映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ドクトル・ジバゴ

2011年01月04日 | 映画(た行)
荒れた広大な大地で・・・・

ドクトル・ジバゴ アニバーサリーエディション [DVD]
オマー・シャリフ,ジュリー・クリスティ,ジェラルディン・チャップリン,リタ・トゥシンハム,アレック・ギネス
ワーナー・ホーム・ビデオ


            * * * * * * * *

ロシア革命前後の動乱期を舞台とするドラマチックな恋愛物語です。
主人公ジバゴは、純粋な魂を持つ詩人であると同時に医師。
第一次世界大戦に医師として従軍し、看護師ラーラと出会う。
実はこの美しいラーラを彼は以前ちょっとした事件で見かけたことがある。
血なまぐさい戦場で、次第に二人は心惹かれていくのですが、
実は双方結婚していて子供もいる。
「あなたに奥さんの前でウソをつかせたくない・・・」
ラーラはそう言って、この時は何事もなく別れの時を迎えます。

モスクワに帰ったジバゴを待ち受けていたのは、温かい家族。
しかし、革命の波がおしよせ、彼らの屋敷は民衆が占拠している。
彼ら家族は別荘のある田舎へ移ることにする。

この時の列車の旅の情景が実に印象的です。
まともな客車ではありません。
貨物車に我先にと乗り込み、わらを敷いて雑魚寝。
ロシアは内線で、そこここに銃声が響き渡る。
誰もが貧しく、焼き払われた村、荒廃した大地・・・。
その広大な大地を蒸気機関車が突き走ります。
数日をその旅に要し、たどりついた村は一見のどかで昔のままのように見えるけれども、
屋敷に着いてみるとそこも革命軍により封鎖されている。
やむなく横の番小屋にすむことにして、
医師である彼が、ジャガイモを作ったりして密やかに暮らす。


ロシアの冬の描写は本当に寒そうです。
窓が凍り付き家は半分雪に埋もれている。
酷寒の地の生活感がリアルです。
真っ赤になるほどストーブを焚いても、
背中の方は寒気が忍び寄り、窓は霜がついて真っ白・・・
北海道も私が子供の頃にはそんな光景も当たり前だったのですが、
近頃は住宅事情もよくなりましたし、温暖化もあり、
今では懐かしい光景になってしまいました。

しかし、その後の春、群れ咲く水仙の黄色のなんと鮮やかなこと。
この春の訪れのうれしさは、実感として痛いほどよくわかります。

さて、この村の近くの街にラーラがいるという噂を聞いて、
ジバゴはたまらず訪れ、二人は再会を果たします。
そうして、愛を確かめ合ってしまう二人。

気持ちが優しく純粋であるが故に、妻トーニャとラーラの間で揺れ動くジバゴの心。
しかし、身ごもった妻が変わらず自分を愛し支えてくれることに報いるため、
ジバゴはラーラとの別れを決意するのですが・・・。

ジバゴは特に思想的にどうこうというわけではないのです。
基本的にはやはり詩人なのですね。
しかし、その「詩」すらも、
個人的な感情を表すことは共産主義から外れているとして敵視される。
そんなひどい社会で、それでも生きていかなければならないのは、苦しいことですね。
人の心のありようは、いつの時代も、どこの国でも同じなのですが、
このように大きな歴史のうねりの中で、ときに運命に翻弄される人々がいる。
個人の力ではどうすることも出来ない、ドラマです。

ジバゴの母が愛用したという、バラライカ。
彼は自分では決して弾くことはなかったのですが、母の形見として大事にしていました。
私たちは最後に思いがけないところでまたバラライカに遭遇します。
人と人とのつながりの不思議。
しんみりと過ぎ去った日々が思い起こされ、
そしてまた未来をも感じさせるラスト。

いや~、映画っていいもんですねえ~、
とつぶやきたくなるさすがの名作でした。
最近はこんな風に本気の雄大な愛のドラマというのがあまりないですね。
ちょっとさみしい気がします。

バラライカが奏でる名曲、ラーラのテーマの余韻に浸りつつ・・・。


さて、この物語は1957年ボリス・パステルナーク著の原作によります。
ところがこれはロシア革命を批判する作品として、
当時のソ連では発表できず、イタリアで刊行されたのだそうです。
また、ノーベル文学賞候補となったのですが、
これもソ連共産党が辞退を強制。
受賞には至りませんでした。
・・・何だかつい最近も聞いたような話ですね。
少なくとも「国」が個人の表現の自由を奪うようなことは、
なくなって欲しいと願います。
ただ、この映画の制作年からすると、
アメリカがソ連の共産主義体制へ痛烈に批判を浴びせかける意図も
少なからずあったのだろうと推察はできますね。

1965年/アメリカ・イタリア/194分
監督:デヴィッド・リーン
原作:ボリス・パステルナーク
出演:オマー・シャリフ、ジェリー・クリスティ、トム・コートネイ、アレック・ギネス、ジェラルディン・チャップリン