特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第317話 掌紋300202!

2007年06月05日 01時34分39秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 田中秀夫

疑獄事件の手掛かりとして、自殺した政府高官が残したノートを追う特命課。そのノートの所有者と目される大物政治家の身辺を捜索したところ、事務所内の隠し金庫が怪しい。捜査令状を用意して事務所に踏み込む特命課だが、政治家はノートの所有を否定し、金庫を開けることを拒否。金庫には6桁の暗証番号が必要な上に、午前と午後の8時にしか開かないようタイムロックが設定されており、本人が拒む限り開けることは不可能だった。
政治家から押収した文書から、政治家が人探しをしていたことが判明する。探す相手は昭和30年2月2日生まれで、手形に残された掌紋と一致する男。政治家の真意は不明だが、「この男が突破口になれば」と捜査を開始する特命課。
意外なことに、その掌紋の持ち主は叶だった。自らの出生の秘密を知り、衝撃を受ける叶。政治家が探していたのは、内縁の妻が産んだ息子だった。内縁の妻は資産家の一人娘だったが、家出してホステスに身を落としていたところを政治家に見初められた。政治家の子を身篭った彼女は、スキャンダルになることを恐れて姿を消し、生まれたばかりの子供を孤児院に預けた後で自殺した。政治家は妻が出産した病院を探し出し、そこに残されていた新生児の手形を手掛かりに、わが子を探していたのだ。
まだ見ぬ息子への愛情ゆえに自分を探していたと思い、政治家への追及をためらう叶。しかし、「息子探しの理由は、資産家の財産目当てではないか」と指摘され、政治家のパーティー会場に乗り込み、自分の手形を叩きつける。政治家は、叶を息子と認めらながらも、ノートの所有は否定し、「金のために息子を探したのか?」との質問にも答えようとしない。
その夜、叶は政治家の秘書に呼び出される。秘書は叶に「先生はノートを政界浄化のために使おうとしている」と告白。「あなたが先生の息子なら、腹を割って話し合って欲しい」と促され、政治家の事務所に向かう叶。そこでは、ノートの公表を恐れた何者かに雇われた殺し屋が潜入していた。叶に銃口を向ける殺し屋。不意に席を立った政治家を、反射的に射殺する殺し屋。飛び掛かった叶ともみ合った末に、殺し屋は窓から転落死を遂げる。
事務所の隠しカメラを調べた特命課は、そこに映っていたシーンに驚愕する。政治家が金庫を閉じようとしたとき、殺し屋は金庫内に時限爆弾を投げ込でいたのだ。爆弾は明朝8時2分にセットされている。8時ジャストに金庫を開けることができれば、爆弾はギリギリで解除できる。付近の住民を避難させた上で、神代は橘、桜井、叶とともに事務所に残り、6桁の暗証番号を推理する。
刻一刻と爆破時間が迫るなか、叶たちはそれぞれの推理を披露する。
 叶 「奴は自己中心的な男です。自分の生年月日ではないでしょうか?」
 桜井 「最後に信用するのは金だと思います。メインバンクの口座番号では?」
 橘 「奴が最も大事に思っていた日だと思います。叶、お前さんが生まれた日だよ」
 叶 「それは違う。根拠は何ですか!」
 橘 「人の親としての直感だ」
 叶 「奴は俺が撃たれようとしたスキに、自分だけ逃げようとした男だ!」
 橘 「まだ分からんのか!親父さんは、おまえを助けるために、わざと殺し屋の注意を引いたんだ!」
 桜井 「さっきの俺の意見は撤回する。橘さんの意見を支持する」
 神代 「私の考えを言っていなかったな。橘と同じ、300202だ」
神代に促され、暗証番号を入力する叶。「昭和30年、2月、2日」午前8時を迎えた瞬間、金庫は開き、爆弾は処理された。金庫の中にしまわれていた手形に、叶の涙がこぼれ落ちた。

諸事情で特捜を離れていた長坂秀佳が、約半年振りに復帰を果たした記念すべき一本。先の「面影列車」における紅林に続き、今回は叶の出生の秘密が明らかになるなど、特捜の歴史を語る上で欠かすことのできない傑作です。練りに練られた展開。ギミックを駆使したスリリングな舞台設定。つむぎ出される親子の情と、長坂脚本ならではの見所が満載ですが、なかでも白眉なのは、あらすじに記した濃密な台詞の応酬。捜査とは単なる推理ゲームでなく、深い人間洞察による真理の追求なのだと思い知らされました。
また、山内明=政治家、東啓子=秘書、天本英世=死神博士と、ゲスト俳優がわずか3名だけというのも異例で、それだけでもドラマの濃密さが分かるというものです。全エピソード中のベストに推す方も多い傑作ですが、唯一残念なのは、クライマックスの鍵となる6桁の暗証番号がサブタイトルでバラされていること。当然ながら傑作選DVDにも収録されておりますので、放送を見逃した方は是非そちらをご覧ください。