取りあえず、10月の小ネタは中身は関係なく、ハロウィーン仕様のバックで行きたいと思います。そんなわけで、「最近のジェネラル」というタイトルで将軍のちょっとした日常をメモっていきたいと思います。
近頃、オレンジのスタッフにはパワーストーンを身につけるのがはやっていた。ナースたちのほとんどが手首にパワーストーンのブレスレットをはめていた。もちろん、仕事の邪魔にならないよう気を遣っているようなので、速水はあえて話題にしなかった。
しかし、男女問わず、研修医が手術前にブレスレットをはめたまま、手洗いをしようとしたのには、さすがに目が点になった。清潔が絶対条件の手術に対して、執刀医以下、直接患者に接する者たちは、全員が徹底した手洗いを行う。僅かな細菌すら患者の体内に持ち込まないよう細心の注意が図られなければならないのが、手術場なのだ。
近頃、オレンジのスタッフにはパワーストーンを身につけるのがはやっていた。ナースたちのほとんどが手首にパワーストーンのブレスレットをはめていた。もちろん、仕事の邪魔にならないよう気を遣っているようなので、速水はあえて話題にしなかった。
しかし、男女問わず、研修医が手術前にブレスレットをはめたまま、手洗いをしようとしたのには、さすがに目が点になった。清潔が絶対条件の手術に対して、執刀医以下、直接患者に接する者たちは、全員が徹底した手洗いを行う。僅かな細菌すら患者の体内に持ち込まないよう細心の注意が図られなければならないのが、手術場なのだ。
ネックレスや指輪も外して、手術に臨むのが外科医としての心構えの基本だと、速水は思っているし、そう教育されてきた。もちろん、オレンジにいる医師たちも同じだ。
なのに、研修医と来たら…。
あまり研修医を構おうとしない長谷川ですら、医局の壁にでかでかと『オレンジでの身だしなみ』として、『1.ネックレス、指輪、プレスレットなどの装飾品はすみやかにロッカーに入れる。2.長い髪は必ず、邪魔にならないようまとめておく。3.勝手に備品に触れない。使いたいときは、指導医に必ず断ること』と貼った。和泉に至っては、小姑のように研修医に文句?を言う有様。シニア・レジデントたちに、『今年の研修医は…』と言われるぐらい今年は不作揃いだった。
なのに、研修医と来たら…。
あまり研修医を構おうとしない長谷川ですら、医局の壁にでかでかと『オレンジでの身だしなみ』として、『1.ネックレス、指輪、プレスレットなどの装飾品はすみやかにロッカーに入れる。2.長い髪は必ず、邪魔にならないようまとめておく。3.勝手に備品に触れない。使いたいときは、指導医に必ず断ること』と貼った。和泉に至っては、小姑のように研修医に文句?を言う有様。シニア・レジデントたちに、『今年の研修医は…』と言われるぐらい今年は不作揃いだった。
そんなわけで、速水もさりげなく研修医の身だしなみから、態度まで、細かく気を配るよう佐藤に指示を出していた。
「と言うわけで、今年は駄作揃いなんだよ。お前の所はどうだ?」
「まあ。積極的だとは言えないぐらいじゃないかな。それでも、俺が研修医のときより頭いいよ」
「…行灯。自分と比べるなよ。お前はスペシャルなんだから…」
「そうだけど」
速水は極楽病棟のナースセンターで、大きく肩を落とした。そして、目の前に置かれた差し入れ?のおまんじゅうを一つ、ぽいっと口に入れた。
「これお供えか?」
「違う。師長さんの手作り」
「へぇ。相変わらず、ここは平和だな」
「…なんかあったのか? また、スタッフにストを匂わされたのか?」
速水が用もなく極楽病棟に来て、うだうだと田口に絡むのは今に始まったことじゃない。が、こうしてへたれるのはあまりなかった。
「違う。長谷川と和泉が泣きついてきた」
「…長谷川先生と和泉が?」(和泉が呼び捨てなのは、単に田口と同期だからだ)
「なんて?」
田口はまた速水が無理難題を二人に押しつけたのかと思った。
「研修医に装飾品は外せと指導したら、『これは装飾品ではありません。お守りです。パワーストーンって先生は知らないんですか?』って、鼻であしらわれて、怒り爆発だ。で、佐藤ちゃんが角を立てないよう間に入ったらしいが、らちがあかなくて、とうとう黒田と山下の麻酔科師弟コンビが『そんなのはめている限りオペ室に入るな。救急車到着の患者に触れるな』って言ったもんだから、研修医が大学にパワハラだと訴えた…」
「そりゃ、大変だな」
「だろ? なんか穏便に済ませる方法はないか?」
死にかけた患者の命をつなぎ止めるのは得意でも、速水は基本、世間にはまったく興味も理解も示さないから、どう対処すればいいのかも思いつかないらしい。
「で、何が騒ぎの原因になっているんだ? 指輪?」
「いや。手首にはめているやつ」
「…ブレスレットな。確かにお守りと言われれば、難しいよな」
うーん。と、田口も口どもる。双方を丸く収めるには、どうしたらいいか。うーん。と悩む。とそこに妙案が浮かんだ。
「速水、分かった。お守りなら、どこに付けていても構わないよな」
「ああ」
「だったら、足首につけたらどうだ? 手術室でも足は関係ないだろ?」
ぽんっと田口は手を叩いた。
「確かに、足なら…」
「だろ?」
