壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

つつじ

2009年04月15日 20時33分33秒 | Weblog
 春たけなわの候、野山に自生して、しかもたいそう美しい花の木に、躑躅(つつじ)がある。
 躑躅はまた、観賞用に庭園や公園など、いたるところに植えられ、春から夏にかけて漏斗(ろうと)状の花を開く。
 種類もはなはだ多く、植物のスペシャリストから、次のように教えられた。

 「“紅もゆる”とうたわれるのはヤマツツジで、紫紅色でガクの粘るのがモチツツジ、枝端に三枚の葉のつくのがミツバツツジ、朱色系のがレンゲツツジ――と知っていれば山地の目立つ躑躅はマスターできる。
 庭園で、濃紅色の小花はキリシマツツジ、粘性で白はリュウキュウツツジ、紫紅がオオムラサキ、ピンクがヒラドツツジ、濃赤だったらケラマツツジ……」と。

        躑躅わけ親仔の馬が牧に来る     秋櫻子

 躑躅(つつじ)というむずかしい文字は、漢名の躑躅(てきしょく)をそのまま借りてきたものという。
 躑躅(てきしょく)とは、羊がこの花を食べると有毒なので、膝を折って倒れるという意味。しかし、ヤマツツジの花は、毒がうすく、子供が取って食べている。
 一説に、「羊の性至孝ナリ。コノ紅キ莟ヲミテ、母ノ乳房ト思ヒ、膝マヅキテ之ヲ吸フ、故ニシカイフ」とある。

        春さりゆかば 飛ぶ鳥の 早く来まさね 龍田道(ぢ)の
        丘辺の路に 丹つつじの……

 『萬葉集』巻六、高橋虫麻呂のこの長歌にあるニツツジは、今のヤマツツジのこと。同じく巻七の、

        山越えて 遠津の浜の 石躑躅
          わが来たるまで ふふみてあり待て

 というイワツツジは、おそらくモチツツジであろう、と言われている。
 昔は、このイワツツジが最もよく知られていて、『源氏物語』少女(おとめ)巻にも、
  「御前近き前栽に、五葉・紅梅・桜・藤・山吹・石躑躅などやうの春の翫びを……」
 とある。

        吾子の瞳に緋躑躅宿るむらさきに     草田男

 昨日は、東京の躑躅の名所を紹介したが、全国の躑躅の名所には、九州の雲仙・霧島山、近畿地方で保津川、中部地方から東へ来て、八ヶ岳・箱根・館林・那須など、数々ある。たいていは、キリシマツツジ・ミヤマキリシマなどの赤い花が多く、盛りの季節には、全山紅に燃えるがごとき壮観を呈する。


      稜線の瘦せゐしところ山つつじ     季 己