先の旅行期間中終盤に絶妙なタイミングで予約順が回ってきたのが、「禁忌(きんき)
の子/山口未桜(みお)著」です。新聞に掲載されたランキング紹介記事で知って
図書館へ予約を入れたのですが、本書はその後「本屋大賞」にもノミネートされる
などし、現況かなりの予約数が入っていると思われるので、このチャンスを逃すわけ
には参りません。
救急医の元に搬送されてきた溺死体が自分と瓜二つだったのを発端に、身元を割り
出そうと旧友で同僚の医者(この人が探偵役)と調べ始め、彼らの出生の秘密を
知っていると思われる産院の女性理事長にたどり着き、面会を承諾されて医院を
訪れたその日に、彼女は密室の自室で死体で発見されます。おそらく密室を使った
トリックは、この物語とは別に、予め考えていたものを流用したではないでしょうか?
事件の謎をより深める効果はあるとしても、唐突に密室の事件がストーリーに挟まれる
ことには、ちょっと違和感を覚えました。しかし、普通の推理小説の枠に収まらない
のは、発見者らは皆医者なので、放置せず、すぐに救急医療を始めたことです。
この場面を挿入することで、先の違和感は少し薄まり、謎解きを絡ませつつも、
推理小説というよりもあくまで医療サスペンス寄りのドラマなのだとの道筋をより
明確に示せたと思われます。
関係者らがあまりに都合よくそろいすぎるのもやや気にはなりますが、そうした
密度濃い人間関係が描かれながらも、真犯人やその動機が畳みかけられるように
次々明かされる終盤近くまで、完全に著者の術中にはまり、ミスリードに引っ張られ
ました。物語を構築する作者の手腕は相当なもので、解明を進める救急医と探偵とが
謎のベールを剥がすことで徐々に真相に近づくも、それは事件の全貌の一部に過ぎず、
やがて衝撃の新事実が明らかになると、タイトルの真の意味がわかる仕掛けです。
今回の旅で読んだのは、「扉の影の女&支那扇の女/横溝正史著」です。
往きの船内で扉~を、帰りに支那~を読みました。両作品とも表題作のほか、
短編『鏡が浦の殺人』『女の決闘』が同時収録されています。扉~支那~
ともに元々雑誌発表時には短編だったのを、のちに書き足して中長編として
文庫本に収録されたものです。横溝作品にはこうしてあとで手が加えられた
作品が多数存在します。女の~は近年NHKBSで映像化されたばかりですし、
記憶されている方も多いと思われます。
扉~支那~共に金田一耕助が終始活躍し、また、犯人を衆人の目から隠すこと
にも成功しているなかなかよくできた作品です。「金田一耕助の冒険」として
まとめられている短編集のタイトルはすべて『〇〇〇の女』で統一されていて、
その当時掲載誌の企画か何かで、「女シリーズ」として発表されたのでしょう
かね? その一連の作品群から抜きん出たのがこの二作品なのかもしれません。
さて、私の手元にある金田一シリーズは、これでだいたい読み終えたようです。
次回からは「江戸川乱歩シリーズ」に着手することになると思われます。
私が所有しているのは文庫本全集なので一冊が分厚くて、旅のお供として
持ち出すにはかさばってあまりかんばしくありません。でもまあ、乱歩を
読み返すには、なかなかいい頃合いかもしれないですね。
今回図書館でお借りしたのが、「少女マクベス/降田 天(ふるた てん)著」です。
朝日新聞紙上のミステリーランキング記事で紹介されていた本で、筆者の野波記者
は、自身のベスト3として「地雷グリコ」「冬季限定ボンボンショコラ事件」など
を挙げたほかに、『偏愛の一冊』として選んだのがこの少女~でした。いや~私も
すっかりハマって、かなりの長編作ながら続きが気になり、ハイスピードで読み
切りました、とても面白かったです。
実生活では、演劇とかミュージカルとか、ましてや歌劇団などにはほとんど興味を
示さないはずの私が、『演劇小説』となると食い入るように読んでしまうのは、
スポーツ観戦などほぼしないくせに、アニメではスポ根ものに熱中してしまうのと
よく似た精神構造なのかもしれません。この冬も「メダリスト」(フィギュア
