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tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

万博も開幕し、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

昨年、奈良県を訪れた外国人客は 3割減! 観光地奈良の勝ち残り戦略(58)

2012年04月27日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
もやもやとして頭から離れない新聞記事がある。4月24日付の奈良新聞1面トップに出ていた「昨年の県内 外国人の訪問激減 大震災など要因」「県、中国人軸に挽回図る」という記事である。「3.7ポイントの大幅減」「41万人減」「減少率は日本で5番目」「49,600人減」とずらずら並べられた数字も気になる。なぜもやもやしているかというと、「大震災」は東北の話だし、なぜ「中国人」が軸なのか、41万人と49,600人の関連性は何なのか、さっぱり分からないからだ。1面トップに載せるからには、ちゃんとした裏付けデータがあるのだろうか。記事の全文を以下に掲載する。
※トップ写真は春日大社で4/8に撮影。ドイツ語で案内されていた

観光庁が発表した昨年のわが国への外国人の訪問率データから、県は3・8%で前年(7・5%)に比べ3・7ポイントの大幅減となったことが分かった。全国の訪問客数から推計した県への外国人訪問客数は前年比41万人減の23万6千人。昨年3月に発生した東日本大震災の影響などが減少の要因に考えられる。県は中国人を中心に観光客誘致に力を入れ、落ち込みの挽回を図っている。

訪問率とは、日本を訪問した外国人への調査回答者のうち何%が当該地域を訪れたかを示す率。昨年の標本数は2万5744。1~3月は日本政府観光局(JNTO)が、4~12月は観光庁が調査を実施した。県は全国順位でも昨年の11位から12位に後退。減少率では東京都や京都府などに次いで5番目だった。また、県独自に実施する県内主要観光案内所での定点調査でも4万9600人減少し、外国人観光客の落ち込みを裏付けている。

県国際観光課は、東日本大震災の影響による全国的な減少▽平成21年の平城遷都1300年祭の反動▽調査実施機関の変更―などを減少要因に分析。昨年実施した外国人観光客向けパンフレットのリニューアルなどの効果を検証しつつ、新たな誘致策も検討。中国人が宿泊すると3年間有効な数次査証(マルチビザ)を取得できる、沖縄県と連携したツアーづくりを模索する。

また、従来の中国、韓国、台湾、香港、フランスに加え、新たにタイとオーストラリアを重点国・地域として観光客誘致を図る予定だ。県国際観光課は「中国人観光客にとって奈良は歴史や文化で有名だが観光地のイメージがない。関西国際空港から約1時間の利便性の良さも訴えたい」としている。


どうやらこの記事は県の発表をモトにしているようなので、県国際観光課のホームページを開いてみた。すると「平成23年奈良県への外国人訪問客数(推計)について」という「新着情報」が出てきた。これをもとに、以下にきちんと検証してみよう。

1.訪日外国人の訪問率は減少し、全国順位も下がった
訪日外国人の奈良県への年間訪問率は6.2%・全国順位11位(2009年)、7.5%・11位(2010年)、3.8%・12位(2011年)と推移した。これが記事の見出しにあった「3.7ポイントの大幅減」(10年比)である。それなのに全国における順位が1つ繰り下がっただけで済んだのは、全国的に訪問率が下がっているからである。全国の年間訪問率は230.3%(2009年)、248.3%(2010年)、204.9%(2011年)と推移した。

2.訪問率の減少幅は、例年に比べて△約30%(2010年と比べて△約37%)
奈良県への訪問外国人客数は、421千人(2009年)、646千人(2010年)、236千人(2011年)と推移した。記事にあった「41万人減」は、この数字である。率にすると△43.9%(09年比)、△63.5%(10年比)となる。4~6割減とは、穏やかでない(なお、1300年祭のおかげで10年は09年に比べ、訪日外客が53.4%も増えていたのだ!)。

しかし全国への訪問外国人客数も、6,790千人(2009年)、8,612千人(2010年)、6,219千人(2011年)と推移している。これは△8.4%(09年比)、△27.8%(10年比)である。特に2010年比での落ち込み幅が大きい。やはり震災が影響したのだろう。

