よむよま

よむ・よまない、それから。

猿若祭・籠釣瓶

2024-02-20 22:42:23 | 見る
猿若祭二月大歌舞伎昼の部を2月19日に見てまいりました。
一階席・二階席・三階席、ほぼ埋まってた!久しぶりに見た光景!やはり兄弟による籠釣瓶が眼目ってことなのかな。

一番目は「野崎村」
 ヒロインお光は鶴松くん。自分の婚礼用になますを作ろうと大根を切りながら、久松と結婚できるうれしさがあふれる可憐な振る舞いが、登場最初の見せ場ですが、あんなにずっと、ほんとうに大根を切っているお光は初めて見たような気がする。たいがい、しぐさと音だけじゃない?鶴松くんは、1センチ幅ぐらいに切って、それを四角くしたのをざらっと倒して並べてから千切りにしてたんですよ。
 いや、しかし、まじめな話、とてもいいお光でした。素朴で健気で、ちいさくてクルクル動いてかわいい。ちゃんと、一つの作品の主役が務まっていました。幕切れ、父親の彌十郎さんにすがりついて泣く姿に泣かされました。
 お染を児太郎さん(やっぱりデカイのよ)、久松を七之助。この二人、逆の配役のほうがよかったのでは?見た目の問題。

切なく泣いたあとは、狂言舞踊「釣女」で気を取り直す。いいテーマの作品とは言えないだろうけど。
 獅童さん萬太郎さん新吾さんが踊っている中に醜女役の芝翫さんが登場すると、あ、この人、踊りうまいんだな!と思いますね。やっぱりあの芝翫さんの息子なのね。

三番目が「籠釣瓶花街酔醒」
 チョンパ!で幕が開くと花の吉原。次郎左衛門の勘九郎さん、下男の橋之助くんたちが登場し、花魁道中に行き会う、発端の場面。勘ちゃんは、歩くのがイヤでお年玉のお金でタクシーに乗って通学してたような都会のお坊ちゃまなのに、こういう田舎の実直な篤実な、そしてそれがかわいげに見えるような人物、ぴったりなんだよね。なんでこんな自然にできるのか。作ってる感じがない。
 そういう人物が、うっかり出会ってしまった美女に一目惚れして、吉原に通うようになります。道中をする花魁、一人目の七越花魁は芝のぶさんがやっていて、しっとり美しかったわ!二人目は児太郎さん、座敷の場でも活躍する九重花魁。真打ちの八ツ橋は七之助さん、次郎左衛門が自分に見とれているのを見て笑う(のかな?これは諸説あるようですが)笑いの演技が、わりとはっきりプライドやビジネスの感触があった感じだった。
 八ツ橋の間夫・栄之丞を仁左衛門さんがやっていて、「七之助くんに合わせて若返らなきゃ」とおっしゃっていますが、全然大丈夫です。甘ちゃんでクズ男でやたらとイケメンです。
 勘九郎さんの次郎左衛門はわりと理知的な感じかな。ばかみたいにのぼせ上ってるというより、純粋にうれしくてしょうがない。縁切り場の終りごろにはすでに「殺す」と決意しているようで、終幕の殺し場で、八ツ橋と二人きりになったあたりでは、別人というか、モンスターになっているように見えた。
 次郎左衛門は、商売仲間二人を連れて吉原に来ている。道すがら、八ツ橋がどんなにいい女か、もうまるで女房気取りで自分に接してるか、のろけ放題自慢たらたらでやって来ている。仲間たちは、こんなあばた面の田舎者がそんなわけあるか?と思いながらついて来ている。そして、あの縁切りである。身請けをお断りしますというだけではない、あなたと話すと頭痛がする、もう顔も見たくない、二度と遊びにも来ないでくれと。
 なだめようにも、この場だけやりすごそうにも、隠しようのない愛想尽かしだ。二人の商売仲間があきれ返って、やっぱりこういうことか!と馬鹿にして、座敷を変えてパーッと騒ごうと出て行ってしまう。これはもう、恋だの愛だののもつれではなくなっていて、次郎左衛門という男がこれまで地道に積み上げてきた商売の信用も、地元の名声も、すべてを失ったということなのだと思う。それを強く感じたのが、私が一番印象に残っている吉右衛門さんの次郎左衛門。
 勘九郎さんは吉右衛門さんとはまた違うけど、すごくいい役者になってきたんだと思いますね。ちょっと前までは、踊りは凄いけど、芝居はまだって感じだった。
 今回、予想外によかったのが、七之助さんの八ツ橋。揚巻と八ツ橋は女形の頂点らしいけど、七之助さんは揚巻よりこっちのほうがよかった。揚巻は強く張ると男になっちゃう感じだったのよね。どんなに強く張っても「女王様!」でないといけないから。私が一番印象に残ってる八ツ橋は歌右衛門さんだけど、七之助さんは玉三郎よりも歌右衛門寄りかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする