tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観光地奈良の勝ち残り戦略(35)成熟時代の観光振興

2010年05月21日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
先日、奈良市内で磯貝政弘氏(株式会社ツーリズム・マーケティング研究所 主席研究員)の講演をお聞きする機会があった。演題は「この時代の“旅”の可能性 ~成熟社会における旅行者ニーズと観光事業~」だった。磯貝氏は元JTBに勤務されていて、海外旅行に関する年次調査レポート「JTBレポート」などを執筆されている。印象に残ったところをピックアップしてみる。

○1997年(平成9年)を境に、日本人の時代認識が大きく変化した。
この年は、北海道拓殖銀行と山一證券が経営破綻した年である。アジアの通貨危機、ヤオハンの破綻、酒鬼薔薇事件、消費税もこの年から5%にアップした。一方で京都議定書が議決、プリウスもこの年に発売が開始された。

「ゆとり社会」に向かう流れが大きく後退、家計は右肩下がりになった。休暇も取りにくくなった(95年は平均9.5日→07年は8.3日に)。海外旅行が減った(韓国だけは増えた)。ハワイに行く人が減り、沖縄へ行く人が増えた(最近はまた減った)。大規模化した北陸の温泉旅館は苦境に。
http://www001.upp.so-net.ne.jp/fukushi/year/1997.html

インターネットの普及で情報量が増大し、何を見ても「既視感」がつきまとう。この年を境に、団体旅行から個人旅行への転換が起こり、着地型旅行商品が注目されるようになった。

→確かに奈良県への入込客数も、この年までは約3800~3700万人で推移していたが、98年以降は3600万人→3400万人→3500万人とダッチロール状態に陥った。
http://www.pref.nara.jp/kanko/toukei/

○大規模なホテル・旅館ではなく、廃屋や古民家の民宿、農家民宿などが良い。調理場のない宿(B&B)なら、町が潤う(外へ食べに出てくれる)。シャッター通りをまるごと宿にしよう。
※愛媛・石畳の宿(All About)
http://allabout.co.jp/gs/gourmettraveldome/closeup/CU20080410A/

○旅へと人を誘うキーワードは「楽し、癒し、妖し(怪し=未知との出会い)」と「遊び、学び、結び(旅先での人との出会い)」。この全てが奈良にはある(名古屋には妖しさがない)。「タモリ倶楽部」的遊び心(=日常生活の断片へのオタク的こだわり)に、注目が集まる。

「新しいものを作り出す」時代から、「今あるもの(過去にあったもの)を活用する知恵を出す」時代へ。観光事業者の役割とは、地元の「知恵」をまとめて発信するプロデューサー。

○観光の原点は、その土地の魅力(経済効果は、あくまでも結果)。沖縄の若者は、琉球の文化・生き方を探し始めた。その成果の1つが『おきなわキーワードコラムブック』である(1989年発行)。

→この本は《沖縄おもしろおかし本のベストセラーかつロングセラーの1冊です。「青い海」「珊瑚礁」「沖縄戦」とかのパターン化したイメージで語られるオキナワに、地元の人々は「なんかちょっと違うゾ…」と思っているようです。こんなわじわじーな心を晴らすべく、新城和博を中心とするその名も「まぶい組」という若手グループが、沖縄を語るうえで欠かせない事象を事典形式でまとめたものが、この本なのです》。
http://homepage2.nifty.com/ryukyuko/html/syoseki-shinjo.htm

《キーワードの項目は、たとえば「アイスワーラー」「赤まるそー」「赤馬」「あんだんすー」「いいはずよ」「いっせんまちやー」「御願不足」「A&W」「オキコラーメン」「沖縄キリスト教短期大学」「おとーり」「オヤケアカハチ」などなど、統一性なくあらゆるジャンルから集められています》。

○韓国ブームは、グルメ、ショッピング、エステだけではない。明洞(ミョンドン=ソウルの中心部)を毎月訪ねる日本人女性がいる(1泊2日で2万円というツアーがある)。ハングルの看板、庶民の生活シーン、異国情緒が「癒し、妖し」になる。
※参考:明洞(All About ソウル)
http://allabout.co.jp/gm/gc/39961/

