映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

しあわせへのまわり道

2015年09月29日 | 映画(さ行)
「お一人様」の自由



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米ニューヨーカー誌に掲載された実話の映画化だそうです。


ニューヨーク、売れっ子の書評家ウェンディ(パトリシア・クラークソン)。
長年連れ添った夫が浮気相手の元に去り、
一人取り残されてしまいます。
運転免許を持っていない彼女は、
これまで出かけるときはいつも夫に車を出してもらっていたので、
どうにも不便。
困ったウェンディは、
インド人のタクシー運転手ダルワーン(ベン・キングスレー)に運転を習うことに。
タクシーの運転手が自動車免許のための個人教習を兼業しているのですね。
日本ではこんなことはありませんが、ちょっと面白い制度だと思いました。



ダルワーンは伝統を重んじる堅物で、運転の教習も丁寧で的確。
とても頼りになります。
しかしそんな彼が、女心というものを少しもわかっていない。
彼は妹の世話で結婚することになったのですが、
その妻はインドから来て初めてあったばかり。
英語もろくに話せないので、外へ出るのが怖いのです。
ちょっと、マダム・イン・ニューヨークを思い出しますね。
おまけにこの夫ときたらそんな妻へのいたわりも見せず
食事の味付けに文句を言ったりする。
だから本作、ダルワーンが一方的に運転を教える話ではないのです。
ウェンディは文化も宗教も違うダルワーンとふれあううちに、
自分の結婚生活で自分ができていなかったことを気付き、
そしてまたその気付きが、ダルワーンにも伝わっていくという相互作用なんですね。
運転もこれくらいの歳になるとマスターするのはなかなか大変だけれども
できないことじゃない。

そしてまた、人生における“気付き”もまた、
いくつになっても遅すぎるということはない。
ウェンディは行動の自由とともに心の自由も手に入れたように思います。
「お一人様」の自由を。



さて、髭を生やしてターバン姿というのは、
私達がインド人に抱くイメージそのものなのですが、
これは正しくは「シク教徒」のスタイルだったのですね。
インド人が全てそうだとは限らない。
先日見た「ミルカ」でもそのミルカがシク教徒だったので、
長髪を頭の上でゆってお団子にしていましたし、時にはターバンも。
そしてシク教徒はインド政府と確執があって、
受難の時代があったというのも「ミルカ」で始めて知り、
このたび本作でもまた認識を新たにしました。


様々な民族が入り乱れるニューヨーク。
一人ひとり真剣に向き合ってみれば
学ぶことは双方に多くあるのではないかな? 
そんな気にさせられる作品です。



「しあわせへのまわり道」
2014/アメリカ/90分
監督:イザベル・コイシェ
原作:キャサ・ポリット
出演:パトリシア・クラークソン、ベン・キングスレー、ジェイク・ウェバー、グレイス・ガマー、サリタ・チョウドリー
異文化交流度★★★★★
満足度★★★.5