女でミダメを重ね、最悪の状態だったが強い碁打ちでもあった。

しかし、マージャンなどギャンブルニはツキとか偶然性がものをいうことがあるが、囲碁の世界に偶然に勝つということはない。
運、不運があってもそれを決めるのは実力でしかない。


● 碁が弱い 碁打ちみじめを噛み締める
上村邦夫八段が口にしたことば。
プロの碁打ちでありながら碁が弱ければ、惨め。
なにをしていようが、それはいいが勝負は勝たなければダメという世界だ。
このころ中村天風を知る。


● 安全勝ち 気合に潜むあやうさも
依田紀基は自分の読みと感性に心中する。
どう打っているかではなく、どう打つのか。
その手に価値があるか、どうか。
一局の一手ごとにその石の価値、面目のある一手を探すという。



それは碁盤の361で区切られた土俵での一回切りの決着だ。
だから揮毫に「一期一会」を選び扇子に書く。
依田紀基の碁の特徴は十局に一局の割りで、半目の勝負になるという。




● 4子での渦中の人には一目を

悪くもよくも渦中の政治家に民主党・小沢一郎がいる。
この人の碁には大局観があると依田紀基は言い、彼を人間として評価し、一目を置いている。
小沢が政界きっての腕前(七段)を持つ与謝野に勝ったというニュースは見たことがある。
、名人タイトルを獲った依田に4子で打てるという点でも、政治家にありがちな名誉段位ではなく実力七段の腕なのだろう。

ただ私は依田と違って、小沢という人間の出所進退を好きにはなれない。



● 千年の魅力を湛える碁の世界
紫式部や清少納言の棋譜が残されていて、それを紐解くと立派なアマ高段者に相当するという話はなにかで読んだ。
碁は千年以上も伝承されている不思議な知のゲームの世界だ。

いろいろな人が棋界には多い。
灘高校、京大医学部を卒業して医師の資格を持ちながら、碁界で活躍している
坂井秀至もその一人。
小学時代は劣等生で二十代でギャンブルにハマり一念でトップクラスに来た依田紀基もそうだ。

集中力の持続できる子は碁だろうが勉強だろうがやればトップクラスになれる。
だが「成りたい」のと「為る」の距離には計り知れない差がある。

虚仮の一念の持つ旺盛な集中力は、目標貫徹に近づく。
依田紀基はその一念で成績1のコンプレックスをプラス思考に変えた。

依田紀基の戦績の一部

平成10年:
第23期碁聖戦で苑田勇一九段を3-0で破り防衛。3連覇。
平成12年:
第25期名人戦で趙治勲名人を4-0で破り初の名人位獲得

第47回NHK杯優勝で3連覇(出場50人制では初の快挙)
平成13年:
第26期名人戦で林海峰九段を4-2で破り初防衛
平成14年:
第27期名人戦で趙治勲九段を4-1で破り防衛
第24期鶴聖位獲得
平成15年:
第28期名人戦で山下敬吾棋聖の挑戦を4-1で破り防衛
第28期碁聖戦で小林光一碁聖を3-2で破り碁聖奪取
平成16年:
第29期碁聖戦で山田規三生八段の挑戦を3-1で退け防衛
平成17年:
第30期碁聖戦で結城聡九段を3-0で退け碁聖防衛 3連覇・通算6期
平成19年:
第62期本因坊戦挑戦者
平成21年:
第33期棋聖戦挑戦者
平成23年:
第58回NHK杯準優勝








依田紀基と同じような無頼派棋士の先輩に藤沢秀行がいる。
「棋聖」戦などの盤上での活躍の一方、酒、ギャンブル、借金、女、など破天荒な生活でも有名な人だった。
アル中の禁断症状と戦いながらの「棋聖戦」タイトルを独占した強さはよく覚えている。


私の職場にハマちゃんと呼ばれた囲碁六段がいた。
ハマちゃんは東大法学部卒。
だが大学時代はほとんど碁会所と映画を見て暮らしたという。

灘高の生徒会長を務めたという男が私の隣の席だった。
彼は高校の時、将棋初段をとったと言っていた。
対局をしたことはなかったが定年のお別れの時に豪華棋書三冊をプレゼントしてくれた。
いつか対戦をという約束は未だに実現できていない。



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年金生活に馴染んで日を送って久しいが、いま碁という魔力にとりつかれている。
定年7年、ようやく二段が視野に入ってきた。

依田紀基の棋譜はネットの棋士データベースからよく見える。





















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