スケートもの)とか「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」とかを見てましたしね。
演劇女子学校で天才とうたわれた劇作家志望の設楽 了(したら りょう)が
自身演出したマクベスの公演中に奈落へ転落死、事故死として処理されたが、
死の真相を探るべく入学してきた新入生・藤代貴水(たかみ)と、了をライバル
視していた同級生の結城さやかのふたりが調査を進めると、隠された謎、少女ら
の闇の部分が次々に明るみにされるというストーリー。貴水が170cmを超える
長身であったり、少女の闇が徐々に暴かれる展開などが、アニメ作品「かげき
しょうじょ!!」と少し似ている気もします。かげき~のヒロイン渡辺さらさも
飛び抜けて長身ですよね、両作品とも「少女」がタイトルに入っているし。
かげき~にはミステリー的な要素は少ないとはいえ、本作になんらかの影響を
与えている可能性は高いと思われます。この手の世界につきものの、希望とその
裏腹の葛藤、隠れた努力、妬み、嫉妬、ライバルを蹴落とそうとする競争心
などなど、両作品とも描かれているのは、演劇にかける少女らの揺れ動く青春
そのものなのです。
貴水のボーイッシュかつ愛くるしいルックスがお話に花を添えます。おそらく
表紙絵は貴水をイメージしたものだと思われます。我々世代のアイドルで言うと
伊藤さやかさんとイメージがだぶるでしょうか。貴水同様両性の魅力を兼ね備えて
いた方でしたが、残念ながらアイドルとしては大成せず、もう少し売り出し方が
違っていたり、あるいは登場する時代がずれるなどしていたら一世を風靡して
いたかもしれず、もっと「ヨロシク♡されたい!」となっていた可能性もあった
だけに惜しまれます。
「僕たちの青春はちょっとだけ特別」を借りに行った際、新刊本コーナーで
目について一緒にお借りしたのが「お前の彼女は二階で茹で死に/白井智之著」
です。2022年に文庫本化されたものが、最近になって図書館に配備になった
本のようです。イラストの可愛らしい少女は、ミミズ人間のリチウムなのか
それともマホマホなのでしょうか? いずれにせよ読書中はこの絵は頭から
切り離して読み進めたほうがいいでしょう、どちらの少女もイラストのような
ほのぼのとした雰囲気とはかけ離れ、過酷な運命を背負います。
妹のリチウムを死に追いやった者を探し出そうとする兄で刑事のヒコボシの
復讐劇に、それぞれの異なった事件が絡み合う二重構成で、事件解決のたび妹の
死の真相に近づくというのが大筋です。各エピソードタイトルが『ミミズ人間は
タンクで共食い』『アブラ人間は樹海で生け捕り』『トカゲ人間は旅館で首無し』
『水腫れ(みずばれ)の猿は皆殺し』そしてラストが『後始末』となります。
タイトルから内容を想像できる方はまずいないでしょうねえ。舞台は現代日本に
限りなく近い世界のようですが、そこにミミズ、アブラ、トカゲなどの特性を
持つ異端者が入り乱れる、異次元的な特殊設定下で事件が起こります。容易に
異世界などに転生、何でもありの世界観に親しんでいるアニメ好きなどのほうが
この設定には馴染みやすいかもしれませんね。やわらか頭でない方々だと端から
置いてきぼりを喰らうかも。
これまでも何度か触れているように、白井作品はけっしてお上品ではなく、相当に
エログロい内容が展開される(カバーイラストからはまったく想像できないような)
ので、人によっては拒絶反応を起こす恐れもあり、一般に広くお勧めするのは
難しいかもしれません。しかし、私のようにグロさに特別強い耐性があるわけで
ないにもかかわらず違和感少なく読めるのは、いつもながら白井さんの筆さばきが
ポップでライト、徹頭徹尾ドライタッチなのに尽きるかなと思います。でなければ、
あらすじや描写内容だけみると完全に有害図書指定? 実写映像化はまず不可能
ですし、アニメ化ですらも無理でしょう。
しかしグロい内容と相反するように推理は本格派、しかも多重解決は当たり前、
いくつもの解決パターンが用意され、それにより犯人、犯行手段などがコロッと
覆されるので、最後まで気が抜けません。主役級が途中あっさりいなくなったり、
