今回は、「ボーン・コレクター ジェフリー・ディーヴァー/著 池田真紀子/訳」
を図書館でお借りして読みました。当時映画化されたことは知っていて、でももちろん見た
ことはなく、「サイコスリラー」とか「猟奇的」なストーリではなかろうかと、タイトルから
なんとなく勝手に想像していた作品です(概ね的外れではなかったようでしたが)。
読むきっかけとなったのは、朝日新聞夕刊(朝刊だけでなく、夕刊にもおすすめ本コーナーあり)
で紹介されていたのに触発されたからです。以前述べたように、作品に興味を持ち、読んで
みたいと思っただけの本はたくさんあって、しかし読むには至らず、そのまま忘れ去られる
ことがほとんどなのに、今回のケースのようにトントンと手筈が整い、衝動のまま勢いで読めて
しまうことが稀にあるのです。新刊でないこともあり、待ち時間なくすぐに借りられましたしね。
先般、実質的に初めて読んだ洋書と言っていい「ザリガニの鳴くところ」の影響、後押しが
あったのは間違いありません。それで洋書に対するアレルギーが若干薄まったのは確かです。
と、自信をつけて読み始めたものの、やはり出だしから、人物名が覚えきれず混乱しました。
巻頭に人物紹介欄がないので不親切、誰が誰やらさっぱりで、当初はその人物が最初に登場した
くだりへ戻り確認するを繰り返しましたがそれにも限界があり、そのうちあきらめ、わからない
ものは捨て置いて、読み進めました。なので、多少ちんぷんかんぷんなところはあったとしても、
一々気にせずかまわなかったのです。もちろんストーリー(続き)が気になって前のめり、少しでも
早く先へ話を進めたかったこともあります。人物名を完璧に把握できていたのは主人公のふたり、
リンカーン・ライムとアメリア・サックスだけだったでしょうか。そのふたりにしたって、
「アメリア」だったり「サックス」だったりと、臨機応変呼び方が変わるので、馴染むのに
だいぶかかりましたけど。
読む上で難儀した原因は、文章が先のザリガニ~ほど詩的、上質、かつわかりやすいものでないことも
挙げられましょうか。比喩というのかまわりくどいというのか、一呼吸置かないと状況を呑み込めない
ことが多々あり、さらに専門用語がこれでもかと網羅され、畳みかけてくるのがそれに拍車を掛けます。
私のレベルでは、難解でとっつきにくい箇所もあり、正直読みこなすのに骨が折れました。
この前の小松左京さんの「日本沈没」などでも同じことを感じたのは、執筆に必要な参考資料を得る
ための取材量が半端なく多いであろうことです。その集めた資料を学習し習得、発展、さらにかみ砕き、
一般でもわかるようできるだけ平易な文脈で物語に取り入れながらストーリーを構築していく作業は、
並大抵のことではないと思いました。ボーン~の作家ジェフリー・ディーヴァーも、小松さんに負けず
劣らず半端ないなと唸りましたよ。元々の豊富な知識に加え、執筆で必要となる専門分野の情報収集力、
学習力および吸収力等々の能力が図抜けており、一体全体頭の構造、どうなっているんでしょうかねえ。
ボーン~では最新(といっても25年くらい前)の科学捜査で犯人を追い求め、その多彩な分析手法で
ごくわずかな遺留品を解析し、砂漠から小さなダイヤモンドを探り当てるがごとく手がかりを拾い集める
緻密な捜査手法が圧巻です。登場する分析手段は架空のものでなく、すべて現場で実践されているもの
ばかりなんでしょうかねえ。一つ気になったのは、物語内で「防犯カメラ」のことには一切触れられて
いない点です。発表されたのが四半世紀前とはいえはるか昔の話でなく、当時のニューヨークを舞台に
物語が繰り広げられる割には、不思議に思いました。その頃だとまだ、防犯カメラって今日ほど普及
していなかったのですかね。
というのも、現在では防犯カメラの画像解析が捜査の基本であり力点が置かれ、事件解決への近道
といった印象で、実際それが決め手で犯人検挙につながることを報道で見聞きすることが大変多い
ように感じるんですよね。簡便ながらも有力で確実な捜査手法ゆえ、逆にそればかりに頼りすぎると、
リンカーン・ライムのような凄腕の科学捜査官が育たないような土壌となり得るのを心配します。
個人的には読み込むのに少々苦労した難解作品でしたが、本の内容は掛け値なしに面白かったですよ。
分量もすごいので、年末年始のお供に最適、お勧めします。でも、スリルとサスペンスは増す一方、
読み始めると止まらなくなるので、意外に短期間で読破してしまうに違いありません。