映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

硫黄島からの手紙

2011年01月28日 | クリント・イーストウッド
故郷の家族へ向ける思いは同じ



             * * * * * * * *

ハイ、では硫黄島2部作の2作目ですね。
こちらは日本側の視点から描いている。
始めイーストウッド監督は『父親たちの星条旗』だけを作るつもりでいたといいます。
でも、いろいろな資料を見る内に、栗林中将が家族に宛てた手紙を読んで、
これは是非日本側からの話も作ってみたいと思ったそうなんだ。
実際その栗林氏の手紙は硫黄島から出したものではなくて、
彼がそれ以前アメリカにしばらく滞在したときのものだそうだけれど・・・。
でも確かにこの作品は“手紙”に焦点があてられているね。


日本の総司令官が、その栗林中将(渡辺謙)だね。
彼はアメリカで生活しただけあって、リベラルな精神の持ち主。
精神主義に凝り固まった他の上層部と比べて、偉ぶらないし考えが合理的だ。
また一兵卒の立場としては、西郷(二宮和也)の視点を活用しているんだね。
彼は故郷ではパン屋さん。
妻と生まれたばかりの子供がいて、口には出せないけれど、生きて帰りたいと強く思っている。
アメリカ軍が上陸してくる前は、ひたすら穴ばかり掘ってたようだね。
そうだよ。それも大変だったんだろうなあ・・・。
いよいよの戦闘シーンは、前作と同じくほとんどモノクロに近い色彩で描写されているよね。
うん、日常を超越した殺伐とした狂った世界に突入・・ということだね。
こちらは前作よりずっと悲惨で残虐なシーンが多いな。
前作は帰国した兵士たちの話が中心だったからね。
でもこちらはまさにその戦闘こそがメインだ。
日本軍の精神構造とか・・・、
まあ、私たちも本や映画、ドラマなどで知るだけなんだけれど、
きちんと把握して描かれていると思う。
自決を強要するようなシーンとかね。
なんと投降した日本兵を米兵が平気で撃ち殺しちゃうなんてシーンもあったなあ。
ああいう場なら、そんなこともアリだろうと何だか納得できちゃったよ・・・。
アメリカ作品だからってアメリカにえこひいきもナシ、と。


私が泣けたのはね、こんなシーン。
怪我した米兵が一人日本の陣地に運び込まれてくる。
そのときは、介抱しちゃうんだな。
結局息を引き取るんだけれど。
その米兵が、故郷の母からの手紙を大事に持っていた。
「早く戦争が終わって平和になるといい。そして、必ず生きて帰ってきてね・・・」
そこで、日本兵のみんなも心打たれるんだ。
アメリカ人も自分たちと同じなんだ。同じ心を持った人間なんだ・・・。
故郷で待つ人の思いも、どちらも同じ。
鬼畜米英なんてウソだ・・・。
それなのにどうして、銃を持って殺し合わなければならないのか・・・・・・
一番訴えたいところだよね・・・。


この作品、もちろんアメリカでも公開されたわけだよね。
むこうでの評判ってどうだったのかな。ちょっと気になるね。

さて、作品中、ニノのセリフにもありました。
「こんなちっぽけな島なんかアメリカにくれてやればいい。」
そう、東西8キロ南北4キロ程度の小さな島です。
でも、問題なのはその位置だったんだね。
東京とグアムの中間。
アメリカの攻撃拠点として、非常に重要な場所だ。
米上陸は1945年2月18日。米軍33000名。日本軍26000名。
民間人も住んでいたんだけれど、この戦闘以前にすべて退去していた。
一ヶ月以上の戦闘を経て米軍死者6800名。負傷者26000名。日本軍死者21000名。
・・・ということは日本はほぼ全滅かあ・・・。
その硫黄島は現在遺族や軍・政府関係者・マスコミしか入れなくて、
観光目的では上陸出来ないそうです。
そうだね、畏れ多くてとても遊びではいけない感じ。
まあ、礼儀としてこれくらいのことは覚えておきましょう・・・。


この作品は音楽もとても良かったけど・・・、
ああ、カイル・イーストウッド。監督の息子さんだよね。
うん、ここまでの作品だと身びいきだなんていえない。
イーストウッド監督の2部作。
渾身の作品でした。

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クリント・イーストウッド,スティーブン・スピルバーグ,アイリス・ヤマシタ
ワーナー・ホーム・ビデオ


「硫黄島からの手紙」
2006年/アメリカ/141分
監督:クリント・イーストウッド
音楽:カイル・イーストウッド
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童