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田中利典師の『吉野薫風抄』白馬社刊(6)/悪因悪果・自業自得の結果

2022年06月23日 | 田中利典師曰く
田中利典師の処女作にして最高傑作という『吉野薫風抄 修験道に想う』(白馬社刊)を、師ご自身の抜粋により紹介するというぜいたくなシリーズ。第6回の今回は「神仏は罰を当てるか」。毎年7月7日に営まれる蓮華会蛙飛び行事に寄せて書かれた文章だ。

仏法を罵ったため仏罰を蒙った男が蛙にされたが、それが読経の力で人間に戻されるというストーリーであるが、その「仏罰」についての考察である。師のFacebook(4/27付)から転載する。なお今年の蛙飛び行事は、ほぼ例年通り行われるようだ(金峯山寺のHPは、こちら)。
※トップ写真は、吉野山中千本付近で撮影した若葉の吉野山(2022.5.20)。

シリーズ吉野薫風抄⑥/「神仏は罰を当てるか」
御本尊金剛蔵王権現様の御威徳は広大なものである。我々などがとうてい測り知ることが出来ないほど偉大で、大きな力をお持ちであると思う。しかしながら、そのお膝元である本山に居て、あまりに近しくお給仕させて頂いていると、時にその勿体なさを見失っていることがある。口ぐせになるが、愚かな人間というのは本当に愚かなものだ。

ところで、「神仏は罰を当てるか」ということについて考えてみたい。誤解を恐れずあえて言うなら、神仏は罰など当てるはずがない、と私は思っている。罰を当てるなどというような報復まがいのことは、あまりに人間臭い人間的なことであり、人間が考え出したものの一つであろう。

といって、神仏の罰が存在しないと言うのではない。例えば、広大無辺なる蔵王権現様のお徳に浴していながら、そのお徳に対して、ないがしろにするようなことを続けていれば、うまく行くはずがなかろう。

しかしそれは蔵王権現様がお怒りになって罰を当てるというようなことではなくて、忽体ない勝縁を得ながらも、その勝縁に対して何の報いることなく、ないがしろにした自分自身の行為が悪因となって、悪い結果をもたらすだけのことである。悪因悪果、自業自得の結果であって、神仏があいつは憎らしい奴だからと、恨みを以って行なわれたことでは有り得ないのである。

神仏は全ての衆生を慈しんでおられ、許しておられる。いや、一切衆生の全てを許せる存在こそが神仏なのである。一つ一つのやることなすことに、一々罰を当てるような神仏は、本物の神仏ではない。神仏というと誤解があるならば、正しい信仰者が頂くご本尊ではない。正しい信仰における御本尊とは、全てをお許しになる広大無辺なるお徳を備えた方なのである。

では仏罰など存在しないのかといえばそうではない。ここで仏教は方便という言葉を使う。正しく導くための手立て、というような意味であろうか。俗にいう神仏の罰というのはこの方便を以ってしてのことであろう。正しく導くための手立てとして、時には神仏から我々に対して警鐘としての仏罰が下される場合もあるのである。

今年も梅雨あけの時候を迎え、本山の伝統行事・蓮華会蛙とびの季節が来た。大青蛙が登場する、天下の奇祭・蛙とび行事である。ところでこの蛙、伝説によると仏法を罵ったため仏罰を蒙った男のなれの果ての姿であるとされているが、これも方便でいう所の仏罰であろう。

本当はその男自身の、悪因悪業の報いであったに違いないのである。そしてそんな男の罪をも許して、元の人間におもどしになったのが権現様のお徳なのである。

今に伝わる説話の中に、御本尊の真のお徳を見失うことのないよう、信心堅固にありたいものであると思っている。毎年の蛙とび行事であるが、私はこんな想いで出仕させて頂いている。

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コロナ禍に陥り、2年半。その間、全国での寺社の行事の自粛が続いていたが、この春くらいからは少しずつ平常時にもどそうという流れがでているように思います。祇園祭の山鉾巡行も今年は行われるとか。

金峯山寺の年中行事はコロナ期間中も中止にすることなく、「御供撒き」など、一部、人が集中するような催しは変更などされたとはいえ、間断なく継続されてきたが、やはり参拝者が激減して、賑わいのないこととなっていた。まだ少し先の話であるが、今年の蛙飛びは盛り上がって貰いたいものである。

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私の処女作『吉野薫風抄』は平成4年に金峯山時報社から上梓され、平成15年に白馬社から改定新装版が再版、また令和元年には電子版「修験道あるがままに シリーズ」(特定非営利活動法人ハーモニーライフ出版部)として電子書籍化されています。「祈りのシリーズ」の第3段は、本著の中から紹介しています。よろしければご覧下さい。なお、Amazonにて修験道あるがままに シリーズ〈電子版〉を検索いただければ、Kindle版が無料で読めます。
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