5月末に、文科省から国立大学に通知する素案が公表されたのですが、この内容がなかなか衝撃的なのです。簡単にまとめると、「文系の学部・大学院の廃止や定員削減を早急に進めよ」ということです。削減するべきとして取り上げられているのは、文学部や社会学部等等、人文社会系の学部や教員養成学部・大学院等です。国立大学に通知が出るということは、当然私立大学も影響を受けるのです。私立大学も、国から補助金をもらわないと経営が成り立たない立場だからです。
このことの背景には、18歳人口の減少がさらに進んでいることがあります。私たちが大学に入学した頃(バブルの頃)と較べると実に半分以下にまで減ってきています。そのために大学の定員が埋まらない、いわゆるFランク大学・学部も増えてきています。大学の志望率は上がってきていますが、結果として中堅以下の大学の質の低下も顕在化してきています。大学は出たものの……という状況が大きな社会問題にもなってきています。今後のことを考えても、経営が成り立たない大学がさらに増えてくるのは、既定路線となっています。
実際この数年を見ても、文系学部の定員を減らして、理系や国際系の新しい学部を創設したり定員を増やしたりしている大学が多いことに気付きます。大学院も同様です。法科大学院ですら、つぶれるところが出てきています。卒業しても、法曹として(あるいはそれに準ずるような立場で)活躍できない者が増えているという現状もあるからです。
今回の通知には、もう1つ大きな意図があることを見逃してはいけません。一昔前に話題になった、「G型・L型大学」の発想の延長戦上にある考え方に基づいているのです。
この通達と時を同じくして、政府が「職業教育学校」の設置についての答申を発表しました。安倍総理が直々に会見をして話をしていましたので、肝入りで進めようとしているのは明らかです。
高校の卒業生が対象で、社会人としての専門知識習得を目的としますが、新たに学校を新設することはせず、現存の大学や短大に「職業教育学校」に転換してもらう計画です。大学が学部の1つとして設置することも見込んでいるため、結果として、前述した大学の文系学部廃止へとつながっていくものと考えられます。
安倍総理が(実際はそのブレーンかもしれませんが……)具体的な事例として挙げたのは、IT技術や金融に関する実践的な能力を持つ人材育成機関です。現在の大学が、産業界のニーズに即した教育を行っていないということが前提にあることは明言していました。アベノミクスにおける景気回復・経済の好循環をさらに進めるために、高等教育の見直しが必要なのだということです。
学校教育法の改正等手続きが必要になりますが、政府としては来年度中に準備を整え、2019年度からの設置を目指しているようです。この制度が確立した場合、(優秀な生徒たちも含めた)高校卒業後の進路として選択肢の中に入ってくる可能性があるため、我々としても動向に目が離せません。