映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「土に贖う」河﨑秋子

2021年04月10日 | 本(その他)

北海道で栄え、消えていった産業

 

 

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明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。
「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)。

昭和35年、江別市。
蹄鉄屋の父を持つ雄一は、自身の通う小学校の畑が馬によって
耕される様子を固唾を飲んで見つめていた。
木が折れるような不吉な音を立てて、馬が倒れ、もがき、死んでいくまでをも。
「俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」(「うまねむる」)。

昭和26年、レンガ工場で最年少の頭目である吉正が担当している下方のひとり、渡が急死した。
「人の旦那、殺しといてこれか」(「土に贖う」)

など北海道を舞台に描かれた全7編。

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この北海道の地で、かつて栄えた産業と人々の鎮魂歌のような短編集となっています。

冒頭「蛹の家」では、札幌での養蚕。
この札幌でかつて養蚕が盛んに行われていたなんてちょっと信じられない気がしますが、
そういえば「桑園」などという地名はまさにその名残でした。


「うまねむる」では、蹄鉄業。
機械化が進む以前は、この広い大地の開墾は多くは馬の力に頼っていたのですね。
当たり前のことながら、あまり意識には登りません。
私が幼い頃にはまだ馬車なども残っていて、
道ばたに馬糞が落ちていたことなどを思い出しました。

「翠(みどり)に蔓延(はびこ)る」は、北見のハッカ栽培。
今もこの地のハッカは有名なのですが、現在作られているのはほとんどみやげ物用。
かつては世界需要の大半をシェアしていたというのは知りませんでした。

「土に贖う」は江別のレンガ工場。
今でこそレンガはほとんど装飾として用いられるけれども、
以前は有用な建築素材。
さぞかし大量のレンガが作られていたことでしょう。

 

これら、北海道に住んでいる私でも、そうだったのか~と思うことばかりですが、
でも本作、そういう歴史だけを語るものではありません。
その当時の人々の暮らし向き(多くは重労働で貧しい)や、
苦しみ、夢などを織り交ぜた読み応えのある物語となっています。

この世界のありようにともなって産業も盛り上がったり廃れたり・・・。
大地は人々の悲しみも苦しみも呑み込んであり続けるのですね。

 

ステキな本でした。
いつも河﨑秋子さんにはドキドキさせられます。

 

図書館蔵書にて

「土に贖(あがな)う」河﨑秋子 集英社

満足度★★★★★

 



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