滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

マッキンゼー報告書、省エネ対策はスイスに2.5万人分の職場を創出する

2010-04-02 03:17:53 | その他

2月末にコンサルタント事務所のマッキンゼー(McKinsey&Company)が、スイスのエネルギー庁から依頼を受けて作成した報告書「エネルギーという競争要素~スイスの経済にとってのチャンス」を発表しました。

その要旨は、「エネルギーはスイスで生み出される売上げの40%に戦略的な意味を持っている。省エネルギーと再生可能エネルギーは今後の最も重要な成長市場。国内でのエネルギー利用効率の向上と、同分野で世界的に活動するスイスの企業の促進により、2020年までに温暖化ガスを削減して、エネルギー安定供給に貢献できるだけでなく、建物・交通・エネルギー分野において、2.5万人以上の雇用を国内に創出できる。」というものです。(ちなみにスイスの人口は750万人です。)

マッキンゼーは既に2009年にも、スイスでの温暖化ガス削減コストに関する調査「スイスにおける温暖化ガス削減コストカーブ」を発表しています。そこでは、既に実用化されている建物、エネルギー、輸送、産業、農業分野での温暖化ガス削減技術の中でも、CO21tを削減するのに100ユーロ以下の対策のみを対象に調査。

結果、35%のCO2削減は、寿命に渡って計算すると、コストがかかるどころか、もうけが生じることを示しています。1バレル52ドルだと対策項目の中の42%が元がとれ、80ドル以上では80%以上が元が取れるそうです。また、収益をもたらす温暖化対策から得た収益を、さらに温暖化対策に用いるならば、2030年までにスイスは行動様式を変えない場合でも、45%の温暖化ガスを削減できるというレポートでした。

対して、2010年のマッキンゼーの報告書では、国の気候・エネルギー政策目標の達成に必要な対策が、2020年までにスイスの国内経済に及ぼす影響や、グローバルなスイス企業にもたらす成長を予測、数値化しています。計算の前提は、国内でのCO2削減目標量が18%の場合とされており、さらにその3分1弱を占める建物と輸送分野からの排出量について細かな調査が行なわれています。以下に今回のマッキンゼーのプレスリリースをまとめます。

「本報告書では、経済的・技術的に実現可能な国内での省エネ対策や、今日既に知られている2020年までの再生可能エネルギーの促進政策だけを計算の対象としている。結果、2020年には、建物、輸送、そしてエネルギー分野だけでも、計26億フランの投資が行なわれ、うち15億フラン(約1300億円)が建物分野に、5億フランが再生可能エネルギーの促進に、6億フランがクリーン交通に当てられるだろう。この投資はスイスの経済に直接的に2.5万人分の雇用を直接に創出し、うち2万人が建設分野で生じる。

もちろん灯油やガソリンの節約や投資への財源確保のために、雇用の損失も生じるし、石油からの税収は大幅(年6億フラン程度減収)に減る。また多くの対策は、投資回収期間が長いため、国や州による助成制度が必要である(省エネ改修プログラム、減税対策、固定価格買取制度など)。 しかし、総合すると、これらの投資により生じる雇用は、それ以外の分野で減る雇用の数よりも多い。2020年の場合だと1.1万人分創出の方が多く、結果売上げは6億2千万フランのプラスとなる。2030年までにこの効果はより強まり、創出効果の方が損失よりも2万人分多くなるだろう。

またスイス企業は、世界の省エネ・再生可能エネルギー市場で、今日100億フランの売上げを上げているが、2020年までに国の政策の継続によりそれは約300億フランに増えるだろう。それにより4.8万の雇用が創出され、うち1.6万人が国内で生じる。

建物と自動車分野での省エネ対策および再生可能エネルギーの促進によりスイスで2020年までに生まれるジョブ
・建物分野 1.7万人
・再生可能エネルギー 7千人
・輸送 1千人
・省エネと資金作りによる職場損失 -1.4万人
・職場創出効果は+1.1万人   」

出典 
http://ww1.mckinsey.com/locations/swiss/news_publications/pdf/Pressemitteilung_Wettbewerbsfakto_Energie.pdf )
スイスでは今年末に10年間続いた国のエネルギー行動計画であるエネルギー・シュバイツが終わり、これから次の10年間のエネルギー行動計画や、京都議定書後の気候政策が具体化されていく時期にあります。今回のマッキンゼーの報告書は、そのような中、政治的議論の基礎情報として依頼されたのではないかと思われます。

ところで、2010年のマッキンゼーの報告書でも、1ドル50バレルという控えめな石油価格が計算に採用されており、また今ある技術だけでもこれだけの経済効果があるということが示されています。実際には灯油価格はこれよりも高くなり(あるいはCO2税が高くなり)、また今日以上の技術革新は確実に訪れるでしょうから、政策的に上手く導けば、2020年の温暖化対策によるスイス国内での雇用創出はマッキンゼーの予想をずっと上回るかもしれません。


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