脚本 塙五郎、監督 藤井邦夫
連続強盗殺人犯を追う特命課。奪われた指輪が質入れされ、質屋に残された住所氏名をたどったところ、ある母子家庭に行き着いた。ホステスとして幼い息子を育てていた女は、事件とは無関係を主張するが、洗濯物に男の下着が混じっていたことを追及すると「店の客を泊めただけ」と開き直る。そこに電話が入るが、女は間違い電話を装って切る。再びかかってきた電話の主は、やはり犯人だった。警察の存在に気づいた犯人は、「電話に出せ」と要求。対応した桜井に「その母子は親切心で俺を泊めてくれただけで、事件とは無関係だ」と主張する。
女を取り調べたところ、犯人について知っているのは名前だけだという。犯人との関係を追及する船村だが、女は「夫と別れた後、女一人で息子を育てるためには、客を大切にするしかないんだよ」と主張する。犯人をかばうような女の言動に不審を覚え、引き続き母子をマークする特命課。そんななか、女は子供を残したまま姿を消す。
改めて女の戸籍を調べて驚く特命課。離婚した夫の欄に記されていたのは、犯人の名前だった。女は別れた夫と偶然再会し、その犯行を知りつつ匿っていたものと推測された。「子供を残して消えるような女じゃない」と子供を見張る桜井に、叶は「甘いんじゃないですか」と反論する。その後、叶の予想通り、女は東京駅で九州行きの電車に乗ろうとしたところを発見されるが、犯人の行方を語ろうとはしなかった。
夫の過去を調べたところ、かつて九州、そして北海道で炭鉱夫をしていたが、坑内の爆発事故で閉山となり、職を失った。そして借金を背負った挙句、妻子に負担をかけまいと離婚した末に、行方不明となった。女は夫を探すために子供を連れて上京したのだという。
犯人が作ってくれたという犬小屋に色を塗りながら「パパ好き。ワンワンのおじちゃんも」と語る子供の証言から、桜井は犯人と夫が別人ではないかと推測する。やがて、夫が数年前に身許不明者として死んでいたことが判明。死体の引受人は女だった。再度女を問い質したところ、女は夫の死を受け入れられず、同じ炭鉱夫だった犯人に夫の姿を重ね合わせ、面倒を見ていたのだという。犯人は覚醒剤中毒者で、自分の名前も定かではなかったことから、女は犯人に夫の名前を与え、いつしか犯人は母子を自分の実の妻子であるかのように錯覚していた。
そして、犯人は子供と約束した子犬を買い与えるために、わずか30万円の金を求めて銀行に押し入る。女性行員を人質に立てこもる犯人。人質に接触し過ぎているため、射殺をためらう桜井。叶は「自分ならやれます」と主張し、制止を振り切って発砲。銃弾は逸れ、犯人は逆上。咄嗟に放った桜井の銃弾が犯人を貫いた。虫の息の犯人に「お前の本当の名は?」と問いかける桜井。犯人が答えたのは、女の夫の名前だった。「桜井って刑事に頼みがある。子供に約束した犬を・・・」その言葉を残して、犯人は死亡した。その事実を、女は、そして桜井はどう受け止めたのか?その答えは降りしきる雨に流されていった。
冒頭からラストシーンまで、一分のスキもない完成度の高い一本です。冒頭で、叶が銃を練習する風景が描かれ、おやっさんの台詞によって、叶が桜井を目標に腕を磨いていること、一方の桜井が、最近では銃の練習に身を入れていないことが語られます。この両者の関係が、捜査を通じて「犯人と女に対して同情的な桜井」と「捜査に私情を挟むべきではないと主張する叶」の対立へと変化していきます。かつては刑事同士の対立といえば、非情に徹する桜井と、私情を隠さない紅林(初期は高杉)と言うのが定番でしたが、本作では桜井の立ち位置が変わっています。これは脚本家ごとのキャラクター把握の差というより、むしろ桜井の心境の変化と捉えるべきでしょう。冒頭のおやっさんの「最近、あんまり(銃の練習を)やらないね」という台詞が、その変化を象徴していると考えるのは、深読みのしすぎでしょうか?(ただし叶に関しては、いつもに比べて冷淡すぎるような気もしますが・・・)
事実の推移だけを追えば、両者の意見の対立は叶に軍配が上がり、その自負がラストシーンにおける叶の発砲につながります。その結果、叶はまだまだ桜井に及ばないことを思い知らされます。それは単に銃の腕の差だけではく、人間に対する洞察力でも同様です。叶にとって、犯人は最後まで凶悪な人でなしでした。しかし、実際は桜井が洞察したように、犯人は(そして死んだ夫も)炭鉱夫としてしか生きる術を知らなかった哀しい男でした。「まともな人間に戻してやりたい」という桜井の願いも虚しく、叶の先走りによって(と言うのは厳しすぎるかもしれませんが)、桜井自身の手で命を奪うしかないという皮肉なラストが、冒頭のシーンが布石となっているだけに、見る者に強い印象を与えます。
また、両刑事の対立という本筋に加えて、女と犯人、そして子供の触れ合いも情感たっぷりに描かれています。特に泣かせるのが、犯人と子供の交わした約束が、桜井に犯人と夫が別人だと気づかせる鍵になり、またラストシーンの強盗の引き金にもなっていること。何も知らない子供は、“ワンワンのおじちゃん”が約束の子犬を買って来てくれるのを待ち続けることでしょう。そんな子供に、女は夫の死と同様に、犯人の死をも告げることができないのでしょうか?深い余韻を残す名作です。未視聴の方は金曜の再放送をお見逃しなく。
