特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第323話 二人の夫を持つ女!

2007年06月25日 23時03分51秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 藤井邦夫

連続強盗殺人犯を追う特命課。奪われた指輪が質入れされ、質屋に残された住所氏名をたどったところ、ある母子家庭に行き着いた。ホステスとして幼い息子を育てていた女は、事件とは無関係を主張するが、洗濯物に男の下着が混じっていたことを追及すると「店の客を泊めただけ」と開き直る。そこに電話が入るが、女は間違い電話を装って切る。再びかかってきた電話の主は、やはり犯人だった。警察の存在に気づいた犯人は、「電話に出せ」と要求。対応した桜井に「その母子は親切心で俺を泊めてくれただけで、事件とは無関係だ」と主張する。
女を取り調べたところ、犯人について知っているのは名前だけだという。犯人との関係を追及する船村だが、女は「夫と別れた後、女一人で息子を育てるためには、客を大切にするしかないんだよ」と主張する。犯人をかばうような女の言動に不審を覚え、引き続き母子をマークする特命課。そんななか、女は子供を残したまま姿を消す。
改めて女の戸籍を調べて驚く特命課。離婚した夫の欄に記されていたのは、犯人の名前だった。女は別れた夫と偶然再会し、その犯行を知りつつ匿っていたものと推測された。「子供を残して消えるような女じゃない」と子供を見張る桜井に、叶は「甘いんじゃないですか」と反論する。その後、叶の予想通り、女は東京駅で九州行きの電車に乗ろうとしたところを発見されるが、犯人の行方を語ろうとはしなかった。
夫の過去を調べたところ、かつて九州、そして北海道で炭鉱夫をしていたが、坑内の爆発事故で閉山となり、職を失った。そして借金を背負った挙句、妻子に負担をかけまいと離婚した末に、行方不明となった。女は夫を探すために子供を連れて上京したのだという。
犯人が作ってくれたという犬小屋に色を塗りながら「パパ好き。ワンワンのおじちゃんも」と語る子供の証言から、桜井は犯人と夫が別人ではないかと推測する。やがて、夫が数年前に身許不明者として死んでいたことが判明。死体の引受人は女だった。再度女を問い質したところ、女は夫の死を受け入れられず、同じ炭鉱夫だった犯人に夫の姿を重ね合わせ、面倒を見ていたのだという。犯人は覚醒剤中毒者で、自分の名前も定かではなかったことから、女は犯人に夫の名前を与え、いつしか犯人は母子を自分の実の妻子であるかのように錯覚していた。
そして、犯人は子供と約束した子犬を買い与えるために、わずか30万円の金を求めて銀行に押し入る。女性行員を人質に立てこもる犯人。人質に接触し過ぎているため、射殺をためらう桜井。叶は「自分ならやれます」と主張し、制止を振り切って発砲。銃弾は逸れ、犯人は逆上。咄嗟に放った桜井の銃弾が犯人を貫いた。虫の息の犯人に「お前の本当の名は?」と問いかける桜井。犯人が答えたのは、女の夫の名前だった。「桜井って刑事に頼みがある。子供に約束した犬を・・・」その言葉を残して、犯人は死亡した。その事実を、女は、そして桜井はどう受け止めたのか?その答えは降りしきる雨に流されていった。

冒頭からラストシーンまで、一分のスキもない完成度の高い一本です。冒頭で、叶が銃を練習する風景が描かれ、おやっさんの台詞によって、叶が桜井を目標に腕を磨いていること、一方の桜井が、最近では銃の練習に身を入れていないことが語られます。この両者の関係が、捜査を通じて「犯人と女に対して同情的な桜井」と「捜査に私情を挟むべきではないと主張する叶」の対立へと変化していきます。かつては刑事同士の対立といえば、非情に徹する桜井と、私情を隠さない紅林(初期は高杉)と言うのが定番でしたが、本作では桜井の立ち位置が変わっています。これは脚本家ごとのキャラクター把握の差というより、むしろ桜井の心境の変化と捉えるべきでしょう。冒頭のおやっさんの「最近、あんまり(銃の練習を)やらないね」という台詞が、その変化を象徴していると考えるのは、深読みのしすぎでしょうか?(ただし叶に関しては、いつもに比べて冷淡すぎるような気もしますが・・・)
事実の推移だけを追えば、両者の意見の対立は叶に軍配が上がり、その自負がラストシーンにおける叶の発砲につながります。その結果、叶はまだまだ桜井に及ばないことを思い知らされます。それは単に銃の腕の差だけではく、人間に対する洞察力でも同様です。叶にとって、犯人は最後まで凶悪な人でなしでした。しかし、実際は桜井が洞察したように、犯人は(そして死んだ夫も)炭鉱夫としてしか生きる術を知らなかった哀しい男でした。「まともな人間に戻してやりたい」という桜井の願いも虚しく、叶の先走りによって(と言うのは厳しすぎるかもしれませんが)、桜井自身の手で命を奪うしかないという皮肉なラストが、冒頭のシーンが布石となっているだけに、見る者に強い印象を与えます。
また、両刑事の対立という本筋に加えて、女と犯人、そして子供の触れ合いも情感たっぷりに描かれています。特に泣かせるのが、犯人と子供の交わした約束が、桜井に犯人と夫が別人だと気づかせる鍵になり、またラストシーンの強盗の引き金にもなっていること。何も知らない子供は、“ワンワンのおじちゃん”が約束の子犬を買って来てくれるのを待ち続けることでしょう。そんな子供に、女は夫の死と同様に、犯人の死をも告げることができないのでしょうか?深い余韻を残す名作です。未視聴の方は金曜の再放送をお見逃しなく。

