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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

山形県西川町のタヌキの食性

2022-05-15 20:53:16 | 研究
山形市近郊のタヌキの食性

高槻成紀・中村夢奈(やまがたヤマネ研究会 代表)

 タヌキの食性分析は他の野生動物に比較して比較的よく調べられている(高槻 2018)。しかしその大半は関東地方のタヌキに関するものであり、そのほかは少数例が点在するに過ぎない。東北地方では山形県での事例(加藤ほか 2000)と東日本大震災後の仙台の海岸における事例(高槻ほか 2018)があるに過ぎない。
 今回、山形でヤマネの研究をしている中村氏の協力で共同調査ができることになったので、分析結果を報告する。月ごとの結果はこちら

調査地
 タヌキの糞を採取したのは山形県西川町大井沢(38度23分15.13秒 139度59分30.00秒)で、山形市の西方約35km、標高481mである。


図1 調査地(黄丸)の位置

ここは寒河江川沿いで、この川が北上し、北方で本流と合流する部分に月山湖がある。糞採集地は湯殿神社の近くである(図1)。ここは山形県でも多雪地であり、採取した5月3日時点ではまだ残雪があったが(図2a)、5月20日になると雪は融けていた(図2b)。


図2a. タヌキの糞採集地の景観(2022年5月3日)

図2b. タヌキの糞採集地の景観(2022年5月20日)

 タヌキのタメ糞を発見し、色や質感から1回に排泄分と判断されたものを1サンプルとして分析した。分析法はポイント枠法(高槻・立脇 2012)を用いた。

結 果
 個別の結果は別記した(こちら)。5月3日には糞ごとに違いが大きく、哺乳類が多い糞や鳥類が多い糞などがあり、全体としては果実、哺乳類の毛、脊椎動物の骨などが多かった(図3)。哺乳類と鳥類でほぼ半量あったが、このように多い例はほとんどない。
 5月20日には雪が融け、タヌキの糞内容も大きく変化して、ほとんどの糞に幼虫が多く含まれた。


図3. タヌキの糞組成の変化

考 察
 これまで情報の乏しかった東北地方多雪地のタヌキの糞を分析することができた。5月3日にはまだ残雪があり、晩冬といえる時期であった。平均値では鳥類、哺乳類が多く、しかもサンプルごとにばらつきが大きかったことを考えると、タヌキの食糧事情は悪く、低確率で遭遇した哺乳類や鳥類の、おそらくは死体を集中的に食べるものと推察される。というのは、供給が安定していれば、頻度は高くサンプルごとのばらつきはこれほど大きくはならないはずだからである。果実の平均占有率は24%で、他の場所よりは少なかった。これらは果皮と果肉で、種名はわからなかった。ヒモと輪ゴムが検出されたことは、ここのタヌキがある程度人工物を利用していることを示唆する。
 5月20日になると雪が融け、タヌキの糞も全くといってよいほど変化し、幼虫が多く見られた。この幼虫は体長20 mm程度であった。現時点では不明であるが、量が多いので、ハチなどの集団生の社会昆虫である可能性がある。
 今後も継続して調査したい。

残念ながらその後、うまく継続的に糞サンプルが確保できず、調査は中断しています。

文 献
加藤智恵・那須嘉明・林田光祐. 2000. タヌキによって 種子散布される植物の果実の特徴. 東北森林科学会誌, 5: 9-15. こちら
高槻成紀. 2018.タヌキが利用する果実の特徴 – 総説. 哺乳類科学, 58: 1-10.  こちら
高槻成紀・岩田 翠・平泉秀樹・平吹喜彦. 2018.仙台の海岸に生息するタヌキの食性  - 東北地方太平洋沖地震後に復帰し復興事業で生息地が改変された事例 -.   保全生態学研究, 23: 155-165.  こちら
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・野々村 遥・菅谷圭太・宮岡利佐子・箕輪篤志. 2018.     動物の食物組成を読み取るための占有率 − 順位曲線の提案−集団の平均化による情報の消失を避ける工夫 −哺乳類科学, 58: 49-62. こちら
高槻成紀・立脇隆文. 2012. 雑食性哺乳類の食性分析のためのポイント枠法の評価: 中型食肉目の事例. 哺乳類科学, 52: 167-177. こちら
コメント
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