あるいは犯罪を犯したりする主客転倒も常套なので、主役サイドに感情移入して
読むのもやめた方が無難です。この本でも、全編通しての主役であり探偵役で
あるはずの刑事・ヒコボシは、ミミズ人間の少女マホマホを拉致、監禁しており、
妹の死の真相に迫るという大義名分はあれど、正義とは真逆の立ち位置だし、
最初から意図したものではないにせよ、後輩の女刑事を結果的に殺害します。
「真の名探偵」で事件の謎を解くキーマンだと見られていたマホマホも途中退場
しますしね。
朝日新聞紙上の書評を参考にしてお借りしたのが、「僕たちの青春はちょっとだけ特別
/雨井湖音(あまい こおと)著」です。『学園ミステリ大賞』を受賞した作品とのこと。
ところが読み進めても一向にミステリーっぽくなってこず、たしか「ミステリー」の
カテゴリー内で紹介していたはずだよなあ、思い違いだったかも…とだんだん自信を
失う始末です。このところ私が積極的に読もうとするのは、ほぼすべてミステリーに
絞り込まれているのにねえ。
主人公・青崎架月(かづき)が高等支援学校(特別支援学校)に入学するところから
物語は始まり、多くの出来事が彼の視点を中心に展開、描かれます。新たな学校での
新しい生活、学習、そして一からつくり上げなければならない同級生や先輩、先生ら
との人間関係などなどが、フレッシュかつ繊細なタッチで描写され、淡々と物語は
進行しながらも読みごたえがあり、やがて、別にミステリーでなくても面白いから
いいかなと思い始めた頃学校内で事件が発生、探偵役を担う架月は仲間らの手を
借りつつ解明に尽力します。学園ミステリーものは多々あれど、支援学校を舞台に
したミステリーはおそらくは珍しく、「ちょっとだけ特別」なのかもしれません。
彼らは皆、何らかの軽度の知的障害を持ち、しかしその程度や内容が各々異なっていて、
そのため行き違い、コミュニケーションがうまくとれず、誤解が生じることも多々あり
ます。ですが、ひとつの事件を解決するたび彼らはお互い理解を深め、少しずつ成長
するのです。自分の気持ちをうまく表現することが苦手な彼らは戸惑い、不意に傷つき、
また思いがけず不用意に相手を傷つけることもあります。こちらもつられてハラハラ
ドキドキ、彼らの日常そのものが波乱含みで、その相乗効果が謎解きをいっそう盛り
上げていることに気づいたのは、読み終わってからでした。
勢いでそのまま続けてお借りしたのが「巴里(パリ)マカロンの謎/米澤穂信著」
です。新刊書でない場合借りる際のメリットは、待ち時間がないことですかね。
四つの短編からなる巴里~は、新キャラクター・中学生の古城秋桜(こぎ こすもす
=小佐内さんの妹分的存在、秋桜には「ゆきちゃん先輩」と呼ばれ慕われている)
を加えた連作的な三編と、小鳩くんの友人で本編でもしばしば登場し活躍する堂島
健吾が所属する新聞部での事件とで構成されます。新聞部を舞台にした事件『伯林
(ベルリン)あげぱんの謎』は、「春期限定いちごタルト事件」の中のひとつの
エピソードとして組み込まれアニメ化されすでに放映済みで、読み進めるうちに
トリッキーな仕掛けなどを思い出しました。
『小市民シリーズ』の番外編的に用意された本作は、どのような経緯で執筆される
ことになったのかは存じ上げません。出版順として、「秋期限定栗きんとん事件」
と「冬期限定ボンボンショコラ事件」の間に位置付けられ、私の当てずっぽうな
推測では、秋期~では主役コンビが解消、別々の道を歩み始めていて、ふたりが
絡むシーンが少なく、さらに、もしも最終章の構想がこの時点ですでに出来上がり
つつあったのなら、冬期~では小鳩くんが入院し、やはりふたりが共に行動する
機会が極端に少なくて、それを補う意味での番外編の登場でなかったかと思います。
スイーツ好きの小佐内さんに引っ張り回され、甘党のお店での会合が互恵関係を
結んでいるふたりの常日頃で、それを契機に事件に巻き込まれるのがパターンなら、
その点むしろ巴里~が本流とも言え、秋期~と冬期~で不足がちになってしまった
場面を補填したように見えてきます。
時系列的に巴里~は、春期~と「夏期限定トロピカルパフェ事件」の間の位置付け
