奈良新聞「明風清音」欄に月1~2回、寄稿している。先週(2024.7.18)掲載されたのは〈レストランガイド今昔〉、昨今のグルメブームを、『東京いい店はやる店』(新潮新書)を読み解きながら、振り返った。では、以下に全文を紹介する。
レストランガイド今昔
ミシュランガイドを筆頭に、私はよくレストランガイドのお世話になる。フードコラムニストの門上武司さんによると、「洋服は試着できるが、レストランの食事は試食できないからね」。確かに、初めてのお店に行くときは、「失敗しないかな」と心配する。そのリスクを低くしてくれるのが、レストランガイドというわけだ。
柏原光大郎著『東京いい店はやる店』(以下『はやる店』、新潮新書)を読んだ。〈現代日本の外食グルメの歴史を自身の体験と共に記す。70年代から始まるフランス料理の隆盛、バブルと共にやってきた「イタ飯」ブーム、内装とサービスにこだわったエンタメレストラン、グルメメディア事情、フーディーの登場、東京再開発によって活況を呈するイノベーティブレストランまで、「グルメの現代史」を総ざらい!〉(版元の紹介文)。
本書の記述は多岐にわたるが、ここではレストランガイドを手掛かりに、現代日本のグルメ事情を紹介したい。何しろ著者の柏原さんは、『東京いい店うまい店』(以下『うまい店』、文藝春秋社)の元編集者なのだ。
▼『東京いい店うまい店』発刊
レストランガイドの先駆け『東京いい店うまい店』は、1967(昭和42)年から刊行が始まった(2016年まで)。私は1977年に出た改訂新版を持っている。この頃2年間ほど、東京に住んでいたのである。
フレンチレストランなど高級店を中心に約500軒のリストのうち、私が訪ねたのは焼鳥屋など10軒程度だが、今でも記憶に鮮明に残っていて、上京のおりにふらりと訪ねる店もある。
『うまい店』の創刊後には、「すかいらーく」(1970年)、「サイゼリヤ」(73年)が1号店を出店、以後、ファミリーレストランのブームが起こる。
▼料理評論家の登場
落語評論家を自称していた山本益博氏は、1982(昭和57)年『東京味のグランプリ200』(講談社)を刊行する。〈山本さんはこの本で、店の選定基準と味の批評基準を明らかにして200店を選び、独自に格付けするという、当時はまだ誰もやったことがないことを行った〉(『はやる店』)。
山本さんは本書により、「料理評論」という分野の先駆者となった。〈彼の登場で「グルメ業界」の考え方は一気に変ったと言っていいでしょう。いまでも食メディア業界では「益博以前、益博以後」と言われるほどです〉(同書)。
▼「料理の鉄人」放送開始
1983年には漫画「美味しんぼ」が連載開始、88年には雑誌『Hanako』(マガジンハウス)が創刊され、ティラミスやナタデココがブームになる。90年には『dancyu』(プレジデント社)が創刊され、93年からは「料理の鉄人」(フジテレビ系)の放送が始まる(99年まで)。
▼ネットメディアの登場
画期的だったのが、ネットメデイアの登場だ。1996(平成8)年からは「ぐるなび」、2005年からは「食べログ」がスタートする。〈初期のぐるなびは、飲食店に対してネット時代の利便性を説く商売を始めました。簡単に言えば、飲食店向けのホームページ立ち上げサービスです〉(同書)。
その後食べログが登場。〈レビュアーの確保が重要だと考え、当時のインフルエンサーにレビュー投稿を頼みました。(中略)飲食店側に寄り添ったぐるなびと、ユーザー側に立った食べログの争いは、PV数において圧倒的に食べログが勝利し、ぐるなびは楽天グループ株式会社と2018年7月に資本業務提携契約を締結、2023年10月から「楽天ぐるなび」になりました〉。
2007(平成19)年には『ミシュランガイド東京』が刊行、12年にはテレビで「孤独のグルメ」がスタートし、今日のグルメブームを下支えする。食べログ登場から20年足らずでこのグルメブームとは、すごいなあ。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)
