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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ジェイン・オースティン/秘められた恋

2010年04月11日 | 映画(さ行)
自由や自立の機会を奪われた女性の叫び



                 * * * * * * * *

19世紀イギリスの女流作家、ジェイン・オースティンの知られざる恋の物語。
私にとってジェイン・オースティンは大好きな映画、「プライドと偏見」の作者。
この作品を見ると、その原作「高慢と偏見」は、
かなり著者の実生活や思いが反映されている作品だとわかります。

彼女の作品全般に流れていることは、当時の社会の中で、
自由や自立の機会を奪われた女性の叫び。
時には、自分の身ならず家族の生活をも支えるために、
望まぬ結婚もしなければならなかった。
女性が職業を持つことも無ければ、
この映画の中でも語られているように、女性の理知はあってはならないもの。
あっても隠さなければならなかった・・・。
このような中で、真に愛する人と結ばれるなどと言うことは大変に難しかったのでしょうね。
そのような時代の中で、彼女のように生きた女性が居るというのはほとんど奇蹟です。
しかし、当時の女性の胸の奥底の思いを表現したからこそ、
今にも読み継がれている訳なのでしょう。



ジェインの家族は「プライドと偏見」の“エリザベス”の家族とよく似ています。
田舎の貧乏貴族。
やや行き遅れのジェインは、お金のためにある結婚を勧められるけれど、
その相手はどう見てもパッとしなくて、とても結婚する気にはならない。
そんなところへ、ジェインの知性をしっかりと受け止め、
時には口論さえしてしまう男性が現れる。
何とも気に入らない嫌なヤツ…という印象が次第に愛情へ変わってゆく。

“エリザベス”のそんな相手、“ダーシー”はとてつもない資産家でしたが、
ジェインの実際の相手トム・ルフロイは、無一文。
叔父の援助でやっと生活していたのです。
愛だけでは生きていけない。
いつか生活に疲れて、お互いを憎むようになるのでは…?
現実には抗うことが出来なかったジェインですが、
だからこそせめて、物語の中では幸せな結末を用意したのかもしれませんね。
お互いを強烈に意識しあうダンスのシーンがすばらしいのですが、
これも「プライドと偏見」のダンスシーンを彷彿とさせます。



アン・ハサウェイの大きな目は、理知的で好奇心に満ちたジェインにぴったりです。
ジェームズ・マカボイも、ステキですね~。
ちょっぴり皮肉やでやんちゃ。
無謀でもありまた、一方繊細でもある。
こういう複雑さをうまく醸し出しています。


この作品を見て、ますますジェイン・オースティンのファンになってしまい、
そしてまた「プライドと偏見」が見たくなってしまいました。

2007年/イギリス/120分
監督:ジュリアン・ジャロルド
出演:アン・ハサウェイ、ジェームズ・マカボイ、ジュリー・ウォルターズ、ジェームズ・クロムウェル、マギー・スミス


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「楽園」鈴木光司

2010年04月10日 | 本(その他)
ヒトを突き動かす「思い」のすごさ

楽園 (新潮文庫)
鈴木 光司
新潮社

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              * * * * * * * *
 
鈴木光司といえば「リング」、「らせん」などホラー作品を思い浮かべます。
けれど、この作品は氏のデビュー作にして日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。
ちょっと意外な感じですが、
鈴木光司を語る上では外せない作品かと思います。


物語は3部構成。
まずは太古のユーラシア大陸、砂漠。
そこに住む愛し合う男女が引き裂かれてしまう、
プロローグとなるストーリーです。
片や、北へ北へと進みベーリング海峡を渡って北アメリカへ至る。
もう片方は、北の道は閉ざされたと知り、
かすかな望みを抱いて南へ南へと下り、
いつか再び彼女に相まみえようとする。


次には18世紀南太平洋に浮かぶ孤島。
この島には太古に南ルートからアメリカへ行こうとした男がたどり着いた形跡がある。
その末裔の人々が築いた平和な楽園のような島。
しかし時は大航海時代。
そこにたどり着いたヨーロッパ人。
そして不気味な地震。
私たちは、その島の人々からも忘れ去られていた一つの光景に、
息を呑むでしょう。


そして最後に現代。
アメリカ。
第一部で離ればなれとなった男女の、それぞれ遠い末裔である男女。
この二人は果たして無事に巡り会うことが出来るのか・・・?

