滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

「エネルギー転換ライト」決定~来年から再生可能電力は大幅増産に?

2013-06-29 15:13:52 | 政策

露地もののいちごが美味しい季節となりました。先週までは夏の太陽が、大家さんの旧豚小屋の上に設置された大きな太陽光発電パネルに燦々と降り注いでいましたが、今週末は生憎の雨です。

BNEW(Bloomberg New Energy Finance)の予測によると、日本では魅力的な買取制度により、今年の太陽光発電の新規設置量が、6.1~9.4GWにも上るということ。爆発的な普及速度に感激します。是非ともこの好機を利用して、多くの市民や自治体の方々に「市民エネルギー転換」への基礎体力を構築して欲しいと願っています。

スイスでも亀の歩みですが、太陽光発電の推進に明るい変化がありました。6月中旬にスイスの国会両院は、通称「Energiewende Light (エネルギー転換ライト)」と呼ばれる法案を可決させました。正式名称は「大型消費者を罰することなき再生可能エネルギーへの投資解放」です。これにより、2014年から現行の買取り制度が改善され、再生可能電力の増産に弾みがつく予定です。

スイスでは、現在、脱化石と脱原発のエネルギー政策の大改革であるエネルギー戦略2050と、それに伴う様々な関連法の改訂が進められています。ただし、直接民主制というテンポの遅い政治制度にのため、これが実施されるのは早くても2015年以降。そのため、国民議会の環境エネルギー委員会が、本格対策までの暫定的対策として発案したのが、上記の「エネルギー転換ライト」でした。

内容は簡単で、2009年来ずっと問題になっている買取制度の改善を前倒しで、ちょっとだけやるということです。だから「ライト(お手軽版)」なのです。これまで問題だったのは、賦課金に低い上限額があることによる万年的な買取予算の不足。そして、それに伴う買取希望者の長大なウェイティングリストです。エネルギーシフトを進めたい勢力と阻みたい勢力の間で、ハンドブレーキをかけたままアクセルを踏む形になっているのが、スイスの買取り制度です。

環境団体や再生可能エネルギー団体は、賦課金の上限を取り除くことを当初より求めてきました。 今回の改訂では、上限は取り除かれませんが、1.5倍に上げられます。これまで法律で最大0.9ラッペン/kWhと定められていたのが、2014年から最大1.4 ラッペン/kWhになるのですた。買取り予算は年300億円(3億フラン)増えます。こうして、買取り待ちになっている2.5万の物件のうち、太陽光については半分が、それ以外の技術については全てが、買取りを受けられるようになります。

ウェイティングリストの内訳は、太陽光が約2.3万件でダントツ多くなっています。風力は490件、水力も480件、バイオマスが270件となっています。申請物件の総出力は2.8GW、年間予測生産量は5.7TWhです。スイスの電力消費量は約60TWhですので、申請生産量だけでも年間の電力需要量の10%に相当します。とはいえ、太陽光発電以外については建設許可を得ない段階で申請できるので、リストにあるプロジェクトの全てがすぐに実現されるわけではありません。さらに、今あるリストが解消できても、毎月1000件の新たな買取り希望者がリストに加わるので、リストが完全に解消できる訳でもありません。

今回の改訂での焦点は、小規模な太陽光発電の扱いでした。小型を今後は買取制度の対象外とするという条件で、賦課金値上げへのコンセンサスが見いだされたのです。具体的に、10kW以下の設備所有者には、設備投資の30%に対して補助金が出る代わりに、買取制度は適用されなくなります。また、10~30kWの設備の所有者は、設備投資への補助金か、買取制度かのどちらかを選べることになります。自家消費の大きな工場やオフィスでは、設備投資への補助金の利用が有利で、自家消費の少ない農家や集合住宅では、買取制度の利用が有利になるそうです。このように小規模な発電者を買取制度から外すことは公平でない、と批判する環境団体もあります。対して、ソーラーエネルギーや再生可能エネルギーの業界団体では、この妥協案に賛成しています。

こういった買取制度の改善が両院を通過したのは、産業界を味方につけるための更なる妥協が準備されたからです。それは数百の大型消費産業に対して、賦課金を免除する対策です。免除には、節電対策を実施することが条件になります。しかし、こういった産業の免除対象を広げることは、ドイツでもそうですが、産業の賦課金を一般住民が肩代わりするという不公平感を強めます。さらに、環境団体のスイスエネルギー財団では、大型消費者を免除する制度は市場競争をゆがめ、大型消費者を推進することに繋がると批判しています。

このように、スイスの買取り制度は再び、ほんの少し改善されることになりました。スイスでも太陽光発電は、再生可能な電力の中で、長期的には一番の増産量が期待されている技術です。それゆえに反対勢力からの政治的圧力も猛烈です。この改訂では、ドイツや日本のような飛躍的な普及には繋がりませんが、少なくともエネルギー転換への実質的な貢献への小さな一歩に繋がることを期待しています。