問題は「全国的に減っている中で、奈良県がどれだけ減ったのか」であるから、「訪問率の全国シェア(全国の訪問率に占める奈良県への訪問率の割合)の推移」を見るのが、最も妥当なバロメータになる。すると2.7%(2009年)、3.0%(2010年)、1.9%(2011年)となり、それぞれ△29.6%(09年比)、△36.7%(10年比)である。1300年祭のあった2010年との比較は酷なので、通常の年である2009年と比較すべきであり、すると「約3割減」ということになる。これが2011年の実態である。 

なお、記事に「県独自に実施する県内主要観光案内所での定点調査でも4万9600人減少」という全く別個の数字が出ている。県のHPを調べると、これは「奈良県における主要観光案内所での外国人観光客案内実績の推移」というでデータであった。奈良市内5か所の案内所での「SGG及びEGG案内所での外国人観光案内実績」である(要するに「奈良市内5か所での外国人応対実績」だ)。もともとのサンプル数が少ないので、これを観光庁データと並べるのは無謀である。それを無視して「41万人減」と「4万9600人減」を並べては、読者が迷うだけである。こういう調査はパーセンテージだけ見れば足りる。すると2011年は△23.9%(09年比)、△39.0%(10年比)と、観光庁調査とよく似た傾向になっていることがわかる。

3.2011年の調査にはバイアスがかかっている可能性があり、鵜呑みにするのは危険
記事に「調査実施機関の変更―などを減少要因に分析」とある。これは、従来JNTO(日本政府観光局)が手がけていた調査が、政府の行政刷新会議による事業仕分けのため、観光庁に移管されたということである。「観光庁に移管されたから、より精密な調査になる」というのは逆で、観光庁は民間業者に調査を再委託するので荒っぽくなった可能性がある、ということなのだ。全国の年間訪問率で230.3%(2009年)、248.3%(2010年)、204.9%(2011年)と、10年と11年の開きがあまりにも大きいのは、そのせいかも知れない。

4.中国人富裕者向け「沖縄マルチビザ」なんか、奈良観光の切り札にはならない
県国際観光課のコメントに「数次査証(マルチビザ)を取得できる、沖縄県と連携したツアーづくりを模索する」とあり、「沖縄マルチビザ」に言及している。これは《中国人の観光客を増やすため、外務省が7月1日から新たに発給しているビザの通称。中国人の富裕層(年収約25万元/日本円で300万円強)を対象とし、1度の発給で3年以内なら何度でも日本に訪れることができ、1回の滞在は最長90日間。年間では180日間までで、初回の滞在時に最低1泊以上、沖縄県内で宿泊しなければならないという点が義務付けられている。中国人にも人気が高い観光地である沖縄を起点に、もっと多くの中国人観光客を訪日させようという狙いがある》(週プレニュース)という代物である。沖縄に泊まりに来る観光客を奈良へ、という淡い期待であるが、距離的にも遠すぎるし、観光目的が違いすぎる。リゾートや買物が目的の中国人観光客が、奈良の歴史遺産にさほど興味があるとは思えない。
                   
県下では、中国人観光客の誘致に期待する声が高いが、私には理解できない。海外へ旅行したいという中国人のうち、日本へ行きたいと希望する中国人は、わずか1%、という調査結果を耳にしたことがある。しかも訪日中国人の最大の観光目的は「ショッピング」だ。日本政策投資銀行のレポートによれば、日本に来た中国人の訪問地は、大阪府が47.9%、京都府が34.3%なのに、奈良県はわずか3%程度である。むしろ奈良の自然や歴史遺産に関心の高い欧米人こそ、観光ターゲットにすべきではないか。

2011年は、奈良を訪れた外国人観光客(訪問率シェア)は、通常年(09年)に比べて約3割減った。10年は約5割も増えていた(09年比)のに、これはとても残念なことである。さまざまな外部要因(震災、円高、調査機関の変更など)があったにしても、全国順位が下がったことは事実であり、減少幅も全国で5番目に高かった。これでは訪日外国人客誘致の努力が足りなかったといわれても、仕方がない。今後は、県国際観光課が新たに制作したパンフレットなどを活用し、また近隣府県などと連携し、官民あげて欧米をはじめとする外国人観光客の誘致に取り組まねばならない。

以上が私の結論である。あぁ、スッキリした!
コメント (2)
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