テスラ研究家・新戸雅章の静かなる熱狂の日々

エジソンも好きなテスラ研究家がいろいろ勝手に語っています。

父の遺言

2008-03-02 20:53:03 | Weblog
 父の一周忌の件で親戚一同に電話する。早いものだ。
 父が89歳で亡くなったのは昨年の3月21日。死因は急性心筋梗塞だった。
 15年ほど前、心臓の大手術を乗り越えた後は元気に過ごしていたが、最後の数年でその心臓のほか、腎臓、肝臓などに不具合が見つかり、亡くなる2年ほど前からはほとんど寝たきりの状態が続いていた。覚悟はしていたが緊急入院して一週間後、最後はほとんど苦しまなかったのがさいわいだった。
 とはいえわたしのような半端者には親の死はこたえた。甘い親で息子のわがままを許しくれる一方、長男として期待もしていたと思う。その期待にほとんどこたえられなかったばかりか、最後まで心配のかけどうしで見送ることになった。
 亡くなる少し前、父の夢を何度か見た。現実には寝たきりの父だったが、夢に出てくる父は不思議と元気な頃の姿ばかりだった。家業は父が始めた洋品屋だったが、商売をしている場面はまったく出てこなかった。たいていはのこぎりや金槌をもった父が家の中でなにかをつくったり、塀や家のまわりを修理をしたりしていた。
 桶屋の長男に生まれた父は海軍にはいって家業は継がなかった。それでも子供の頃から祖父を手伝っていたおかげでカンナやノミをよく使った。その父の大工仕事の手伝いをするのがわたしは好きだった。たとえ夢の中でも元気に道具を使う父の姿はうれしかったし、一家を支えてくれていることを実感させてくれた。
 亡くなる直前に見た夢では、父は布団に寝ていた。といっても、まだ元気な頃の父で、寝ている部屋も以前住んでいた旧い店舗併用住宅の居間だった。わたしが長い昼寝からさめて階下へ降りていくと、寝ていた父がわたしを見上げて「もう11時だぞ」とひとこといった。柱時計を見ると針が11時を指し、外は真っ暗闇だった。
 ああ、こんなに寝てしまったのか。夢の中でも12時が自分の時間の終わりだとわかった。あと1時間でなにができるだろう。なんでもっと早く起きられなかったのか。後悔のうちに目がさめた。
 父は最後までなにも言わなかったが、夢の中でのんびり屋のわたしをいましめたにちがいない。気づくのが遅すぎるといわれればそれまでだが、今はその言葉を父の遺言だと思ってかみしめている。


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