もう一冊貸し出し予約を入れている本がなかなか順番が回ってこず、その前に
読んだのがこの「深夜の博覧会~昭和12年の探偵小説」です。作者は「たかが
殺人じゃないか~昭和24年の推理小説」と同じく辻真先さんで、同じ探偵が登場する
姉妹作品ですね。
戦争に突入しようとしている昭和12年と、戦後まもなくの24年、いずれも混乱期に
起こった殺人事件を扱った作品ながらテイストはかなり違っていて、深夜~は大正から
昭和初期のエログロ・ムードたっぷりで、たかが~はそのテイストを若干残しつつも
基本新制高校に通う学生たちの青春学園物語が主流です。作者は深夜~のあとがきで、
「江戸川乱歩のパノラマ島奇談に影響を受け本作を書いている」とあり、作中20世紀式
お化け屋敷として登場する『慈王羅馬館』はまさにそのオマージュなのでしょう。
それぞれ単独でも楽しめる作品ながら、探偵役を含め三名が重複して登場するので、
これから両作品を読まれる方は、できたら発表順通り深夜の~が先のほうがいいでしょう。
一部ネタバレも含まれますし。またそのほうが、両方とも戦争を挟み行われた犯罪であり、
一見戦争とは直接関係なさそうで、いや実は戦争がなければそうした犯罪が起こるはずは
なかったのだとする作者のメッセージがより伝わるはずです。
また、12年が『探偵小説』、24年が『推理小説』となっているのは、戦後当用漢字の
制度ができ、漢字が絞られた際、『偵』が外され使えなくなったから呼び方を変えざるを
得なかったことを今回知りました。我々くらいの世代だと、推理小説の呼び名が一番しっくり
くるけれど、現在では『ミステリ』が一番ポピュラーかもしれません。
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