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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「短編工場」集英社文庫編集部編

2017年12月21日 | 本(その他)
「生きる」こと

短編工場 (集英社文庫)
集英社文庫編集部
集英社


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読んだその日から、ずっと忘れられないあの一編。
思わずくすりとしてしまう、心が元気になるこの一編。
本を読む喜びがページいっぱいに溢れるような、とっておきの物語たち。
2000年代、「小説すばる」に掲載された短編作品から、
とびきりの12編を集英社文庫編集部が厳選しました。

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この文庫本の帯に「飛行機で読みたい本NO.1」とありまして、
つい心惹かれて手に取りました。
執筆陣がまた、豪盛ですしね。
しかしまあ、私が読んだのは主に地下鉄の電車とバスの中ですが・・・。

掲載作品は・・・
『かみさまの娘』桜木紫乃
『ゆがんだ子供』道尾秀介
『ここが青山』奥田英朗
『じごくゆきっ」桜庭一樹
『太陽のシール』伊坂幸太郎
『チヨ子』宮部みゆき
『ふたりの名前』石田衣良
『陽だまりの詩』乙一
『金鵄のもとに』浅田次郎
『しんちゃんの自転車』荻原浩
『川崎船』熊谷達也
『約束』村山由佳


著者が色とりどりのアンソロジーは、
様々なテイストが味わえるのはいいのですが、
あまりにもバラバラすぎて、戸惑いを感じることもあります・・・。


この本で私がいちばん好きだったのは奥田英朗さんの『ここが青山』。
会社が倒産し、失業した夫。
その機に、以前勤めていた会社に職場復帰した妻。
夫は当然のように家事・育児を務めるのですが、
これが思いの外性に合っていて、
これまで料理をしたこともなかったのが、メキメキと腕を上げ、
息子のお弁当作りも楽しんでこなす。
妻はもともと外交的で、仕事を活き活きとこなしている。
本人たちは大満足なのに、
何故か周りの人々は「大変ねえ・・・」と同情を示す、という物語。
こういうの、好きだわー。


さて、そんな感じで気を良くして読み進んでいくと、
浅田次郎さんの『金鵄のもとに』にぶち当たる。
南方戦線で、アメリカ兵とではなく"飢え"と闘った、悲惨な日本兵の話です。
う~ん、重い。
なんでこんなにも違う話が一つの短編集になっちゃったんだろう・・・
このアンソロジーのコンセプトは何?
・・・と、振り返ってみると、見えてきました!


つまりは、「生きる」ということなんですね。
生きることは、すなわち生活であり、人生であり、死と向き合うことでもある。
こんなテーマをバックボーンに据えて、
時にはリアルに肉薄し、時にはホラー仕立て。
SF風でもあり、骨太の人生描写でもある。
熊谷達也さんの圧倒的筆力を感じさせる『川崎船』が黒光りしています。


「短編工場」集英社文庫編集部編 集英社文庫
満足度★★★★☆