時空を超えた愛の力。
お互いのDNAが呼び合う。
実に壮大なロマンスです。


このストーリーの描写は、かなり傍観的で淡々としています。
でもそれが逆にこのストーリーで語られる、
ヒトを突き動かす「思い」のすごさを浮かび上がらせているように思いました。
人間の歴史はこのような、
ヒトが何かを成し遂げようとする
「思い」・「情念」によって作り上げられてきたのでしょうね。
読後しばし、ぼーっとしてしまいます。
それほどのボリュームの本ではないのですが、
分厚い本を読み終えたような充足感があります!

満足度★★★★☆



湖のほとりで

2010年04月09日 | 映画(ま行)
なぜ少女は“安らか”なのか



           * * * * * * * *

北イタリアの田舎町。
美しい湖の畔で美少女アンナの遺体が発見されます。
この物語では初老の刑事サンツィオがその殺人事件の捜査にあたります。

冒頭、まず小学生の女の子が行方不明になるのです。
少女が通りがかりの車に誘われて乗ってしまうシーンから、
私たちはまず悲惨な事件を想像してしまうのですが、
意に反して、彼女は無事。
逆に、彼女が湖の畔でアンナの全裸死体を発見するという次第。




さてこんなところから、これは猟奇殺人事件をテーマとしたサスペンスドラマなのかと思えば、
決してそうではないのです。
サンツィオが地道に捜査を進めていくと、意外な様相が現れてきます。
アイスホッケーをしていた人気の美少女。
全裸死体というところから、派手な交友関係が疑われるのですが、
検死の結果彼女は処女。
絞殺されたようなのですが、彼女に抵抗の後はない。
安らかな死に顔。
他者の手にかかりながら、静かに自分の死を受け入れたとでも言うのでしょうか。
その理由は・・・?



少女の全裸死体というショッキングな事件にもかかわらず、
実に静謐な雰囲気をまとう上質の作品だと思います。


背後にあるテーマは障害者の家族の苦しみ。
軽度の知的障害がある男の父。
障害のある幼児を育てる夫婦。
そして、この刑事自身、若年性認知障害の妻が居る。

このストーリーでは、その障害者自身は自身を不幸と感じないのです。
うんと幼いか、もしくは不幸を感じる機能自体が損なわれている。
けれど、代わりにその家族がずっしりとその重荷を背負っている。
自らの生に加えて、その家族の生を支えなければならない。
見返りはほとんど期待できず、果てしもない。
ともすると疲れて沈み込んでゆくのも無理はありません。
そしてこの少女アンナは、
障害者とその家族、どちらの苦しみも知っていたのです。
他者の罪をあがなうために自らの命を投げ出す。
これは少しキリストを意識しているのかもしれません。

まるでこの湖の風景のように、静かな優しさに満ちたアンナであり、この作品なのでした。
ミステリとかサスペンスではなく、
ヒューマンと分類すべきですね。

2007年/イタリア/95分
監督:アンドレア・モライヨーリ
出演:トニ・セルビッロ、バレリア・ゴリノ、オメロ・アントヌッティ、ファブリツィオ・ジフーニ、ネッロ・マーシャ


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半分の月がのぼる空

2010年04月08日 | 映画(は行)
青春時代の真ん中は・・・



          * * * * * * * *

橋本紡原作のこの作品。
彼には少し前「流れ星が消えないうちに」の本で魅了されましたので、
この映画も楽しみにしていましたが、期待を裏切らない作品でした。

舞台は病院。
肝炎で入院している高校生裕一が、同じ病院に入院している少女里香と出会います。
彼女は心臓病で小さいときからほとんど病院で過ごしていて、
人とのコミュニケーションがうまく取れないで居たのです。
始め、彼女のわがままに振り回されていた裕一でしたが、
次第にお互いに惹かれあい、彼女を大切にしたいと思う。





