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「沈むフランシス」松家仁之

2017年12月03日 | 本(恋愛)
冷たく透明な空気感の中で


沈むフランシス
松家 仁之
新潮社


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北海道の小さな村を郵便配達車でめぐる女。
川のほとりの木造家屋に「フランシス」とともに暮らす男。
五官のすべてがひらかれる深く鮮やかな恋愛小説。
北海道の山村で出会った男女の恋愛の深まりを描きだす待望の第二作!

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「火山のふもとで」が大好きだった私ですが、
松家仁之さんのその後の作品をまだ読んでいませんでした。
そこで、この「沈むフランシス」。
まずはこの、表紙の犬の写真。
犬好きはそこでまず心惹かれてしまうのですが、本作に犬は登場しません。
ではなぜ犬なのか。
・・・それがですね、大きな声では言えませんが、
男女が固く抱き合う時に女性が下腹部に当たる何かの感じが、
まるで犬の鼻が押し付けられているようだと・・・、
まあ、そういうことです(^_^;)


東京の生活を捨て、北海道の小さな村に越してきて、
郵便配達の仕事を得た桂子。
中学校のとき父の仕事の都合でこの近くの町で暮らしたことがあり、
なんとなく土地勘もあるこのあたりに住みたいと思ってやってきたのです。
そんな桂子の配達区域に、男の一人暮らしの家があり、
ある時桂子は彼・和彦に招かれてその家に上がります。
和彦の友人夫婦も共に過ごし、和彦の「音」のコレクションを聞いたりして、
その時はそのまま帰るのですが、その翌週。
桂子が和彦の家を訪れると、いきなり寝室にいざなわれます。
愛の言葉も何もなしにいきなり始まる秘め事。
「その覚悟で来たんだよね。」
「そうかも。」
などという会話すらなしです。
けれど余計な言葉は要らないというか、
まるで孤独な魂と魂が求め合うように重なり合う2人。
2人のこの関係はその後つづくことになりますが、小さな村のこと。
車で行き来するので桂子が和彦の家に通っていることは一目瞭然。
すぐに2人のことが噂になってしまうのですが、
そうすると、桂子に余計なことを耳打ちする人もいるのです。
和彦には妻がいるとか、他にも通っている女がいる、とか。
それでも痴話喧嘩の修羅場になったりはせず、
淡々と感情の爆発を抑えながら寄り添い、むさぼり合う2人。
北海道の冷たい空気感とあいまって、独特の世界観があります。


ところで、和彦はここにある水力発電の機械「フランシス」の管理をして生活しているのです。
題名の「フランシス」だけでは到底意味がわかりませんが、
何やらロマンチックな響きがあって、
その秘密が水力発電の「フランシス・タービン」だった、というのもなんだか洒落ています。


では「沈む」とは?
終盤にある事件があって、おそらく2人のこの関係に変化が訪れると思われるのですが、
作中はそこまで語り切ることはなく、読者の空想に任せます。
冷たく透明な空気感の中で、かわされる愛の営みが鮮烈。


図書館蔵書にて
「沈むフランシス」松家仁之 新潮社
満足度★★★★☆
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