SUPER FLAT 2

非ファルス的にもっこりするものを肯定せよ!(神の性的不器用あるいはその性的悪戯に由来するもの達について)

偏頭痛とトルコ絨毯

2010年09月27日 | Weblog
 オタク+サイケデリック=オタクデリック、これが村上隆の作品方程式だが、案外そのサイケデリックな側面については語られていない。村上隆の世界戦略が、まず最初にアメリカ西海岸への上陸から始まったにも関わらずにである。港千尋の『書物の変』(せりか書房)の第二章1説「内なるグリッド」には、「偏頭痛とトルコ絨毯」という項目がある(132ページ)。

>オリヴァー・サックスは、とつぜん襲われる激痛にさいして、何らかのパターンが「見える」ことに注意し、自らも含めそうした例を研究している。サックスの記憶では、三歳か四歳の頃、裏庭で遊んでいたところ、急に視界の左側にまばゆい光が現れて、地面から空へとつらなるアーチが見えたという。アーチの端に青とオレンジに光るジグザグ模様が見えたと思ったとたん、今度はすべてが真っ暗闇に反転した。何が起きたのか分からないでいると、母親が、それは「偏頭痛」のせいなのだと教えてくれたという。

 サックスは、激しい「偏頭痛」に伴って見える「トルコ絨毯」のような模様を、個人的な経験や欲望よりも深い神経のレベルで共通体験される「人類に普遍的なアーキタイプ(原型)」と考えたという。なにしろその模様の基本パターンは、港氏によれば、旧石器時代の洞窟画にも確認されるというのである。とうぜん麻酔もなかった旧石器時代、彼らが苦痛のさなかで見たであろう「内在光」の幾何学的パターンは、時を越えて現代人にも共有されている。西海岸でサイケデリック・ムーブメントが起きたとき、アメリカはベトナム戦争のさなかにあったのだ。村上隆のオタクデリックなアートは、本人いわく、明るく楽しく可愛く、そしてなにより希望に満ちたものであるという。だが村上隆が希望(ホープ)を込めたこの「トンガリ君」の制作は、苦痛(ペイン)に満ちたものだったのである。

Video tour with Murakami 9 - Tongari-kun, 2003-2004