第322話 にっぽん縦断泥棒日記!

2007年06月25日 02時55分38秒 | Weblog
脚本 押川國秋、監督 宮越澄

老人が店番をするタバコ屋に「裏口が火事だ」などと電話をかけ、店を開けさせた隙に収入印紙などを奪うという事件が頻発する。そんななか、福島県でも同様の事件が発生。今回は泥棒に追いすがった老婆が殺される。
捜査に当たった特命課は、過去の犯行の記録から、次の犯行現場を予測して網を張る。予測どおり犯人が現れ、タバコ屋からの通報で地元警察が急行するが、犯人は包囲網をかいくぐって逃走。紅林はタバコ屋の店先で、犯人が落としたと思われる手紙を発見する。その手紙は、失踪した兄を探すために上京した男が、故郷に残された兄の子供たちに宛てたものだった。差出人の手紙に記されていたドヤ街を訪ねたところ、男は不在だったが、残された荷物から収入印紙と犯行を記録したノートが発見される。それによると、九州から北海道まで日本中を泥棒して回っていたらしいが、福島の事件だけは記されていなかった。
収入印紙を換金したのではと、付近のコイン屋を当たる紅林だが、それらしい人物には覚えがないという。コイン屋を見張り続けたところ、目撃者の証言通りの背格好の男が現れ、逃走を図ったために逮捕する。特命課の尋問にとぼけ続けていた男だが、船村におだてられ、つい口を滑らせる。「一軒で2万円くらいの犯行に目くじら立てなくても・・・」と居直る男に「細々と暮らしている老人にとって、2万円がどれだけの価値があるか、貴様には分からんのか!」と一喝する船村。男は全国各地の犯行を認めたものの、福島の犯行だけは頑なに否認する。
被害者の夫に面通しさせるため、福島県に男を護送する紅林。夫は男の着衣を見て犯人とだ断定するが、男は否認を続ける。紅林は、タバコ屋の付近に電話ボックスが見当たらないことに疑問を覚える。事件当日、犯人は老婆に電話をかけて店を空けさせた後、すぐに犯行に押し入った。「この現場だけは共犯者がいたのでは」と思われるが、男に共犯者がいたとは考えにくく、模倣犯の仕業だと推測する紅林。
「自分の手口を誰かに喋ったことはないか?」と男を問い質す紅林だが、男にそんな記憶はない。何とか思い出させようと犯行前の足取りをたどるうちに、10日ほど前、新宿で外人女性に誘われ、ホテルに入ったことを思い出す。女は男が風呂に入っている途中、収入印紙を奪って逃げた。特命課が調べたところ、新宿界隈で同様の事件が続発していた。女の似顔絵を作成し、その行方を追う紅林。やがて女を発見し、共犯がコイン屋だと判明。二人をマークし続けた結果、同様の犯行を働くところを現行犯で逮捕する。検察庁に送られながら「兄貴の居所をさがしてください」と頭を下げる男に、紅林はしっかりと頷くのだった。

タイトルどおり、「日本全国を旅して泥棒を続ける男」という着想のみで勝負し、他は何のひねりもありません。失踪した兄がどこで事件にからんでくるのか、ずっと待ってるうちに出てこないまま終わってしまいました。どこか憎めない犯人を演じる車だん吉がかもし出す独特の味わいも、人によっては好き嫌いが分かれるところ。模倣犯の偽装も稚拙極まりなく(男が服を着替えたらどうするつもりだったのか?)、「特命課が出動するほどの事件じゃないだろう」という不毛な感想を持たざるを得ない一本でした。