一方、登場するのは一人の医師。
彼はやはり心臓の病を抱えた妻を救うことが出来なかったことに傷つき、
立ち直れないでいたのです。
心臓外科を離れて内科医として勤務し、
残された一人娘だけをよりどころとする彼ですが…。



元々私は病気のオンナノコの出てくる話は嫌いなんですよね…。
あまりにも先が見えているお涙ちょうだいもの…。
でもこの作品はそういう物から一線を画しています。
まあ、ストーリーにちょっとした仕掛けはあります。
終盤、「えっ!」と驚かされますね。
けれども、これはそのびっくり仕掛けがメインな訳ではない。
なるほど、それで初めてすべてのエピソードがつながり、物語に深みが出る訳なのです。

初々しい高校生2人の交流に、思わず微笑んでしまいます。
そして彼らを取り巻く友人たち。
青春っていいなあ・・・などと、
おばさんとしては甘酸っぱくなってしまいますねえ・・・。
当の青春まっただ中にあると、それには気づかないものなんですよ。
“青春時代の真ん中は道に迷っているばかり・・・”
って、これもずいぶん古いなあ・・・。


里香は自分が生き続けることは人に迷惑をかけるだけと思っているのです。
だからもうこれ以上病気と闘う気力も無くしていた。
けれども、自分の生を心から望んでくれる人が居て、それで勇気が出る。
本当にそうですね。
人は一人では生きられない。
人とつながることで、希望や勇気が出てくるのだと思います。



この映画中の言葉は、関西弁のようで少し違う。
いったいどこ?と思ったら、伊勢市が舞台でした。
この地方都市という舞台と、
そこで交わされる方言がほんのり暖かみがあっていいですね。

ステキなファーストキスのシーンは、最後の最後ですよ。お見逃しなく。

2009年/日本/112分
監督:深川栄洋
原作:橋本紡
出演:池松壮亮、忽那汐里、大泉洋、濱田マリ、加藤康起

セント・オブ・ウーマン 夢の香り

2010年04月06日 | 映画(さ行)
破綻した人生・・・けれど希望がすべて失われたわけではない



            * * * * * * * *

全寮制名門校の奨学生チャーリー。
彼は感謝祭の休暇中、バイトで全盲の退役軍人の世話をすることにします。

ところがその前に学校で一つの難問に直面する。
友人たちが校長に悪ふざけの仕掛けをしているのを見かけてしまった。
いたずらをされた校長はぶち切れて、
チャーリーにいたずらをした者の名前を明かせと迫る。
そうすればハーバート大に推薦してやるなどというおいしい話を持ちかけて。
そんなことのために友を売ることは出来ない。
しかし、そうしなければ今度は自分の将来さえ危うくなってくる。
究極の決断を迫られた休暇だったのです。


さて、一方バイト先のその老人フランクは、とんでもなく偏屈で頑固。
いきなりニューヨークに行くと宣言し、
チャーリーを道先案内として伴わせる。
最高級のホテルに最高級のレストラン。
退役軍人にしては分不相応とも思えるのですが、
フランクには一つの計画があった。
やりたいことをやった後に自殺するというのです。



思わずチャーリーに同情してしまいますね。
ただでさえやっかいな問題をかかえているのに、
この上本気か冗談か、
「死ぬ」と言っているこの頑固じいさんをどうすればいいんだ・・・!?
いかにも若く純粋なチャーリーが、
翻弄されながらしかし、誠実に答えを出そうとしているところに好感が持てるのです。