ニュース

●ビオシティ誌55号発売
6月27日にビオシティ55号「次世代のサインデザイン~防災とまちづくりの視点から」が発売されます。日本サインデザイン協会とのコラボ特集の他、拙筆の欧州中部のビオホテル探訪シリーズでは、今回は拙著の連載で北イタリアのホテル・タイナースガルテンを紹介しています。詳細は下記より: http://www.bookend.co.jp/biocity/bn/outline/55.html

●フクシマニュース6月号配信
スイスの環境団体スイスエネルギー財団が季刊で配信している拙著の「Fukushima News」(ドイツ語)の6月号が、遅ればせながらアップされました。下記のリンクからドイツ語で見ることができます。 http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2013/06/26/juni-news-aus-fukushima-2.html

●ドイツ:ミュンヘン市、部分影の太陽光発電の改善技術を導入
2025年までに100%再生可能電力を目指すミュンヘン市。その一環として、同市は市が出資するミュンヘンソーラーイニシアチ有限会社を通して、市内の建物に太陽光発電設備の設置を促している。ミュンヘンソーラーイニシアチブではソーラーエッジ社と共同で、同社の技術により都市部の部分日陰の問題に悩む太陽光発電設備の効率改善に着手。ミュンヘン市ライム地区にあるシュテルン家では、同社のオプティマイザー設置後の測定によると、これまでに収穫量を30%増やすことができている。
出典:SolarEdge社プレスリリース

●ドイツ:風力と太陽光で電気の60%を生産
6月18日の14時~15時にかけて、ドイツでは風力と太陽光の発電出力が48’500MWに達した。これは出力需要の60%に相当する。ドイツの電力市場、最高記録の割合を達成したことになる。風力が9’300MW、太陽光が20’300MWの出力で発電した。従来電源は、同時期に18’900MW運転されたのみだ。産業大国ドイツでも、問題なく大量の再生可能電力を送電できることが証明された。
出典:IWR国際経済フォーラム再生可能エネルギー

●スイス:自治体パイェルン、太陽光で100%電力自立を目標
スイスのパイェルン市と、フライブルク州が主要株主であるエネルギー供給会社グループEは共同で、スイス最大の太陽光発電プロジェクト「ソーラーパイェルン」を実現することを6月中旬に発表した。10万㎡の太陽光パネルを、自治体や州の建物や産業用地に設置し、パイェルン市の住民9500人分の電力(16GWh)を生産することが目標だ。同市は自治体内の屋根のソーラーエネルギー利用への適性度を分析する「ソーラ屋根台帳」を作成。適した屋根の施主にコンタクトを採り、太陽光発電の設置を進めていく予定。グループE社の子会社Greenwattは、再生可能エネルギーの経験が豊富で資金力もあるため、この事業の開発・実現・運営のパートナーとなっている。
出典:グループE、Payerneプレスリリース

●スイス:フェルドシュレスヒェン社、ビール工場に太陽光発電
ビールメーカのフェルドシュレスヒェン社では、ラインフェルデン町にあるビン詰め工場の屋上に大型太陽光発電パネルを設置する。大きさは2.3万㎡で、出力は2.04MW。スイスの400世帯の電力消費量に相当する年1.9GWhを、この秋から生産する予定。設置と運転を行うのはスイスの大手の太陽光発電ゼネコンであるTRITEC社。フェルドシュレスヒェン社は長年、持続可能を目指す企業戦略を実施している。
出典:フェルドシュレスヒェン社プレスリリース

 ●スイス、ヴァリス州:製材所屋根に1.6MWの太陽光発電
西スイスのEvironnaz町にある製材所Rabotage du Rhone SAの屋根にヴァリス州で最大の、1.6MWの太陽光発電設備が設置された。一年で製材所の需要を上回る1.6GWhを発電する予定。これは350世帯分の電力需要に相当する。製材所の建物の屋根全面を用いたこの設備での発電コストはkWhあたり約18円である。同施設は、家族営業の製材所と、地域の電力会社Groupe SEIC-Télédis社、そして地元の金属構造会社のElioweld R.D.Vが共同で実現した。
出典:EE-News

●スイス:ミグロス社の屋根にスイス最大の太陽光発電(5.2MW)
小売業界大手のミグロス社は、ノイドルフにあるロジスティックセンターの屋根上に、5.2MWの太陽光発電を設置する。7月末に竣工するこの設備は、年4.84GWh、1100世帯分の電力を生産する予定だ。モジュールは外国製だが、パワコンはスイスのSolarmax社製。施工・運転を手掛けるのは、スイスの大手太陽光ゼネコンであるTRITEC。しかし、同社は屋上緑化を撤去し、太陽光パネルと砂利屋根に交換。太陽光発電と屋上緑化を両立させる環境的な技術が確立される中、安易な撤去を選んだ同社を、スイス建物緑化協会の代表は批判している。 出典:Sonnenseite、SFG

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