テスラ研究家・新戸雅章の静かなる熱狂の日々

エジソンも好きなテスラ研究家がいろいろ勝手に語っています。

テスラ、リターンズ

2006-12-06 00:33:44 | Weblog
 いくら好きなものでも食べ過ぎれば腹にもたれる。今年のテスラがそうだった。夏から秋にかけてテスラ、テスラで暮らしたら、生誕記念イベント終了後、少しテスラから遠ざかりたくなった。それに夏バテ、別のイベント、たまっていた仕事などが重なって、HPやブログの更新からも遠ざかった。
 しかし好きなものは結局やめられない。ここ数週間、合間を見てテスラの論文”Problem of Incresing Human Energy”の翻訳を開始している。

 1900年に雑誌「センチュリー」に発表されたこの大論文は、モルガン財閥の支援をえるきっかけとなった論文である。テスラはこの前年、コロラドスプリングズで無線の可能性を検証する大規模な実験を行った。その成果をもとに新しい発明とアイデアを発表したのがこの論文だった。
 テスラの意図が、投資家へのアピールにあったことはいうまでもない。とくに力を入れているのが、無線通信と無線送電(無線による電力伝送)である。理論と実験に裏付けられたテスラの主張は自信にあふれ、まぢかに迫った無線時代の予言書という趣すらある。

 それとあらためて感心させられたのが、全編を貫く自然エネルギー学とも呼ぶべき視点である。自然に存在するエネルギーをいかに効率よく引き出し、人間の利用に供するか。彼の発想の根幹はこれにつきる。交流電力システムも当初から水力という自然エネルギーの利用を目したものだったし、無線電力システムも周囲の媒体を利用してエネルギーを取り出すという発想と表裏をなしていた。
 さらに進んで本論では太陽エネルギーをはじめ、風力、潮汐力、地熱などのエネルギーも詳細に検討している。

 オカルト関係者の間では、テスラに関連して無限エネルギーとかフリーエネルギーと呼ばれる未知のエネルギー源がよく取り上げられてきた。そこにテスラの発明の本質があるかのように。
 たしかにテスラは周囲の媒体からエネルギーを取り出すことにこだわった。だが、それも彼にとっては自然エネギー利用の可能性のひとつにすぎなかった。あらゆるエネルギー形態の理論的・実用的可能性をさぐり、研究・実験を重ね、発明に結びつける。この点ではフリーエネルギーも交流電力システムや無線送電システムも同列なのである。
 特定のエネルギー形態に傾いた議論は、自然エネルギー利用の祖としてのテスラの全体像を覆い隠すおそれがある。

 エネルギー問題のほかにも本編には、ロボット、無線操縦、航空機、惑星間通信、レーダーなど刮目すべきアイデアが満載である。当時の主力資源だった石炭利用に関連して資源の枯渇に言及しているのもさすがである。
 ただしそのテスラにも、時代の限界は刻印されている。潮汐力など、今日では有力と見られている自然エネルギーの技術的評価がそうだし、現在はエネルギー問題と対をなす環境問題に対する言及もほとんどない。もっともレイチェル・カーソンからさかのぼること半世紀以上前の話ではあるが。
 底流に流れる科学進歩主義も、今の目からは楽天的過ぎると映るかもしれない。

 それらをふまえても、一個の物理現象の発見が、たちまち全地球、さらには地球外まで及ぶその気宇壮大な発想は21世紀になってますます新鮮である。その発想のエッセンスを伝える本論文の翻訳出版は、新しいテスラ像を探るうえでもきわめて有益と思われる。できるだけ早い機会に出版し(また、自費出版になるかな)、多くの読者、研究者の利用に供せられるようにしたいと思っている。