なので、これから読もうと思われている方なら、その順番で読むのもひとつの手
でしょう。ただし、巴里~でのまずまず平凡な日常を堪能した後、夏期~で一気に
暗転することになるので、その落差への覚悟は必要かもしれませんよ。小市民
シリーズは、おいしそうなスイーツがわんさか出てきて、米澤さんの軽妙洒脱な
語り口と合わせ、一見ほんわかしてそうなはずなのに、実際にはかなり辛辣な
お話がさりげなくスパイスされているがミソで、そんな「甘い砂糖菓子」ばかりな
世界が描かれているわけではないのです。無難な読み順としては、執筆順に従い、
秋期~のあとに巴里~を読まれるのもいいでしょう。
でも一番は、たまたま今回私がそうしたように、全シリーズの最後に巴里~を
持ってくることをお勧めします。『花府(フィレンツェ)シュークリームの謎』
で秋桜の冤罪を晴らし窮地を救ったふたり、小佐内さんには一流パティシエの
手によるお礼のスイーツがあふれんばかりに用意されました。「ええと、ねえ、
わたし、死ぬの?」 目を潤ませ、舞い上がり、素っ頓狂なセリフを吐く
小佐内さんの幸せそうな様子はこのシリーズ最高潮のハッピーエンド、これで
物語の幕引きとするのが、上質のお菓子をいただいたあとのような、後味の
いい締めくくりだと思うのです。
ここまで来たらすべて読み切ろうと、「春期限定いちごタルト事件&夏期限定
トロピカルパフェ事件/米澤穂信著」を借りました。これで、『小市民シリーズ』は
完読となります。と、思いきや、シリーズにはもう一冊「巴里マカロンの謎」なる
番外編的?なのがあるようで、まだもう少し楽しみを先延ばしできそうです。
春期~と夏期~は昨年アニメ化されたのを先行して視聴していたので、私としては
このたびの読書は「復習」となるでしょうか。なんだかもう、ずいぶん前に見た
アニメのような気がしているのに、実はつい昨年の出来事なんですよね。一部
ブルーレイに保存するなどして繰り返して視聴する作品のほかは、原則見終えると
どんどんハードディスクから消去していくので、ついでにその際、私の頭からも
大部分消え去るようです。各シーズン、凄まじい数のアニメが放映され、できる限り
視聴数を絞ってみても相当数の作品を浴びるように見ることになり、インパクトの
ない作品からみるみるうちに忘れ去らないと、容量の乏しい私の頭はすぐにでも
パンクしてしまうでしょう。
今回原作に触れてみて、忘れかけていたアニメの内容を思い出しました。細々した
ところは忘却の彼方で記憶は曖昧なのですが、テレビシリーズは基本原作に忠実に
ストーリー展開されていたようです。ただ、小鳩くんの実家が和菓子店となっている
(小説では家庭環境は述べられていないはず)など細かな点は設定が変わっているし、
原作では確か「細長い」と表現されている小佐内さんの目がアニメではくりっとして
いたり、身長も小学生と間違われるほど低くは描かれていなかったと思います。
この差異は、片山若子さんによる本のカバーイラストにも共通して言えることで、
幅広い層の支持拡大を狙ったビジュアル面での上方修正なのでしょう。
こうして読み直してみると、春期~はいくつかの関係ない事件が脈絡なく並べられ、
唐突にラストに流れ込むような印象を受けるのに対し、夏期~になると、途中挿入
される一見関係なさそうな事件がすべてラストの誘拐事件への布石になっていて、
完成度の高さ、読みごたえとしては夏期~に軍配が挙げられましょうか。
夏期~では、小市民を目指していたはずの小佐内さんが中学時代に逆戻りしたかの
ように「復讐」の鬼と化し、必要以上にやり過ぎて一線を越えてしまったことを
小鳩くんに看破され、これを機に二人の互恵関係は解消するのです。
*米澤穂信さんが直木賞選考委員に選ばれたことを今朝の新聞記事で知りました。
おめでとうございます。
このところ恒例になりつつある遡りパターンで、「秋期限定栗きんとん事件・
上下巻/米澤穂信著」を図書館でお借りしました。♪ ときが未来にすすむと
誰がきめたんだ~ ∀ガンダムがリバイバル放映中ですしね、関係ないけど。