どうにもとっかかりがないように思えたフランクですが、
実は無類の女好き。
目が見えないためか余計に敏感なフランクは、
すれ違った女性の香水や石けんの銘柄をぴたりと当ててしまう。
しかし下卑たところはなくて、
レディには敬意を払うジェントルマンだ。
レストランでたまたま出会った女性とタンゴを踊るシーン。
なんてステキなんでしょう。
フランクの孤独も絶望も、
そしてこのような女性へのあこがれも・・・
少しずつチャーリーは理解し、そして好感を抱いていきます。



この年齢も境遇も全く異なる二人が、少しずつ心を通わせ、
お互いの支えとなっていく。
美しいドラマです。

アル・パチーノがアカデミー主演男優賞を取った作品。
この複雑な盲目の頑固じいさん。
イカしてます。
振り回されるクリス・オドネルも、いかにもまじめで正義漢の高校生。
この雰囲気がまたよいのです。


堪能した2時間半でした。

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1992年/アメリカ/157分
監督:マーティン・ブレスト
出演:アル・パチーノ、クリス・オドネル、ジェームズ・レブホーン、ガブリエル・アンウォー

「大江戸怪奇譚 ひとつ灯せ」宇江佐真理

2010年04月05日 | 本(その他)
人は一人で死ぬのが寂しくて、怖いと思うのさ。

            * * * * * * * *

ひとつ灯せ―大江戸怪奇譚 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋

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宇江佐真理さんの怪奇譚、百物語。

老舗の料理屋のご隠居清兵衛は、
ある時生死の境をさまよったことをきっかけに、
「話の会」という会合に参加することになります。
それは、本当にあった怖い話だけを披露しあうという集まり。
メンバーは蝋燭屋であったり、医者であったり、江戸の役人であったり、
それぞれですが、いずれも人生の盛りを過ぎ、老境を迎えた男女。
怖い話といっても、おどろおどろしい幽霊譚というものではなくて、
なんだか不思議、でも後で考えるとじんわり怖い。
そういうものが多いのです。
そうした小さなエピソードを挟みつつ、
物語は大きなうねりを加えてゆきます。


メンバーが箱根の温泉に行く下りは、なかなか楽しく読みました。
当時のことですから、もちろん徒歩。
まずは品川に泊まり、二日目は戸塚、三日目は小田原、
四日目にようやく箱根の湯に到着。
往復で一週間。
それに湯治の一週間を加えるとほぼ半月の旅になる、と。
大変でもありますが、のどかです。
そこで一同は、まるでのっぺらぼうのような異様な風体の女性を見かけるのですが・・・。
なかなか感動的なストーリーが待っていますよ。


さてところが、この箱根の旅を頂点として、
次第にストーリーは重くなっていきます。
メンバーの中でただ一人、商売のためこの旅に参加できなかった人物がいて、
彼は思いきり皆を妬むのです。
こうした人のほの暗い心に魔は引き寄せられていくのでしょうね。
次第に、彼ら「話の会」メンバー自身の中に悪いことが起こり始め・・・。

怖い話、というのは結局、「死」が怖いのですね。
だからその「死」に近い老境の男女がこの「話の会」のメンバーとなっている。
メンバーの一人であり、清兵衛の古くからの友人でもある甚助は言うのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
怖さと寂しさは同じものさ。
おれはそう思っている。
人は一人で死ぬのが寂しくて、怖いと思うのさ。
おれは女房も死んで、娘もそれぞれに所帯を持ったから、
もうこの世に未練はないよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しみじみきます。


この思いに達したのや否や、旅立ってしまう友人たち・・・。

しんみりとフェイドアウト。
余韻の残るストーリーです。


満足度★★★★☆

ハリーとトント

2010年04月04日 | 映画(は行)
アメリカ横断。老人と猫のロード・ムービー。

                * * * * * * * *

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72歳、もと教師のハリーが
愛猫トントと共にアメリカ大陸横断の旅をするロード・ムービーです。
ニューヨーク。
亡き妻と共に暮らした我が家。
その古い家は区画整理で取り壊しになってしまいました。
とりあえず近所の長男の家に行ったものの、どうもなじめない。
長女のいるシカゴへ行ってみることにします。

