特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第470話 殺人依頼をする女・あの人を殺して・・・!

2009年06月12日 02時20分12秒 | Weblog
脚本 宮下隼一、監督 天野利彦
1986年6月19日放送

【あらすじ】
雨の夜、ある事件の裏付け調査を進める時田と叶に、女が深刻な表情で話しかける。「お願いです。500万円で人を殺してください!」絶句する時田らをよそに、行き交う人々に次々と声を掛けながら、女は雑踏の中に姿を消した。
翌朝、アパートの自室で男の刺殺死体が発見される。男の顔を見て動揺を隠せない時田。さらに時田を驚かせたのは、「私が人に頼んで殺させた」と自首してきた内縁の妻だった。それは、昨夜の女に他ならなかった。
「病気がちな男の看病に疲れ、殺してくれる人を探し回った。だけど、いざ殺されてみると逃げられないと思った」特命課の取り調べに対し、あっけらかんとした態度で供述する女。その自供を受け、実行犯として逮捕されたのは、資金繰りに苦しむ中小企業の社長だった。社長は「私が現場に行ったときには、男はすでに死んでいた」と犯行を否定。だが、なぜ現場に行ったかについては口をつぐんだ。
殺された男の身許を洗ったところ、奇妙な事実が判明する。男は7年前、殺人依頼を受けてヤクザを殺した罪で投獄され、半年前に出所していた。逮捕された当時、男は犯行を否定。依頼を受け、現場に行ったことは認めたものの、怖くなって逃げ出したというのだ。男は「現場付近でぶつかった男こそ真犯人だ」と主張し、自らの「直後に売春婦とホテルに行った」とアリバイを主張するが、男も売春婦も発見されなかった。また、男に殺人を依頼したヤクザの情婦は熱海で投身自殺を遂げ、結局、男には有罪判決が下った。
奇妙な符合に驚く特命課だが、女に問い質したところ、「男から聞いた話を参考にしただけ」と語る。だが、時田は女の姿に違和感を覚えていた。あっけらかんと自白する姿と、夜の街で出会った際の震えるような姿とが、どうしても重ならなかったのだ。
改めて女の素性を洗う時田。女は病気の母親のために早くから働き続け、母親の死後は運送会社に勤めていた。だが、男との出会いが真面目だった女を変えた。いつの間にか同棲関係となった男のために、女は会社の金を横領して解雇され、夜の街に身を落としていた。
その後の捜査で、男が末期ガンだったことが判明する。男はその事実を知り、病を隠して3千万円の生命保険に加入。受取人は女だった。さらに、男と社長が同じ病院に通っていたことが判明。男は偶然出会った社長の顔を見て「あいつが殺したんだ!」と喚き散らしたという。社長こそが、7年前の事件の真犯人だというのか?
特命課では、男の死は自殺であり、女が社長を陥れるために殺人に見せ掛けかけたのではないかと推測する。だが、なぜ女は自ら罪を被ってまで、男の復讐を果たそうとするのか?釈放した女を尾行した時田は、女がホテルの前に立ち尽くすのを見て、その真意に気づく。それは、7年前に男が売春婦と入ったと主張したホテルだった。男が買った売春婦とは、まだ少女だった頃の女であった。運送会社で再会を果たしたとき、男は女の顔を覚えていなかったが、女にとっては忘れることができない顔だった。7年前、女は男の無実を証明できるのは自分だけだと知りながら、買春の事実を母親に知られることを恐れ、名乗り出ることができなかったのだ。自分のせいで、無実の身で投獄された男のために、女は献身的に尽くした。そして、そんな女にせめて保険金を残そうと、男は無念の死を選んだのだ。
7年前の事件を調べ直す特命課。熱海で自殺した情婦は、実は口封じのために社長に殺されたのではないか?現場を洗い直すものの、7年という時間の壁は厚く、手掛かりはつかめない。だが、手すりに残った指紋が証拠となり、社長の犯行が立証される。
事件解決後、刑事たちの前で神代がもう一つの真実を明かす。7年前の事件で、ただ一人、最後まで男の無実を主張したのが、時田だった。今回の事件は、女にとっての贖罪であると同時に、時田にとっての贖罪でもあったのだ。男の墓前で出くわした時田に、女は語る。「これからが、本当の罪滅ぼし。あの人の分も、私は幸せになります・・・」

【感想など】
7年前と現在、2つの依願殺人の背景に隠された、女と刑事、2人の贖罪を描いた一本。かなり込み入ったストーリーにも関わらず、すんなりと展開を楽しめるのは(逆に言えば、あっさりしすぎて盛り上がりに欠けるとも言えるのですが・・・)、脚本の妙か、それとも演出の巧みさなのか。いずれにしても、時田編らしく情感のこもったドラマが味わい深い、なかなかの佳作と言えるのではなでしょうか。

ここ最近、私の中で時田刑事の株が上昇中なのですが、今回もまた、彼の魅力が存分に発揮されていました。刑事がかつての捜査上の過失を悔いる、という展開は、正直言って食傷気味なのですが、それを序盤から匂わせながらも、自分の胸にしまいこみ、ラストで課長の口から明かされるだけで、時田本人の言葉としては、「後悔」「贖罪」といった想いが一切語られないというのが、また時田らしいと思います。
7年前、男の有罪を主張した他の刑事たちは、きっと男のことなど忘れてしまっているでしょう。にも関わらず、当時、ただ一人だけ男の無罪の可能性を主張した時田だけが、(言葉には出さずとも)後悔と贖罪の念を背負い続けているというのは、なんともやり切れません。組織の中で、組織の利益に逆らってでも良心的であろうとした者は、組織から疎外された上に、一人、その良心の呵責に耐え続けなければならない。現実でもよくあるケースだけに、時田の姿勢に共感する視聴者は多かったのではないでしょうか?
最近も過去の事件が冤罪と分かって世間を騒がせていますが、あの事件でも時田のような刑事がいたのではないか?その刑事は、今、何を思っているだろうか?などと考えると、なんともやり切れません。

一方で、女の「贖罪」に対しては、演じた女優さんの演技が、いかにもステレオタイプな「悪女ぶりたがる女」すぎて辟易したこともあって、どこか違和感を拭いきれません。男への罪悪感が、いつしか愛情に変わっていった、と見えなくもないですが(おそらく脚本的にはそう描きたかったのだと思いますが)、どうもこの女の場合、自分を悪者に仕立て上げないときがすまない性分というか、「罪悪感」に縛られ、男への本当の気持ち(=愛情)に気づいていないというか、ここまで言うこともないのですが、あえて言えば「自己満足」のためにやっているように見えてしょうがありませんでした。
彼女が果たすべき贖罪とは、男の無実を証明することでも、ましてや社長を道連れに自ら罪をかぶることでもなく、ラストの台詞のように「男の分まで幸せになること」でもないと思います。あくまで私見ですが、荒み切った男の人生の終幕を、その側で支え続け、ひとときの安らぎを与えたことで、女の贖罪はすでに果たされているのではないでしょうか?男の死は、一見して不幸な死に方に見えますが、死の間際に男が感じたことは、案外、自分が他人のために死ねるという喜びだったのかもしれないと思うのです。死の間際に、思いやれる相手がいたという事実は、男の人生が絶望だけに彩られたものではないという証明だと思うのです。
そうした贖罪のあり方を、時田なら気づいていたかもしれないと思うのですが、ならば、そのことを女に気づかせてあげて欲しかった。そこが少し残念です。

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