壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

雪柳

2009年04月05日 19時54分24秒 | Weblog
 庭に植えてよし、瓶に活けてよし。自然で優雅な姿をそなえて美しい今ごろの花に、雪柳がある。
 中国原産のバラ科の落葉低木で、高さは1~2メートル。四月ごろ、葉にさきがけて、柳に似たしなやかな枝に、白い小花が群がって咲く。まるで雪の降り積もるかのようなので雪柳の名がある。また、小米花ともいう。

            鎌倉明月院
        山門に雪のごとくに雪柳     青 邨

 細くしなやかな枝一面に、数知れず白い花を開いて、時ならぬ雪かと見まがうまで、眼に染み入る雪柳の美しさ。

        雪やなぎ海竜王寺風もなし     羽 公

 奈良市内、法華寺の陰に隠されたように、その東北に隣り合わせてそっと建っているのが、海竜王寺である。
 法華寺とともに、藤原不比等の屋敷に、天平三年(731)光明皇后が建て、不比等邸の東北隅にあるということで、隅寺(すみでら)とも呼ばれた。
 雪柳の一つひとつの花は、まことにささやかなものであっても、枝数の多い株全体が、一面の花につつまれて、遠目にも際立って人をひきつける。
 そんな雪柳が咲き誇っている海竜王寺に、風はまったくない。

        いつのまに月光なりし雪柳     裕 計

 まれには、山の中の川の岩壁や、岩の間などに自生していることもあり、鮮やかな新緑の中に、ここばかりは、季節はずれの名残雪が降り積もったかと、驚かされることもある。

 柳とはいっても、バラ科の植物の雪柳は、古来、いろいろな名で呼ばれていた。
 今から千六十年ほど前の『近江御息所歌合(おうみのみやすどころのうたあわせ)』には、
        石(いは)柳 花色見れば 山川の
          水のあやとぞ 誤たれける
 という歌が見える。
 また、室町時代の『尺素往来(せきそおうらい)』には、「庭柳」と記されておるし、『古今夷曲(こきんひなぶり)集』という書物には、
        それは杵 これは木の根に こぼれけり
          小米の花の 風に砕けて
 という狂歌が載せられている。
 『和漢三才図会』という絵入りの百科事典にも、コゴメバナの名が見える。
 
 江戸時代の植物学者、小野蘭山が、「枝下垂するゆゑ、柳と言ひ、花多きゆゑ、雪といふ」と説明したのが、「ゆきやなぎ」の名を決定付けたものであろう。


      ゆきやなぎ買ひしばかりの花鋏     季 己