1995年に川久保玲がパリのショーで発表したコム・デ・ギャルソンの服は、そのストライプ柄がアウシュヴィッツの囚人服を思わせることから物議をかもし、ユダヤ人団体からなどの抗議を受けて、のち販売も停止された。華やかなショーの舞台にホロコーストの悪夢が紛れ込んだわけだが、真に困惑すべきはその後、これらアウシュヴィッツの囚人たちの写真が何か別のものに見えてくることである。ミニマルなストライプのイメージが、光と影、夢と現実、そして生と死のコントラストを貫通し、それらの二項対立を侵食しつつ解除させようとしているかのようである。むろんヨーロッパではホロコーストをネタにすることはタブーだが、この前衛的なデザイナーはこのとき、何かしら歴史的記憶に対する挑戦を行ったのではないだろうか。それはアートやデザインだからこそできる、文明転換への第一歩なのかもしれない。(参考)