旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

今回の旅で読んだ本~本陣殺人事件&グッド・バイ

2021-12-17 19:25:00 | 図書館はどこですか



前回の旅行中、持参して読み終えた本は「本陣殺人事件/横溝正史著」と「グッド・バイ/太宰治著」
の2冊でした。

天候に恵まれず、読書する時間がたくさんあった割に読んだ本が少ないのに理由は様々ですが、
ひとつ大きな原因は、昼間時間の短さですかね。午後3時頃には車内はすでに薄暗く、朝は7時を
過ぎないと読書に適するような明るさにならないことから、日中の行動時間が限られる中で、
読書にさける時間が必然少なくなったのでした。


本陣~は中学生のときに読んで以来の再読です。金田一耕助初登場作品としても有名で、何度か
映画化、テレビドラマ化もされているなど、ストーリーやトリック、犯人などはすり込まれ済みの
作品です。ただし、細かい部分はほとんど忘れてしまってはいました。このところ横溝さんに関する
解説本などを読むにつけ、本陣~に対する評価が高いことを再認識し、もう一度読んでみたいと
思っていたのです。横溝ブームに火をつけたひとつの要因であろう杉本一文さんによるカバー
イラストがインパクトがあり、まず圧倒されます。

読んでみての感想は、もちろん面白いのですが、期待しすぎたのが災いするのか、やや拍子抜する
感ありです。初登場の金田一の描写が少々ぎこちないのと、トリックの道具立てが大掛かりなのが
気になるからでしょうかね。推理小説としての出来栄えでは、のちの「悪魔の手毬唄」とか
「悪魔が来りて笛を吹く」等の作品に、私としては軍配を上げます。

むしろ同時収録されている中短編の『車井戸はなぜ軋る』と『黒猫亭事件』のほうが、文章が
こなれていて、トリックも明快で鮮やか、私としては高評価です。横溝自身、黒猫亭~を書いて、
ようやく金田一に親しみを持ち始めたと述べているように、この事件解決への過程で、金田一の
人格なり性格なりがより深く肉付けされ、いきいきと動き始めるようになり、このあと多数の作品で
難事件に挑み、解決する下地が出来上がるようです。


本陣~については、時間をおいてもう一度読み返してもいいかもしれません。フェリーの中でやや
時間に制約を受けながら慌ただしく読んでしまったことへの反省があるので、いずれまたじっくりと
向き合い、戦後初となる本格推理ものとされ、金田一が初々しく登場する本作を何度も体感する
ことで、この作品に対する私の評価にも変化がある可能性があります。


    

グッド・バイは、太宰の後期作品16編を収録した短編集で、中でも巻末の『グッド・バイ』は
未完の絶筆となる太宰の死後発表された作品です。

戦時中疎開するなどし、どうにか生き延びた太宰でしたが、終戦後も結局何も変わらない日本人、
人間に愛想をつかすように絶望を書き綴った『斜陽』や『人間失格』等の、のちに代表作とされる
大作を完成させると、憑き物が落ちたようにガラッと作風を変え、新聞連載用に書き始めたのが
グッド・バイだったようです。

軽妙洒脱な文章、ストーリーは新境地と言ってよく、たとえば手塚治虫さんが好むような男装の麗人的な
ヒロインの登場、そしてそれを一人二役的トリックと見立てると、前出の横溝さんが書いてもおかしくない
ような探偵小説的展開となるなど、これまでの多くが太宰本人を主人公に仕立てたような私小説的な
内にこもる作品だったのとはまるで別物の冒険風活劇です。これがもし完結していたなら、新たな代表作に
加えられていたかもしれず、その後の飛躍、活躍を考えると、ますますその早すぎる死が惜しまれます。

斜陽、人間失格といった有名作品の陰に隠れがちながら、収録された16編はいずれも佳作ぞろいで、
全般軽いタッチ、一見明るいムードが漂ってはいても、内実は深く重く、悲壮感あふれる作品が並びます。
中でも私が一番お気に入りなのが『眉山』で、途中何度か吹き出してしまうほど面白おかしい滑稽話を
展開させておいて、最後わずか数ページで場面は一転、せつなくやるせなく物語は終焉を迎え、悲しみが
いつまでも余韻を漂わせながら何度も押し寄せるのです。

この短編での場面切り替えの鋭い冴えが、太宰文学の大きな魅力の一つだと私は考えます。

コメント
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