特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第489話 連続誘拐・心臓移植の少女!

2009年08月04日 04時06分20秒 | Weblog
脚本 林誠人、監督 野田幸男
1986年11月6日放送

【あらすじ】
大物政治家による国有地払い下げをめぐる汚職事件を内偵する特命課。そんななか、小学生になる政治家の一人娘が誘拐される。特命課が待機する政事家宅に、誘拐犯から脅迫電話が入り、「娘を返して欲しければ、記者会見を開いて汚職を告白しろ」と要求する。動機は金ではなく「義憤」だと言うのだ。娘の安否を気遣う政治家に、誘拐犯はこう答える。「安心しろ。娘が寂しくないよう、遊び相手を誘拐しておいた」
誘拐犯は警察の存在を察知し、あえて電話を逆探知させる。割り出した公衆電話に急行したところ、そこには二人分のランドセルが残されていた。誘拐されたもう一人の少女は、幼い頃に両親が離婚し、母親と二人暮しだった。母親によれば、少女は心臓に持病を抱えており、発作が起これば命に関わるという。
誘拐犯の要求に苦悩しつつも「私は潔白だ。嘘をつけと言うのか?」と言い張る政治家に、桜井は言う。「はっきり言おう、貴方はクロだ。貴方にお子さんを天秤に掛ける自由はない。ましてや無関係の少女を巻き込む権利はない!」だが、政治家は「君たちこそ私の記者会見を望んでいるんじゃないか?本当に事件を解決する気があるのか!」と一喝。その言葉は、桜井らの内面の葛藤を鋭く突いていた。
そんななか、誘拐犯は発作を起した少女を病院の近くで解放すると、「私は人殺しになりたくない。この少女の心臓を治してやれ」と政治家に要求する。政治家は要求を飲み、少女に米国での心臓移植手術を受けさせることになり、美談として新聞に報じられる。
その後、再び入った脅迫電話に、政治家はついに記者会見を覚悟する。一方、時田は少女を見舞い、誘拐犯の人相を聞き出すと、似顔絵をもとに病院付近の聞き込みを開始する。その頃、誘拐犯は政治家の娘とともに千羽鶴を折り、少女の回復を祈っていた。そこに聞き込みに訪れる杉。だが、誘拐犯の顔(視聴者にはここで初めて明かされる)は似顔絵とは似ても似つかぬもので、杉は気づく術もなかった。
その頃、事件の推移を見守っていた神代は「視点を変えてみるべきではないか?」と指摘する。誘拐犯の目的は、政治家ではなく、はじめから少女の心臓病を治療させることにあったのではないかというのだ。容疑は少女の離婚した父親に絞られる。父親はかつて高級料亭の板前をしており、そこで政治家の密会を耳にしたと思われた。父親の名前を聞いた杉は、聞き込み先で出会っていたことに気づく。似顔絵のも元となった少女の証言はデタラメだったのだ。少女は「インチキをしてまで心臓を欲しくありません!」と、移植手術を拒んでいた。少女も最初から共犯だったのだというのか?だが、母親は離婚後に父親の写真をすべて処分しており、少女は父親の顔を覚えていないはずだった。少女を信じたい思いを抱きつつ、時田は杉とともに誘拐犯のもとへ急ぐ。
ニュースで少女の手術拒否を知って驚く誘拐犯のもとに、時田らが踏み込む。誘拐犯は大人しく逮捕され、少女は無事に保護される。桜井のもとに報せが届いたのは、政治家が記者会見を開くまさに直前だった。このまま会見させれば、汚職事件の全貌がつかめる。だが・・・。悩んだ末に、桜井は政治家に娘の救出を告げる。居並ぶマスコミに「会見は中止だ」と一方的に告げ、平然と会見場を後にする政治家。その表情は、子を思う父親のものでなく、政治家のものに戻っていた。
時田の温情で、少女の病室を訪れた誘拐犯は、少女に似顔絵を見せ「お父さんのことをかばってくれたんだね?」と問いかける。母親は「この子にあなたなんかの記憶はありません!」と少女に近付くことを拒絶する。だが、少女はやはり、父親の顔を知っていた。大切にしていたぬいぐるみの中から、一枚の写真を取り出す少女。そこには、幼い頃の少女が笑顔の両親とともに映っていた。「こんなにお母さんを笑わせている人、見たことない。一度でいいから、会ってみたかった」娘の言葉に、胸の内を搾り出す誘拐犯。「お父さん、お前の病気が怖くて、お前がお父さんより先に死んじゃうんじゃないかと怖くて、逃げ出した卑怯者だ。だから、お前の病気を治すのにも、卑怯な方法しか考えつかなかった・・・」だが、少女は無条件に親に従う幼女のままではなかった。卑怯な手段で手術を受けることを、潔しとしなかったのだ。「馬鹿なお父さんだな・・・」ついに父とは呼んでくれない少女の無垢な瞳に耐えかね、思わず視線を逸らす誘拐犯。見かねた時田に促され、誘拐犯は病室を出る。だが、ひたすらに我が子の無事を願う父の心は、少女に届いていた。「お父さん、ありがとう!」背後から響く少女の声に、誘拐犯の頬を涙が伝った。
やがて、特命課の証拠固めが終わって政治家が逮捕された頃、少女は母親とともに米国へと出発する。その手には、父親と、誘拐された娘の折った千羽鶴がしっかりと握られていた。

