活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

不肖・宮嶋南極観測隊ニ同行ス

2009-11-03 14:31:58 | 活字の海(読了編)
著者:宮嶋 茂樹 構成:勝谷誠彦 新潮文庫刊 定価:514円(税別)
初版刊行:平成13年 8月 1日
入手版 :平成19年 1月30日(5刷)


もう暫く前になるが。
「面白南極料理人」(著:西村淳)の書評を書いた

今夏には映画にもなったので(これには結構びっくりした)、
ご存知の方も多かろうと思う。

極限環境で過ごすことを強いられる南極越冬観測隊。
その中でも、これを究極完全奥義ともいうべき環境下で過ごす、
富士ドーム基地での一年間の越冬記を基地専属料理人である
西村氏の視線で描いたエッセイである。

※ このエッセイ。
  実は、「オホーツク圏の総合情報サイト Web news」という
  サイトにオンライン連載されたエッセイだとか。
  実際に、Webで全ページが読めるのには吃驚した。


まあ作者も日々の食事と合わせて、越冬隊員達をその毒舌の俎板に
乗せて料理していたのだけれど(笑)。

その氏をして。
もう少し”真面目に書け”と怒らせてしまったのが本書。
「不肖・宮嶋 南極観測隊ニ同行ス」である。


”不肖・宮嶋”氏の名前は週刊誌等で見知っていたが、これまで
その著書は読んだことが無かった。

今回は、西村氏と同じ南極観測隊に同行していたということを知って、
ではそちらではどのようにあの珍道中記は書かれているのか知らん?
と思ったのが本書を手に取ったきっかけである。


本自体は、解説を入れても300ページ弱。
しかも、本業が写真家の氏だけあって、随所に丸々1ページの写真
図版が挿入されているため、2時間ほどで読み終えることが出来た。

文体も、特に読みにくい、というようなものではなく。
むしろ随所にニヤリ。場所によっては思わず声を上げて笑いそうになる
ようなエピソードをうまく盛り込みながら話しを積み重ねていくので、
さくさくと読める。

ただ、問題は2点。

一つは、あまりの品の無さ(笑)。
いや、別に気取る積もりは全く無い。
僕も成人男子の端くれとして、Hなことは大好きである。
大好きでは有るが、こうも随所に迸るようにそれ系の欲望が筆が及ぶ、
というのは。

最初は、かなりゲンナリした。
もっと言うと、下品さに読み進めるのを躊躇する位であった。

が。
氏が南極に上陸し、環境の過酷さのボルテージが上がるに連れて、
そうした記述は、一箇所を除いて見事に霧散したので、その対比は
まあ良かったと思う。

(流石に、そんな妄想を持つ余裕は持てなくなった、といった所感が
 書かれていたっけ)


もう一つは、その書かれたエピソード自身の問題。

氏の書き起こしたものだけを読むと違和感は無いのだが、前述した
西村氏の著作と照らし合わせたりすると、そこに書かれている話の
展開が微妙に異なることが引っかかってきたりする。

例えば、西村氏も言及しているので分かりやすいが。
ドーム基地で発生した、基地貯蔵庫へ続く雪洞の落盤事故の描写。

不肖・宮嶋氏の著述では、氏の眼前で落盤が発生!
氏は間一髪!野獣の様な勘で危機を察知、回避した後で、被災者の
救助に当たったようになっている。

ところが、西村氏によれば、”死んでもカメラを離さない”ことが
信条の筈の氏は、真っ先に現地から逃げ出したことになっている


もっとも。
”不肖・宮嶋”氏については。
宮嶋カメラマンが書き起こした元ネタ原稿をベースに、勝谷誠彦氏が
リライティングしているらしい。
その過程で、物語を最大限に面白おかしくさせるような誇張が混入
することは、大いに有り得るだろう。


そして、実際に現地で苦労をした西村氏や他のメンバーからすると、
話をこんなに混ぜっ返しやがって、となるのも理解出来る。

ただ、僕達のように第三者としてそれを読む分には。
適当に割り引いておけば済むレベルであるが。

実際、数多く収録された写真は、現地の様子を文章とは又違った形で
直截的に理解する手助けにもなるし。

文中に書かれた様々な小ネタも、南極というアルティメイテッドな
環境を理解する上で、非常に有意義だった。

例えば。
SM100型と言われる雪上車が1台8千万円もすることや、
燃費が驚愕の250m/1L(!)であること等は、本書を読んで
初めて知ったことである。

その他、料理人としての西村氏とは異なる観点から南極観測隊を
眺めた同行記として、本書はそれなりに面白かった。

出来れば。
”不肖・宮嶋”氏には、越冬隊の入れ替わり時の同行といった
中途半端なものではなく。
1年間という長き期間を富士ドーム基地で是非過ごして、
その模様をレポートしていただきたい。

更に、願わくば。
その際には、西村料理長も3度目の越冬隊に参画していただき、
両者のエッセイを読み比べてみたい。


小春日和の11月。
ぬくぬくとした陽だまりからの陽光を眺めつつ。

(この稿、了)





不肖・宮嶋南極観測隊ニ同行ス (新潮文庫)
宮嶋 茂樹,勝谷 誠彦
新潮社

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Webで見るのは、面倒くさい。
いつでも、どこでも読みたいんだ!という方は、こちらをどうぞ。
面白南極料理人 (新潮文庫)
西村 淳
新潮社

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2 コメント

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おとしてました (hama)
2010-01-26 23:09:38
 たしかに、しらせの後部でもカメラ落としてましたね(笑)
返信する
それもまあ (MOLTA)
2010-01-27 01:46:49
コメントありがとうございます。

まあ、そうした自分に正直?な行動も。
愛すべき、彼のキャラの表れということで(笑)。
返信する

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