明洞-ミョンドン -ソウル Seoul-

 
○徳島県美波町には漁師と海女が運営するカフェがある。
http://www.izarijin.jp/modules/contents/index.php?content_id=20

海陽町の宿「遊遊NASA」は、「魚のセリ市参加宿泊プラン」を作った。
http://www.uu-nasa.co.jp/

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○インターネットとマスメディアの相乗効果で、全く新しい(とんでもない)観光資源が出来上がる。
(例1.)埼玉県鷲宮町の鷲宮神社:漫画「らき☆すた」で、アニメおたくの聖地になった(アニメのオープニングシーンに使われたことから)。

07/12/5 テレ玉 ニュース930 鷲宮神社


(例2.)ブログ「メレンゲが腐るほど恋したい」が火をつけた「ブサかわいい秋田犬・わさお」で、青森県鰺ヶ沢町が人気に。ブログが発信し、マスメディア(天才!志村どうぶつ園)が広め、ブログが深化する、という流れ。
http://d.hatena.ne.jp/mereco/20080526/p1

ブサかわいい犬!秋田犬『わさお』!


○奈良の観光では、宿泊施設が少ないことを「希少価値」として売り込むべき。騒ぐなら京都・大阪。夜の若草山、奈良公園の森など、奈良の「静かな夜の過ごし方」を提案しよう。

→ざっと、お話の要点は以上である。磯貝氏は「奈良を訪れるのは(1988年に開催された)シルク博以来」というだけに、奈良の観光に関する提言に新鮮味はなかったが、97年から観光の潮目が変わったことや、ネットとテレビの相乗効果の話などは、参考になった。
奈良は、トリビアやアニメなどのサブカルチャーをうまく活用できていないが、このあたりに新たな活路が見い出せそうだ。

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2 コメント

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楽し、癒し、妖し(怪し=未知との出会い)」 (あをによし南都)
2010-05-22 08:37:26
「楽し、癒し、妖し(怪し=未知との出会い)」はごもっともです。
奈良はこの点独自の雰囲気が抜群です。
今井町やならまちなどはまさにそうですね。
もっともプラハやウィーン、イタリアの地方都市も夜の雰囲気は質的には同じでアジア一、世界一を目指すにはあと一歩です。
電柱柱、自動販売機、たまに放置してある路上駐車や最近は良くなりつつありますが看板など地道に問題解決しないといけない基本的な課題はまだまだです。
多少の一時的な地域住民の不便を強いてでも長期の展望を踏まえ、実行できるかどうかで奈良の器としての完成度は高まる余地が大かと。やはり中途半端はいけません。
今年はメディアも応援してくれているかもしれませんがこの流れを本当に持続的にするためにはもっと奈良は奈良らしい方向に変化しないといけないかと。
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観光立県 (tetsuda)
2010-05-23 07:47:58
あをによし南都さん、コメント有り難うございました。

> 「楽し、癒し、妖し」はごもっともです。
> 奈良はこの点独自の雰囲気が抜群です。

いよいよ五條の新町通も、重伝建に指定されるという噂を聞きました。嬉しいです。

> この流れを本当に持続的にするためにはもっと
> 奈良は奈良らしい方向に変化しないといけないかと。

5/17の日経に、アレックス・カーさんが書いておられました。《大きな問題点は、自然を不便で危ないものととらえ、自然を制圧することが近代化、発展と考えているところにあります。石が落ちると危険だといって山をコンクリートで覆ったりするのがいい例です。自然をアタック(攻撃)する日本の技術は欧米諸国よりはるかに進んでいます。かつて山紫水明といわれた国土が今どうなっているかその目で確かめてほしい。自然を制圧する技術を駆使した公共事業によって景観がどのように変えられているかを見て、悲しんでください》。

そして《観光立国を目指す日本で、観光地まで目をつぶって行かねばならない》という言葉で締めくくっておられました。この素晴らしい奈良は、良いお手本にならなければいけませんね。
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