改めて、西城秀樹さんの歌う主題歌、かっこいいですよねえ。
この秋期~の発表が2009年とのことで、続編「冬季限定ボンボンショコラ事件」
まで15年も待たされ、ファンはさぞかし待ちくたびれたことでしょう。中高生で
『小市民シリーズ』にハマった方々は、それぞれ年齢を重ね、生活環境も一変した
でしょうしね、登場人物たちは変わらず高校生のままだけど。後出しじゃんけんで
遅ればせながら楽しませていただいた身としては、待ち時間なしで読めるのが
メリットだとしておきます。
主人公のふたり、小鳩くんと小佐内さんは中学時代にある事件をきかっけに
知り合い、友達以上恋人未満のような付き合いをしていて、また、小市民を志す
同志的存在でもあったのに、「夏期限定トロピカルパフェ事件」を契機に別れ、
秋期~ではお互い別々の相手とのおつきあいを始めます。そして、小鳩くんと
小佐内さんの彼氏である一学年下の瓜野くんをそれぞれ語り手に、別々の物語が
交互に進められ、それがやがてひとつに結びつきます。これは続編冬期~で
過去と現在が最終的に重なる構成と少し似ているかもしれません。連続放火事件
にケリがついたとき、二人の関係を修復するべく、復縁を提案する小佐内さん
のセリフがいいですよね、「…白馬の王子様がわたしの前に現れるまでは…
わたしにとってはあなたが、次善の選択肢だと思う…」。従順そうな見掛けに
よらず、一筋縄ではいかぬ面倒くさいタイプなんですね、小佐内さんって。
カバー画を手掛けているのがイラストレーターの片山若子さん。アニメ版の
キャラデザインとはかなり異なっていて、私としては強引に両者を足して2で
割ったような容姿を勝手に思い浮かべながら読み進めました。あえて言うなら
小鳩くんはアニメ寄り、小佐内さんはイラストがイメージに近いかな。
小佐内さんは制服を着ていなければ小学生と間違えられかねないほど小柄で、
あどけなくて頼りなさげなんだけど、信念を貫く頑固な一面もあり、自分に
危害をくわえるような動きを察知すると、逆にわなを仕掛けやり返します。
今回ひとつ、小佐内さんと私との共通点を見つけました。それは、レシート
を本の栞替わりに使う点です。旅先の図書館で後日続きを読みたいときとか、
館の見取り図、登場人物の相関関係図など何度も見返したい箇所が複数ある
場合などにレシート挟んででしるしをつけるのです。レシートはけっこう
重宝し、ガムの包み紙にしたり、メモ書きに使ったりと、二次利用してから
捨て去ることが多いですね。あんまり溜まってくると、掃除の際一気に
捨てちゃうけども。
さあ、これでアニメ視聴の予習ができました、いつでもかかってらっしゃい!
順番が回ってきて図書館でお借りできたのが、「冬期限定ボンボンショコラ事件/
米澤穂信著」です。新聞のミステリー小説ランキング記事で紹介されていたのが
読もうと思ったきっかけで、米澤さんはランキング常連者、この冬期~も三つの
ランキングで2位に選出されたそうです。
青春ミステリー『小市民シリーズ』四部作の完結編にあたる冬期~からいきなり
読み始めていいものかどうかが思案のしどころ、昨年アニメ化された『春期限定
いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』を先に見ていたので、
たぶん世界観にはついていけるだろうと思い切って手にしてみることに。ちなみに、
すでに『秋期』と『冬期』もアニメ化が決まっているようで、期せずして、私と
しては珍しく、原作を先行して読んでいる作品を近々アニメで見ることになります。
ただし、冬期~巻末の解説文には「予備知識なしで読んでこその趣向が秘められて
いるので、できたら春期~だけは先に読んでおいたほうがいいでしょう…」と
薦められていて、これから読まれる方は、それに従ったほうがいいかもしれません。
昨年アニメ化されたばかりで、私としては「最新作」の感覚なのに、実は小説版
春期~の発表からすでに20年も経過しているようです。もしかしたら携帯電話から
スマホに進化するなど社会情勢にも変化があり、細かい設定が微妙に変わっている
可能性もありますかね。