【感想など】
汚職政治家への義憤による誘拐事件の裏に隠された親子の情愛を描いた一本。何と言うか、実に久しぶりに特捜らしい特捜を見たという充実感が味わえ、「夜10時台の特捜が帰って来た!」と思える、まさに「珠玉の一本」でした(ここしばらく「これが特捜か・・・」と嘆きたくなる話が続いていた反動もあるかもしれませんが・・・)。
正直なところ、少女の心臓病と母子家庭という背景が明らかになった段階で先が読めてしまうのは否めませんが、本作の魅力はストーリーだけでなく、刑事や犯人、そして被害者それぞれの心情の揺れ動きを、台詞に頼ることなく、演技と演出で描き切った点にあると思います。
なかでも特筆すべきなのは、桜井と政治家(勝部演之)、そして時田と誘拐犯(島田順司)の間で交わされる演技の妙です。誘拐事件を解決しなければならない一方で、汚職事件を解決に導くチャンスを逃がしたくないという桜井の葛藤。娘を想う父親の顔と、老獪な政治家としての顔が交錯する政治家の揺れ動く内面。両者の心理がぶつかり合うラストの局面で、最後に桜井が下した選択は、人として誠実であろうとする道でした。おそらく、そこには(実際に桜井が耳にする描写はなかったものの)「インチキしてまで心臓を欲しくない」と言い切った少女の言葉が影響していると思われますが、そうした桜井の誠実さに対し、堂々とシラを切り通す政治家も、また天晴れ。両者の選択は、一見、正反対のようでいて、いずれもまさに「大人の選択」であり、余計な台詞を排して、表情だけで深い内面を描き切ったあたりは、「これぞ特捜」といえる名シーンでした。
また、誘拐犯と娘の絆を描いたラストシーンは、島田氏の熱演もあって、もう涙無しには見られません。拒絶を続ける妻や、父親の「卑怯な」好意をどう受け止めていいか分からないでいる少女を前に、自らの愚かさを悟る誘拐犯を、誰が責めることができるでしょうか?そんな誘拐犯の心情を、同じ子を持つ身として痛いほどに理解しながら、黙って見つめるだけの時田。誘拐犯が差し出す両手を、首を振って押しとどめる、たったそれだけのさり気ない演技に、時田の限りない優しさがにじみ出る。地味ながら味わい深いシーンです。

こうした大人の演技、大人の魅力に加えて、少女二人の演技(というか、少女の気持ちを引き出した脚本と演出)もまた印象深いものがあります。「卑怯な手段」を良しとしない少女と、父親の不正を察して距離を置く娘。いずれも子供ながらの正義感と、父親への思慕の間で揺れ動く不安定さが、ドラマの端々で描かれています。
サブタイトルにもあるように、ドラマ的なメインは心臓病の少女の方ですが、個人的に印象に残ったのは、あえて感情を抑えた感のある政治家の娘の方でした。誘拐犯に指切りを促され「そんな子供じゃありません」と応じるシーンや、逮捕される政治家を心配そうに見つめるシーン、そして、無事に保護された後の会見で、喜ぶ政治家を他所に折鶴を折り続けるシーンなど、無表情さの奥に隠された真情を思うと、切ない思いがこみ上げてきます(惜しむらくは、冒頭でわざわざ学校を出て折り紙を買いにいった娘の行動を、伏線としてしっかり回収して欲しかった)。

久々に特捜らしさを堪能させてくれた脚本の林誠人氏ですが、気になって調べてみたところ、本編が脚本家としてのデビュー作だとか。その後も刑事ドラマの脚本を数多く手掛け、最近では「ケータイ刑事」シリーズのチーフ脚本家を務めているそうです。特捜ではこれ一本のみですが、機会があれば他作品での脚本作を見てみたいものです。

2 コメント

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本日のハイライトは告白寸前の撤回。 (コロンボ)
2009-08-05 19:27:24
やっと後期「特捜」で満足できた作品でしたね。

「感動した!」なんて、どっかの売国政治家並みのセリフが飛び出しかけました。ああ8月30日が待ち遠しい。やっとタイタニックが沈没するんですから。

昨日の休日に近所のマンションで(アヒルの売国コマーシャルのYさんの住んでる・・・例の押尾の件で)実況する阿部リポーター(杉刑事役)を見る機会に恵まれました。やっぱりドラマと生では迫力が違いました。

「こんな間近で杉刑事が見れるとは・・・」周りの野次馬とは異なる視点で、報道陣のフラッシュを傍観しました。もちろん視線は阿部さんにロックオン!
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阿部氏の活躍 (袋小路)
2009-08-07 03:44:17
コロンボさん、こんばんは。いつもコメントありがとうございます。
仰るとおり、後期特捜では指折りの一本ですね。
私はワイドショーを見る習慣がなく、残念ながらレポーターとしての阿部氏の活躍を目にしたことがありません。また、俳優としても特捜以外でお目にかかったことがないので、パッとしない(失礼!)新人刑事としてのイメージしかありません。
機会があれば、阿部氏の活躍を見てみたいと思うのですが、そもそも顔を見ても「杉刑事だ!」と気づくかどうかが心配です。
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