東京という巨大なシュミレーション都市には何処にも謎がない。その深層無き表層性をどう理解したらよいのか?――。先のビデオ・プログラムでA・A(浅田彰)の意識はバブルの幻惑的なプリズムなかで逝ってしまっているわけではなかった。何かしら目付きや口調がおかしいにしても正気は保たれており、そこで語られた近未来予想は実に正確であった。いや、本人からすれば「残念ながら正確であった」と言うべきだろう。なにしろ現実の近未来では、そのA・Aにポストモダニストからモダニストへの転身をただちに迫るほどの過激な「表面性」が現れたからである。そこではもはや「底なしの深さの無さ」という逆説的な「表層性」についてアイロニカルに語っているような余裕はない。この「深層無き表層性」から「表層すら無き表面性」へのシュミラークル属性の移動は、ついに工学化した新たな深層構造の出現に対応したものである。その深層は謎に満ちているが、人文科学的な読解のいっさいを受け付けない。かつて流行した複雑系リゾームの多様化モデルなどというのも、すでに予感されていた工学系データベースの二層化モデルに対するヒステリックな拒絶反応にすぎなかった。そう、もうはっきり言ってしまおう。いまや都市の実像は、シュミラークルとデータベースの二層に完全分離している。そして、この新しいシュミレーション都市には、むしろ暗号化した謎だけがあり、何処にも人間がいないのである。