ところが猫を連れてでは、飛行機もバスもどうにも具合が悪い。
とうとう中古車を買ってドライブの旅。
しかし実は運転免許はとっくに期限が切れていたんですけどね・・・。

ハリーはまだ結婚をする前の若い頃、
アメリカ大陸横断の旅を夢見たことを思い出します。
それが今まで出来なかったのは、お金がなかったわけでも時間がなかったわけでもない。
・・・つまり、満ち足りて居たんだな。
そう納得するハリー。


妻に先立たれて、懐かしい我が家は取り壊し。
行き場をなくしたお爺さんが冒険の旅に出る。
なんだか、見たようなストーリーですね。
そう、「カールじいさん」にそっくり。
「カールじいさん」の原点ですね。
相棒の猫は少年へとすり替わり・・・。


ハリーはシカゴからさらに次男の居るロサンゼルスまで行くことになります。
途中ヒッチハイクの若者を拾ったり、昔好きだった彼女を訪ねたり。
ついには自分もヒッチハイクとなりながら、気ままな一人と一匹の旅。
何も急ぐことはない。
彼の子供たちはそれぞれ独立しているけれど、
それぞれに悩みを抱えてもいる。
でも、結局お互い依存関係にはならないんですね。
この辺の感覚がたぶん日本とは少し違う。
けれど、私は、こういうふうになりたいと思います。
彼をつなぎ止めていた入れ物としての家。
そして、家族。
この旅で、彼はこれら一つ一つに別れを告げたのです。


老いて、しがらみを脱ぎ捨て・・・
これはまるで死出の旅だ。
けれどたぶん、この作品はそうした旅立ちを
この旅と重ね合わせているのでしょう。
死に行くことと、この旅が同じようなもの
・・・と思えば死はさほど怖くはない。
むしろ、待ち望みたいくらい。
何者にも寄りかからず、かといって他者を排除するのではない。
相手の人格を尊重することが、
すなわち自分自身をまっすぐに立たせることなんだなあ。
こんなふうに自分も老いて、そして旅立てたらステキだと思います。

1974年/アメリカ/116分
監督:ポール・マザースキー
出演:アート・カーニー、エレン・バースティン、ジェラルディン・フィッツジェラルド、チーフ・ダン・ジョージ

姑獲鳥の夏

2010年04月03日 | 映画(あ行)
平常の平衡感覚を奪われる・・・



              * * * * * * * *



姑獲鳥(うぶめ)の夏
京極夏彦ベストセラーの映画化。
時は昭和27年。
売れない小説家関口は、
ある産婦人科医の娘が20ヶ月身ごもったままという噂を耳にする。
また、その夫は、1年半前に書庫から忽然と姿を消したままだという。
こんな不思議なことがあるのだろうか・・・
友人の古本屋、京極堂に意見を聞き、
探偵の榎木津と共にその医院で調査に乗り出すのだが・・・・・・・・


京極夏彦の京極堂シリーズでは一番始めの物語です。
これは驚愕のラストシーンに意義がある。
でも、本ならばうまく読者をそのラストシーンに導くことが出来ますが、
映画でありのままを映し出すことはタブー。
そういう難しさがあるだろうと思ったのですが、
「関口の視点」という逃げでうまく乗り切ったようです。
セピア色がかったような全体の色調で、
うまく昭和20年代の空気感が表れていました。
印象としては、映画2作目「魍魎の匣」よりも地味な感じです。
でも、私はこちらの方が好きかなあ・・・。
より原作の雰囲気が現れている様に思います。
時代色とか、京極堂の雰囲気とか・・・。


