水場周辺のリュウキンカを数枚撮影したところでカメラが突然故障、エラーメッセージ
「電源を入れ直すか、バッテリーを入れ直してください」との指示通りにしてみても
復旧する気配がなかった。
テン場に戻った北海洋さんと検討してみたがらちが明かず、目の前が真っ暗に。写真撮影を
最大の目的に山に登っている私にとって、カメラがないことは、ほぼ全ての楽しみを奪われたも
同然なのだ。
いくつか選択肢があった中から、とんぼ返りして車に戻りカメラを予備機と交換、再びテン場へ戻る
ことにした。つまり、一日のうちに一往復半するわけだ。この時点でまだ9:30前で、時間的には
十分明るいうちに戻れるタイミングではあった。ただし、私の体力が持ちこたえられるかどうか…
時間が惜しい、行動食だけ口に放り込んで、すぐさま出発した。ゆっくりしていると、動くのが
嫌になってきそうだからでもあった。
写真は緑岳へ向かう途中の稜線で撮影。この時点で青空の面積がどんどんなくなっていた。
空身とはいえ長距離歩行だ、壊れたカメラとともに、雨具、防寒着、ヘッドランプ、飲み水等々
最低限の日替わり装備は携行して、アクシデントなどには備えていた。
下ってきて、第一花畑から緑岳を振り返る。いつ雨が降り出すかわからないほど、山上は
厚い雲に覆われていた。逆に言うと、そのままカメラが健在で、山上に留まっていたとしても
この気象条件では撮影はできなかったであろうから、その点、妙にあきらめはつきやすかった。
正午前に高原温泉の駐車場に到着。道々考えていた通りの作業プランで、まずカメラ交換、
それと二日分の食料を追加で召集、さらに抜け目なくウイスキーも増量した。プラン通りと
言ってもなにせ予期せぬ事態であり、しかも時間もあまりかけられず大慌てであって、食料は
当てずっぽうでそろえるしかなく、もちろんここにはコンビニがあるわけでないので、
たとえばパンなど生々しいものは、新しいものを追加して用意することはできなかった。
おまけに、カメラ用の予備のバッテリーを加えるのを忘れてしまった。山上滞在期間が長くなると
すると、さすがに電源効率がいい5D3とはいえ、予備電池がひとつだけではかなり心もとなく感じる。
召集プランとして頭にはあったのに、酒は忘れないにもかかわらずこれだ!
温泉につかっている余裕はもちろんなく、行動食だけコーヒーで流し込み、ビタミンドリンク1本飲んで、
45分間ほど作業時間と休憩を兼ねて車内に滞在したのち、すぐさま踵を返し再びテン場へ向かった。
第二花畑から緑岳を望む。
ガレ場途中から高根ヶ原方面を望む。快晴だった早朝とはすっかり趣を異にしている。
下山してくる登山者とすれ違ったのはこのあたりが最後だった。そりゃそうだ、すっかりいい時間に
なってきている。
それなりに快調に飛ばしていたのに、いや、私としては飛ばしすぎたからだろう、ガレ場を
登っている途中から足が動かなくなった。完全にオーバーワークなのだ、そのうち右足に
違和感を感じながらも、なんとか山頂までたどり着いた。
周囲ガスに囲まれ、まったく視界が利かなくなっている。
板垣新道の雪渓が終わる付近から白雲岳避難小屋を見上げる。
小屋近くのキバナシャクナゲがきれいだった…と、今から振り返ると、「余裕あるやんか!」と
自分で突っ込みを入れたいくらいなのだが、実際にはもうバテバテで、その上足も痛く、
消耗しきっていたのであった。
テントに戻ったのが16:00前、山時間としても正常な到着範囲内であろう。しかしもう完全に
疲れ切っていてクタクタ、食事の準備などするのも大儀であった。北海洋さんに加え、旭川のRさんなど
知人もいたのに、思わぬトラブルで時間をとられ、ゆっくり話できなかったのがもどかしかった。
Rさんは明日、ヒサゴ沼避難小屋に向け出発するそうだ。改修工事予定で、今期は使用不能と
告知されていたはずの小屋とそのテン場であったが、実際には予定がずれ込み、まだ使用可能
だということだ。実は私も、食料が増したことで色気が出て、化雲岳までピストンしようかと、
一度車に戻ることが決まってから検討を始めていたのである。
しかし結果としてそれどころでなくなり、足の痛みは顕著化し、ひどくなる一方であった。もしかして
自力で下山できなければどうなるのだろうかとか、そんな不安と足の痛みとで、疲れているはずなのに、
この夜はあまり眠れなかった。
予報のいい週末、テントが36張りもあって、周囲がにぎやかだったこともある。
居酒屋のノリでしゃべり倒していたおばちゃんらのグループ。翌朝、別の登山者に注意指導を
受けていた。