映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「リドル・ロマンス/迷宮浪漫」 西澤保彦

2007年06月26日 | 本(ミステリ)

心の奥のもつれた糸を解きほぐす、長身痩躯、超美形の心理探偵登場。

                * * * * * *

「リドル・ロマンス/迷宮浪漫」 西澤保彦 集英社文庫

異色で、官能的で、どこか妖しい。率直なところ、・・・・「これはどうしたことか・・・」と、戸惑ってしまった。
---というのは、この本の解説、有栖川有栖氏の言葉です。
常に奇想天外、SFチックな展開をする西澤氏のミステリですが、これはまた、格別。
というか、この、探偵役”ハーレクイン”氏の
人の心をのぞき、操る技は、神か、悪魔か、すでに探偵の域を完全に超えております・・・。
あまりにも、それは生身の人間とは遠いので、長身痩躯の超美形と解説されても、まったく親近感もあこがれも期待も沸いてきません。
残念ですが・・・。
クライアントは、どこぞの次元のひずみにあるらしい彼のオフィスに、どこをどう通ったのかもわからないまま、突如やってきます。
「彼のところに来れば、何でも望みがかなう」
そう、人づてに聞いてやってきたらしい。
探偵というよりはむしろ、カウンセラーなのですが、クライアントの「自分は今、不幸だ」という思い込みを、原因を探り、心の奥のもつれた糸を解きほぐすことにより、解決に導く、そのあたりの手腕が、やはりミステリ的といえます。
表に現れた現実は一つなのに、知らなかったこと、知るべきことを明らかにしていくだけで、現状がすっかり違ったものに見えてくる、この不思議。
これは人の思い込みを正す、一種の「憑き物落し」なのかもしれないと思いました。

この本の連作の一つ、「クロッシング・ミストレス」。
一人の老女が訪れて、語る。
自分は、先に亡くなった主人との人生は、それなりに平和ではあったけれども、退屈だった。
もし、若いときに別に意識していた男性と結婚していたら、どんな人生だったのか、それが知りたい、と。
その男性は小説家として名を成していたが、50歳前に自殺しているのです。
”ハーレクイン”は、そのようなことは知らないほうがいい、と説得しますが、彼女はあきらめきれず、禁断の架空の人生を観ることになる。
なんと、彼女と結婚した彼は、作家にもならず、平和で、それなりに幸福な人生を送り長生きをした。
結局彼女はどちらにしても、退屈な人生を歩むということ。
そして結局、彼女が彼の平和な人生を奪っていた、ということが分かり愕然とするのです。
「だから、言ったのにね・・・」、彼女が去ったあと、”ハーレクイン”は一人、皮肉な笑みを浮かべていたのではないでしょうか。
人助けのようでいて、実は人の心のいやな部分を糧にしている吸血鬼のような、そんな感じさえ受ける、妖しい探偵氏でありました。

最後に一つ。何で、西澤氏は、いつもこんな読めない当て字を人の名前に使うのでしょう・・・。始めだけ、かながふってあるけれど、その後読めなくていつもいらいらさせられます。こんなこと思うのは私だけ?

いつも最上のもののご紹介とはかぎらないので、まったく私の独断と偏見ではありますが、多少の満足度を入れてみようと思います。あまりにも、けなす言葉しか思いつかない本の紹介はボツにしたものもあるんですけどね。そのうちボツ特集でもやりますか・・・。

星5つが最高点ということで、
この本の満足度は★★★。