「けど、足にしろって言っても、あいつらは納得するか?」
「させるんだよ。そのためには、トップのお前がまず実践する」
「…って、俺が足輪をするのか?」
「そうだよ。有言実行、これぞ速水晃一だ。でもって、俺がお前のを用意してやるから、ちょっと足の周りを測らせろ」
田口は速水の声を聞かずに、その辺にあった綴じ紐を速水の足首に巻き付けると、定規で長さを測った。
「と言うわけで、今年は駄作揃いなんだよ。お前の所はどうだ?」
「まあ。積極的だとは言えないぐらいじゃないかな。それでも、俺が研修医のときより頭いいよ」
「…行灯。自分と比べるなよ。お前はスペシャルなんだから…」
「そうだけど」
速水は極楽病棟のナースセンターで、大きく肩を落とした。そして、目の前に置かれた差し入れ?のおまんじゅうを一つ、ぽいっと口に入れた。
「これお供えか?」
「違う。師長さんの手作り」
「へぇ。相変わらず、ここは平和だな」
「…なんかあったのか? また、スタッフにストを匂わされたのか?」
速水が用もなく極楽病棟に来て、うだうだと田口に絡むのは今に始まったことじゃない。が、こうしてへたれるのはあまりなかった。
「違う。長谷川と和泉が泣きついてきた」
「…長谷川先生と和泉が?」(和泉が呼び捨てなのは、単に田口と同期だからだ)
「なんて?」
田口はまた速水が無理難題を二人に押しつけたのかと思った。
「研修医に装飾品は外せと指導したら、『これは装飾品ではありません。お守りです。パワーストーンって先生は知らないんですか?』って、鼻であしらわれて、怒り爆発だ。で、佐藤ちゃんが角を立てないよう間に入ったらしいが、らちがあかなくて、とうとう黒田と山下の麻酔科師弟コンビが『そんなのはめている限りオペ室に入るな。救急車到着の患者に触れるな』って言ったもんだから、研修医が大学にパワハラだと訴えた…」
「そりゃ、大変だな」
「だろ? なんか穏便に済ませる方法はないか?」
死にかけた患者の命をつなぎ止めるのは得意でも、速水は基本、世間にはまったく興味も理解も示さないから、どう対処すればいいのかも思いつかないらしい。
「で、何が騒ぎの原因になっているんだ? 指輪?」
「いや。手首にはめているやつ」
「…ブレスレットな。確かにお守りと言われれば、難しいよな」
うーん。と、田口も口どもる。双方を丸く収めるには、どうしたらいいか。うーん。と悩む。とそこに妙案が浮かんだ。
「速水、分かった。お守りなら、どこに付けていても構わないよな」
「ああ」
「だったら、足首につけたらどうだ? 手術室でも足は関係ないだろ?」
ぽんっと田口は手を叩いた。
「確かに、足なら…」
「だろ?」
「けど、足にしろって言っても、あいつらは納得するか?」
「させるんだよ。そのためには、トップのお前がまず実践する」
「…って、俺が足輪をするのか?」
「そうだよ。有言実行、これぞ速水晃一だ。でもって、俺がお前のを用意してやるから、ちょっと足の周りを測らせろ」
田口は速水の声を聞かずに、その辺にあった綴じ紐を速水の足首に巻き付けると、定規で長さを測った。
「よし。これでOKだな」
ひとり満足げに微笑むと、田口はまんじゅうを口に入れた。速水は取りあえず、この件については、田口に任せることにして、残りのまんじゅうを食べ終えると、オレンジへと戻って行った。
「と言う訳なので、藤原さん。よろしくお願いします」
「分かりました」
東城大学医学部付属病院、陰の最強タッグが動き始めた。
そして、救命救急センター部長の速水の足首に、大粒のブルームーンストーンのブレスレットもといアンクレットがはめられた。この速水の迅速な無言実行には、スタッフも驚いたが、そこは『ジェネラル・ルージュ』。
ムーンストーンのパワーが何か知らない田口と速水は、淡い色が目立たないと喜び、ムーンストーンが持つ石の力を知っている者たちは、『さすがジェネラル。田口先生への愛はそこまでか』と感心したのだった。
これには研修医たちも逆らえず、彼らの手首から早々にパワーストーンが消えて、足で見られるようになったとか。相変わらず、お騒がせなオレンジ新棟である。
ひとり満足げに微笑むと、田口はまんじゅうを口に入れた。速水は取りあえず、この件については、田口に任せることにして、残りのまんじゅうを食べ終えると、オレンジへと戻って行った。
「と言う訳なので、藤原さん。よろしくお願いします」
「分かりました」
東城大学医学部付属病院、陰の最強タッグが動き始めた。
そして、救命救急センター部長の速水の足首に、大粒のブルームーンストーンのブレスレットもといアンクレットがはめられた。この速水の迅速な無言実行には、スタッフも驚いたが、そこは『ジェネラル・ルージュ』。
ムーンストーンのパワーが何か知らない田口と速水は、淡い色が目立たないと喜び、ムーンストーンが持つ石の力を知っている者たちは、『さすがジェネラル。田口先生への愛はそこまでか』と感心したのだった。
これには研修医たちも逆らえず、彼らの手首から早々にパワーストーンが消えて、足で見られるようになったとか。相変わらず、お騒がせなオレンジ新棟である。
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