さて、私はアニメ版と小説版で、同シリーズとはいえ違うタイトルの作品にしか
触れていないので、かなり強引に両者を比べてみての感想は、小説版のほうが
ずっと面白かったということです。すでにテレビシリーズは消去していて見返せず、
記憶をたどるしかないのですが、アニメ版が少々まどろっこしく感じるのは、原作
では主人公・小鳩くんの独り語り、モノローグがたいへん多く、これを動画として
処理するのが難しいからではないでしょうか? 原作のニュアンスを重視して表現
しようとすると、静止画のまま膨大なセリフ量が必要でしょうし、動きがあって
こそのアニメでは、アクションが少なくなり物足りないのかもしれません。特に
この冬期~では、小鳩くんはひき逃げ事故にあい、体が自由に動かせずほとんどが
ベットに横たわったままで、より一層「静」の場面が延々続くことになるので、
脚本がさらに重要になるでしょう。その点を含め、どうアニメ化するのかとても
興味深いところです。
中学時代、自分たちは推理力に長けていると思い込んでいた二人は、積極的に
事件に関与、謎解きを披露しますが、ある失敗をきっかけに高校では『小市民』
として、なるべく目立たないようにすることを目標にします。しかし実際には
次々と事件に遭遇し、禁を破るかのように、否が応でも謎に挑むことに。冬期~
ではその失敗した事件が回想され、そこで小鳩くんと小佐内さんが初めて出会った
いきさつが語られて、やがてその過去の事件が小鳩くんがひき逃げにあった現在と
結びつき、緊迫のラストへと事態は静から動へ急展開するのです。
シャーロック・ホームズ読書シリーズ第九弾、「シャーロック・ホームズ全集9・
シャーロック・ホームズの事件簿/アーサー・コナン・ドイル著」を図書館で
お借りして読みました。ホームズとの長い旅もこれで終わり、感慨深いですね。
これ以前に、ホームズ・シリーズは何度か終わりを迎えるタイミングがあり、
都度不死鳥のように蘇りました。前回の全集のタイトルが「~最後の挨拶」、
ホームズの示唆に富むようなセリフできれいに物語が締めくくられていたはず
なのに、それでもなおまた筆をとったのは、ドイルの経済的理由が大きいそう
です。晩年「心霊術」の研究などにのめり込んだドイルには、それ相応の資金が
必要だったとのことです。
でもまあ理由はともかく、60歳を超えた晩年のドイルがもうひとがんばり
してくれたことで、さらに12編もの短編を残してくれたのですから、感謝
しかないですね。円熟味をさらに増し、よりこなれた文章で読みごたえがあり、
私は~の事件簿をけっこう気に入りました。しかしさすがに斬新なネタは枯渇
したのか、『三人ガリデブ(三人のやせ型と太っちょ?←違います)』の
ように、以前の『赤毛同盟』の焼き直しのようなストーリー展開も散見する
せいか、一般的には、この短編集はあまり高い評価を受けていないようです。
私が気に入った作品は、『這う男』とか『サセックスの吸血鬼』みたいな
超常現象まがいの怪奇ホラー的な作風のものです。心霊術研究に傾倒していた
ドイルは、さらにホームズ譚を書き連ねていたとしたら、こうしたオカルト風
な作品を数多く残したのかもしれません。ドイルが怪奇ミステリーの始祖的
存在でもあったとすると、一見超常現象が引き起こしたかのような事件を、
科学的見地で解決するという流れは、たとえば現在放映中のテレビアニメ
「天久鷹央(あめく たかお)の推理カルテ」などなど、その後も途切れること
なく現在に至るまで影響を与え続けていると言えましょう。天才女医・天久は、
摩訶不思議な事件をあくまで医学的・科学的知見を駆使して解き明かします。
余談ですが、マンガとかラノベとかが原作のミステリーもかなりレベルが高く、
小説と比べてまったく見劣りせず、卑下する必要性はまったく感じられません。
この前まで第二期が放映されていた「鴨乃橋(かものはし)ロンの禁断推理」
などもとても面白く拝見しました。鷹央やロンもホームズに負けず劣らずの変人、
奇人、頭は切れるが性格は破綻気味、私生活はかなり奇天烈なのがお決まりで、
このあたりも、脈々とドイル・イズムが引き継がれていると言えますかね。