tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

「観光による地域活性化」by 南都経済研究所・秋山主任研究員/観光地奈良の勝ち残り戦略(133)

2020年09月16日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
力のこもったレポートを読んだ。一般財団法人南都経済研究所が発行する「ナント経済月報」(2020年9月号)に載った特集「観光振興を地域活性化につなげるための方策~奈良県観光の今後の方向性をデータ分析により考察~」で、執筆されたのは課長・主任研究員の秋山利隆さんだ(レポートの全文は、こちら)。10ページもの堂々たるレポートだが、最後の2ページ分が「まとめ」になっていて、これは親切だ。以下、「まとめ」から忠実に抜粋する格好で、レポートの要点を紹介しつつ(青字部分)、私もコメントをつけ加える(黒字部分)。

これまでの分析結果等をもとに、奈良県が目指すべき観光地としてのあり方について考察する。
まず前章の第一の方法「観光客数の増加」である。
「観光客数の増加」はコロナ前には三つの方法の中で最も達成が容易であったが、うまくいかなくなった時の痛手が大きく、また観光公害など地域の社会問題への配慮も必要となるだろう。

短期的な利益にとらわれず、地域における適正な観光客数の受け入れを目指すとともに、その数の範囲内で地域経済を効率よく活性化させる施策が求められる。


インバウンド需要を当て込んでオープンしたホテルが、コロナ禍で苦戦している。奈良市の東向商店街でも、ドラッグストアが次々と姿を消した。観光は「平和産業」と言われる。逆にいうと「有事」には弱い。事業計画は「バラ色」一色ではいけないのだ。

その方法が前章の第二、第三の方法である。まず第二の方法「観光消費単価の増加」である。観光消費単価は宿泊客であるか日帰り客であるかによって大きく変わる。これには宿泊費とともに夕食が大きく影響しており、宿泊客の増加とあわせ夜のイベントの開催が検討される所以である。

「奈良のナイトライフを充実させればよい」との考え方が一部にある。それも自然な意見ではあるが、夜の楽しみは観光客だけのものではなく、企業活動や日常生活における需要も取り込み成り立っている。奈良の経済規模を考えると大阪、京都のような賑わいを創出することは難しく、また観光客に依存すると宿泊施設と同様、有事に対して極めて脆弱となる。

奈良にとっては奈良らしさが強みである。奈良の文化・自然遺産に関心を持ち、「静けさ」「やすらぎ」といった価値観に共感してくれる観光客を大切にすることが、中長期的な視点から観光消費単価を増加させることにつながる。奈良は決して「小大阪」「小京都」になってはならないのである。


私は過去に7年間(1994~2001年)、京都市内(烏丸御池)の事業所で仕事をしていた。夜にはよく同僚と四条河原町などの飲食街に繰り出したものだが、そこで気づいたことがある。飲食街で飲み食いしている人は、観光客より京都市内で勤務する人たちのほうが、ずっと多いのだ。これは以前に金田充史さん(もと魚佐旅館専務)も指摘されていたことだ。奈良市内で勤務する人は多くない。奈良のナイトライフを充実させるには、奈良市民のパワーが足りないのである。

次に第三の方法「県内自給率の改善」について考える。観光地の宿泊施設において「地産地消」は最大のアピールポイントである。

全国の観光客にとって奈良に海がないことは周知の事実である。夕食に新鮮な魚介類を期待して奈良に来る人はまずいない。奈良ならではの山の幸や食文化に、県産のブランド野菜・肉、日本酒・クラフトビールなどを組み合わせて提供できれば、観光客を満足させるとともに、県内自給率を改善できる。

宿泊施設の売店では奈良の特産品である奈良晒(さらし)や木工製品等がまとめて展示され、地場産業としての歴史も説明されている。県外産品の代わりにここで販売されている土産物を観光客に購入してもらうことは、県内自給率の改善につながることはもちろん、観光客が土産物を使用する際、奈良の地場産業への思いを巡らすこととなり、新たな奈良ファンの創出にも役立つ。
 
その他、県内自給率の改善に資する取組として地域商社の設立、6次産業化などが考えられる。これらは国の地方創生への取組みと連動し、全国で進められているが、すぐに成果の出る取組ではない。官民協働でできるところからスタートさせ、観光振興に貢献し、地域経済の底上げを図っていければと考える。

マイケル・E・ポーターは、「ある特定の分野に属し、相互に関連した、企業と機関からなる地理的に近接した集団」をクラスターと定義している。クラスターでは、各産業が標準産業分類の枠を越えて技術、スキル、情報、マーケティング、顧客ニーズをもとにつながり、大きな競争力やイノベーションを生み出すという。

観光関連産業は各地域でクラスターを形成しているといえるが、今後はそのクラスターの競争力が観光地としての成功を左右するであろう。そして、その勝者はウィズコロナ、アフターコロナにおいて、観光客にこれまで以上の付加価値を提供し地域経済を牽引していくものと考える。 


以前、藻谷浩介氏をお招きして、奈良市内でシンポジウムを開催したことがある(2018.1.25)。藻谷氏は(あえて「地産地消」をひっくり返して)「地消地産が大事です」と強調された。観光客や地元民など、地域で消費されるものは地域内から調達する。分かりやすい例として「大阪のたこ焼きは地消地産になっていない。小麦粉はオーストラリア、タコはモロッコから調達している」。



レポートには、こんな表が登場する。「地域経済循環率」とは、生産(付加価値額)÷分配(所得)で、地域経済の自立度を示す。この値が高いほど自立度は高い。奈良市は85.9%で全国で46位にとどまっている。地域外に生産物を販売し収益を稼ぐ力が弱く、市民が地域外から稼いだ給料や国の交付金で地域経済が回っていることを表している。逆に工業の盛んな和歌山市は、124.8%で全国3位である。

秋山さんが観光について書く「県産のブランド野菜・肉、日本酒・クラフトビールなどを組み合わせて提供できれば、観光客を満足させるとともに、県内自給率を改善できる」は、まさにそのとおりである。

「観光関連産業は各地域でクラスターを形成しているといえるが、今後はそのクラスターの競争力が観光地としての成功を左右するであろう」もそのとおりである。同じ観光地内で業者同士がいがみ合っている場合ではない。行政と手を携えて、地域が一丸となって地域を盛り立てなければならない。

示唆に富んだレポートだった。秋山さん、今後ますますのご活躍を大いに期待しています!
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