連続強盗殺人犯を追う特命課。奪われた指輪が質入れされ、質屋に残された住所氏名をたどったところ、ある母子家庭に行き着いた。ホステスとして幼い息子を育てていた女は、事件とは無関係を主張するが、洗濯物に男の下着が混じっていたことを追及すると「店の客を泊めただけ」と開き直る。そこに電話が入るが、女は間違い電話を装って切る。再びかかってきた電話の主は、やはり犯人だった。警察の存在に気づいた犯人は、「電話に出せ」と要求。対応した桜井に「その母子は親切心で俺を泊めてくれただけで、事件とは無関係だ」と主張する。
女を取り調べたところ、犯人について知っているのは名前だけだという。犯人との関係を追及する船村だが、女は「夫と別れた後、女一人で息子を育てるためには、客を大切にするしかないんだよ」と主張する。犯人をかばうような女の言動に不審を覚え、引き続き母子をマークする特命課。そんななか、女は子供を残したまま姿を消す。
改めて女の戸籍を調べて驚く特命課。離婚した夫の欄に記されていたのは、犯人の名前だった。女は別れた夫と偶然再会し、その犯行を知りつつ匿っていたものと推測された。「子供を残して消えるような女じゃない」と子供を見張る桜井に、叶は「甘いんじゃないですか」と反論する。その後、叶の予想通り、女は東京駅で九州行きの電車に乗ろうとしたところを発見されるが、犯人の行方を語ろうとはしなかった。
夫の過去を調べたところ、かつて九州、そして北海道で炭鉱夫をしていたが、坑内の爆発事故で閉山となり、職を失った。そして借金を背負った挙句、妻子に負担をかけまいと離婚した末に、行方不明となった。女は夫を探すために子供を連れて上京したのだという。
犯人が作ってくれたという犬小屋に色を塗りながら「パパ好き。ワンワンのおじちゃんも」と語る子供の証言から、桜井は犯人と夫が別人ではないかと推測する。やがて、夫が数年前に身許不明者として死んでいたことが判明。死体の引受人は女だった。再度女を問い質したところ、女は夫の死を受け入れられず、同じ炭鉱夫だった犯人に夫の姿を重ね合わせ、面倒を見ていたのだという。犯人は覚醒剤中毒者で、自分の名前も定かではなかったことから、女は犯人に夫の名前を与え、いつしか犯人は母子を自分の実の妻子であるかのように錯覚していた。
そして、犯人は子供と約束した子犬を買い与えるために、わずか30万円の金を求めて銀行に押し入る。女性行員を人質に立てこもる犯人。人質に接触し過ぎているため、射殺をためらう桜井。叶は「自分ならやれます」と主張し、制止を振り切って発砲。銃弾は逸れ、犯人は逆上。咄嗟に放った桜井の銃弾が犯人を貫いた。虫の息の犯人に「お前の本当の名は?」と問いかける桜井。犯人が答えたのは、女の夫の名前だった。「桜井って刑事に頼みがある。子供に約束した犬を・・・」その言葉を残して、犯人は死亡した。その事実を、女は、そして桜井はどう受け止めたのか?その答えは降りしきる雨に流されていった。
冒頭からラストシーンまで、一分のスキもない完成度の高い一本です。冒頭で、叶が銃を練習する風景が描かれ、おやっさんの台詞によって、叶が桜井を目標に腕を磨いていること、一方の桜井が、最近では銃の練習に身を入れていないことが語られます。この両者の関係が、捜査を通じて「犯人と女に対して同情的な桜井」と「捜査に私情を挟むべきではないと主張する叶」の対立へと変化していきます。かつては刑事同士の対立といえば、非情に徹する桜井と、私情を隠さない紅林(初期は高杉)と言うのが定番でしたが、本作では桜井の立ち位置が変わっています。これは脚本家ごとのキャラクター把握の差というより、むしろ桜井の心境の変化と捉えるべきでしょう。冒頭のおやっさんの「最近、あんまり(銃の練習を)やらないね」という台詞が、その変化を象徴していると考えるのは、深読みのしすぎでしょうか?(ただし叶に関しては、いつもに比べて冷淡すぎるような気もしますが・・・)
事実の推移だけを追えば、両者の意見の対立は叶に軍配が上がり、その自負がラストシーンにおける叶の発砲につながります。その結果、叶はまだまだ桜井に及ばないことを思い知らされます。それは単に銃の腕の差だけではく、人間に対する洞察力でも同様です。叶にとって、犯人は最後まで凶悪な人でなしでした。しかし、実際は桜井が洞察したように、犯人は(そして死んだ夫も)炭鉱夫としてしか生きる術を知らなかった哀しい男でした。「まともな人間に戻してやりたい」という桜井の願いも虚しく、叶の先走りによって(と言うのは厳しすぎるかもしれませんが)、桜井自身の手で命を奪うしかないという皮肉なラストが、冒頭のシーンが布石となっているだけに、見る者に強い印象を与えます。
また、両刑事の対立という本筋に加えて、女と犯人、そして子供の触れ合いも情感たっぷりに描かれています。特に泣かせるのが、犯人と子供の交わした約束が、桜井に犯人と夫が別人だと気づかせる鍵になり、またラストシーンの強盗の引き金にもなっていること。何も知らない子供は、“ワンワンのおじちゃん”が約束の子犬を買って来てくれるのを待ち続けることでしょう。そんな子供に、女は夫の死と同様に、犯人の死をも告げることができないのでしょうか?深い余韻を残す名作です。未視聴の方は金曜の再放送をお見逃しなく。