レストランガイド今昔
ミシュランガイドを筆頭に、私はよくレストランガイドのお世話になる。フードコラムニストの門上武司さんによると、「洋服は試着できるが、レストランの食事は試食できないからね」。確かに、初めてのお店に行くときは、「失敗しないかな」と心配する。そのリスクを低くしてくれるのが、レストランガイドというわけだ。
柏原光大郎著『東京いい店はやる店』(以下『はやる店』、新潮新書)を読んだ。〈現代日本の外食グルメの歴史を自身の体験と共に記す。70年代から始まるフランス料理の隆盛、バブルと共にやってきた「イタ飯」ブーム、内装とサービスにこだわったエンタメレストラン、グルメメディア事情、フーディーの登場、東京再開発によって活況を呈するイノベーティブレストランまで、「グルメの現代史」を総ざらい!〉(版元の紹介文)。
本書の記述は多岐にわたるが、ここではレストランガイドを手掛かりに、現代日本のグルメ事情を紹介したい。何しろ著者の柏原さんは、『東京いい店うまい店』(以下『うまい店』、文藝春秋社)の元編集者なのだ。
▼『東京いい店うまい店』発刊
レストランガイドの先駆け『東京いい店うまい店』は、1967(昭和42)年から刊行が始まった(2016年まで)。私は1977年に出た改訂新版を持っている。この頃2年間ほど、東京に住んでいたのである。
フレンチレストランなど高級店を中心に約500軒のリストのうち、私が訪ねたのは焼鳥屋など10軒程度だが、今でも記憶に鮮明に残っていて、上京のおりにふらりと訪ねる店もある。
『うまい店』の創刊後には、「すかいらーく」(1970年)、「サイゼリヤ」(73年)が1号店を出店、以後、ファミリーレストランのブームが起こる。
▼料理評論家の登場
落語評論家を自称していた山本益博氏は、1982(昭和57)年『東京味のグランプリ200』(講談社)を刊行する。〈山本さんはこの本で、店の選定基準と味の批評基準を明らかにして200店を選び、独自に格付けするという、当時はまだ誰もやったことがないことを行った〉(『はやる店』)。
山本さんは本書により、「料理評論」という分野の先駆者となった。〈彼の登場で「グルメ業界」の考え方は一気に変ったと言っていいでしょう。いまでも食メディア業界では「益博以前、益博以後」と言われるほどです〉(同書)。
▼「料理の鉄人」放送開始
1983年には漫画「美味しんぼ」が連載開始、88年には雑誌『Hanako』(マガジンハウス)が創刊され、ティラミスやナタデココがブームになる。90年には『dancyu』(プレジデント社)が創刊され、93年からは「料理の鉄人」(フジテレビ系)の放送が始まる(99年まで)。
▼ネットメディアの登場
画期的だったのが、ネットメデイアの登場だ。1996(平成8)年からは「ぐるなび」、2005年からは「食べログ」がスタートする。〈初期のぐるなびは、飲食店に対してネット時代の利便性を説く商売を始めました。簡単に言えば、飲食店向けのホームページ立ち上げサービスです〉(同書)。
その後食べログが登場。〈レビュアーの確保が重要だと考え、当時のインフルエンサーにレビュー投稿を頼みました。(中略)飲食店側に寄り添ったぐるなびと、ユーザー側に立った食べログの争いは、PV数において圧倒的に食べログが勝利し、ぐるなびは楽天グループ株式会社と2018年7月に資本業務提携契約を締結、2023年10月から「楽天ぐるなび」になりました〉。
2007(平成19)年には『ミシュランガイド東京』が刊行、12年にはテレビで「孤独のグルメ」がスタートし、今日のグルメブームを下支えする。食べログ登場から20年足らずでこのグルメブームとは、すごいなあ。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)