冒頭、京極堂が延々と一人で蘊蓄を語るシーンがありまして、
これがなかなか圧巻なんですねえ。
二階部分から下を見下ろす書庫のような部屋の雰囲気。
原作ではこうではなかった様に思うのですが、
この上から見下ろすカメラワークもステキでした。
全体には画面が斜めに傾いている構図も多用されていました。
まるでめまいを起こしそうな・・・。
これというのは、京極堂の家に至る坂道が、
何故かいつもめまいを起こさせる、
そういう道であることをイメージしているのかもしれません。
原作を読んだだけでは、いったいどんな坂道なのか、
実はうまくイメージ出来ないでいたのですが、この作品を見て、納得しました。
まさに、今時日本ではあまりなさそうな道なので、
私がうまくイメージ出来なかったのも無理はなさそうです。
でも、なんだか本当にめまいがきて幻惑されそうな・・・、
ちょっと歩いてみたいですね。
もっとも、関口氏は平地を歩いていてもヨロヨロしていそう・・・。


はかなくゆれる風鈴の音。
紙芝居の狂言回し。
そして、京極堂のきめゼリフ
「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」

いろいろなところでムードが盛り上がります。
原作イメージをいかに損なわず表現するか、
そうしたことに力を入れた作品だと思います。

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2005年/日本/123分
監督:実相寺昭雄
出演:堤真一、永瀬正敏、阿部寛、宮迫博之、原田知世、田中麗奈

「Story Seller 2」 新潮社ストーリーセラー編集部

2010年04月01日 | 本(その他)
好きなところから読もう

           * * * * * * * *

Story Seller〈2〉 (新潮文庫)

新潮社

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新潮文庫の「Story Seller」アンソロジー第二弾。
前巻に引き続き豪華メンバーで、
一番気になったのは近藤史恵さんの自転車ロードレースストーリーなのですが、
やはりつい手にとってしまいましたね。


その近藤史恵「レミング」は、
チーム・オッジの石尾・赤城がそこはかとない友情を育てていく過程のストーリー。
これまでの自転車ロードレースのストーリーファンとしては、やはりおいしいところです。
何者かが石尾を陥れ、エースの座から引きずり下ろそうとしている。
石尾はチームの皆から特に好かれたり信頼されたりというわけでもないのですが、
赤城はちょっと気になっていて、いつになく不調らしい石尾にお節介をやく。

「そんなことをするから、石尾係だって言われる」
「言いたいヤツには言わせておけ」

う~ん、いい会話ですね。
三浦しをんが喜びそう・・・。



有川浩「ヒトモドキ」は、ゴミ屋敷に住む叔母さんの話ですが・・・
前巻も彼女の作品はどうも好きにはなれなかったのですが、これもやはりだめでした。
こういう路線の話は、どうもだめみたいです・・・。
こういう題材で、何を言いたいのか、よくわからない。
これならベタ甘ストーリーのほうがいい。



伊坂幸太郎「合コンの話」
さして長いわけでもないのですが、
読み切るまでに切れ切れに妙に時間がかかってしまったので、
なんだかよくわかりませんでした・・・。
いったいどこが面白かったんだ???



米澤穂信「リカーシブル――リブート」
親同士の結婚によって姉弟となった血のつながりのない二人。
意地悪くてきつくてシニカルな姉ハルカ。
そのためなんだか物語の雰囲気が寒々しいのですが、
読んでいるうちに、ハルカは表面で装っているほど悪くはないと思えてきます。
個性的なこのストーリーは、もう少し先まで読んでみたい気にされられました。
続くのかなあ???



本田孝好「日曜日のヤドカリ」
この本では一番好きでした。
小学生の弥生という娘を持つ真澄と結婚した「俺」。
弥生さんはとても大人びていて、この父娘の会話は「ですます」体の丁寧語。
でも、それはよそよそしい訳ではなくて、なんだかとても温かい。
この言葉使いだけをみると弥生さんはいかにもおとなしげなのですが、
実はカッとくると男の子を殴ったりもしてしまう直情家。
実はこの父も同じで・・・似たもの同士だったんですねえ。
この微笑ましい父娘が、ある日曜日、
同窓会へ出かけた「おかあさん」が実は駆け落ちしてしまったのではないかと思い当たり、
さあ大変!!
いいお話でした。



全体を通しては、前巻の方がよかったかなあ・・・

満足度★★★☆☆