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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

天空の蜂

2015年09月21日 | 映画(た行)
推進派も反対派も似たような傷を持って反発しあう



* * * * * * * * * *

東野圭吾さんの原作は1995年に発表されたということで
20年も前の作品になります。
私はそれよりもう少し後かもしれませんが、確かに読みました! 
が、例によって内容はほとんど忘れていたので、
全く新鮮な気持ちでみることができて、それはそれでよかった。


映画の舞台も同じく1995年になっています。
というのも、原発をテーマとしている本作、現代を舞台にすると微妙に成り立たなくなってしまうのですね。
当時には当時の原発観が確かにある。
(個人的には昔も今も不要だと思っていますが)



自衛隊用最新大型ヘリコプター「ビッグB」が、
遠隔操作により何者かに奪われてしまいます。
そのヘリは、福井県原子力発電所「新陽」の真上に静止。
犯人「天空の蜂」は、国内すべての原発を停止するよう要求。
従わなければ爆弾を搭載したビッグBをこの「新陽」に落下させるというのです。
ビッグBを開発した設計士湯原(江口洋介)と
新陽の設計士三島(本木雅弘)は、
この事態になんとか対処しようと力を尽くしますが・・・



とにかくのらりくらりと自分の保身ばかりを考える政治家。
対して気骨のある現場の技術者。
そんな様子は昔も今も同じなのかもしれません。
しかし本作の構造はもう一捻り。
なかなかやられますね。
原発の推進派も反対派も、似たような傷を持って反発しあう。
この泥沼のような様相が、今は多少異なっています。
が、なおまた再稼働してしまうというのがこれまた理解できないんですけど・・・。



本作のもう一つのスリルは、なんと湯原の息子がそのビッグBに乗っていた!
というところなのです。
これでは何が何でも墜落させる訳にはいかない。
しかし、その無人のヘリからどうやってその子を救い出すのか、
というのが第一の難問。
そして、その問題が片付いたらいよいよ、どうやって新陽を守るのか・・・!



忙しいことを理由に息子ときちんと向き合うことができなかった湯原が、
息子を守ることをきっかけとして、どんどんタフになっていく。
最後の最後まで諦めない。
なんとも小気味いいです。
また、事件と戦っているのは技術者だけではない。
犯人を特定するため、原発推進の反対者名簿を虱潰しに当たる刑事。
原発内に犯人の内通者がいると睨んで捜査にあたる警察。
それぞれが持てる知識を総動員し、最後の最後まで粘り抜く。
これはそういう物語でもあるのです。
すべてビッグBが燃料切れで墜落する8時間以内の出来事です。
まさに長い一日。



私が最もぐっと来たのは、最後の最後、
ナイフを持った犯人(綾野剛)を手錠で自分と繋いでしまう刑事。
そしてまた、その手錠から逃れるために犯人のとった行動。
うう・・、凄かった。
私はヘリからの落下シーンよりこっちのほうが怖かった。
綾野剛さんの、このようなやさぐれた役というのがまた決まってます。
本木雅弘さんも良かったー!
日本のパニックものも捨てたものではない。
堪能しました。



ラストが2011年というのがまた泣かせます。
ここにこそ、本作が原作が書かれてから20年後に映画化された意味がありそうです。
向井理さんの出番がそこだけというのが、いかにも残念でしたけれど。

「天空の蜂」
2015年/日本/138分
監督:堤幸彦
出演:江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛、柄本明