トリチウムとは、質量数が3である水素の同位体で、陽子1つと中性子2つから構成される核種で、三重水素とも呼ばれています。半減期が12.32年でヘリウム3(3He)という同位体に変わります。その際にベータ線という比較的透過力の弱い放射線を放出する放射性物質です。トリチウムは宇宙から飛来する宇宙線が大気と衝突する際に生成されるので自然界にも常に一定量存在し人体にもごく微量ですが含まれています。ざっくり言いますと、トリチウムは水素の同位体なので化学的な性質が通常の水素とよく似ていることが核種としての分離を難しくしている原因です。
さて、このトリチウムですが、核融合反応(D-T反応)の燃料になるのです。核融合反応が未来の究極のエネルギー源として全世界から期待されていることは多くの方はご存じでしょう。燃料が水素で、海水から無尽蔵に抽出することが可能で、核分裂型原子炉のような放射能も高レベル放射性廃棄物も出さず(本当はそんなにうまい話でもないようなのですが・・・)、原子炉が暴走を起こすこともないと言われています。実際には水素を燃料とした核融合反応は技術的ハードルが高すぎて今の所実現の見込みはありません。水素の同位体である重水素とトリチウム(三重水素)であれば、かなりハードルが低くなることが見込まれています。そこで、2021年現在国際共同開発プロジェクトとして、日本も参加しフランスで建設された「国際熱核融合実験炉(ITER)」では重水素とトリチウムを燃料として、4年後の2025年から、50万キロワットの核融合出力を長時間に渡って実現し、核融合エネルギーが科学・技術的に実現可能であることを実証する試験が始まります。これらの試験が成功しても、商業的に採算が取れるか否かは別問題ですが、一応すべてがうまくいったとして核融合発電が実際に可能になるのは、2050年頃と予測されています。興味深いことにITER炉は、リチウムという元素から燃料のトリチウムを増殖する機能を備えているそうです(注)。(続く)
参考資料:国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)ITER計画より 上の図はITER炉の図解でQST様のホームページから引用させていただきました。
(注)https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/iter/page1_7.html