今春の入試は10万人超の志願者を集めた私立大が6大学にのぼった。また、理系人気が薄れ、文系人気が鮮明になるなど、ちょっとした異変があった。今年の入試戦線を振り返ってみた。
今春の状況は、1月の大学入試センター試験の志願者が57万5967人と前年を1万2199人上回った。高校卒業見込み者などの志願者割合を示す現役志願率は、43.9%と過去最高に。総受験者数も54万7892人と2003年の55万5849人以来の水準となった。
国公立大で一般入試の受験者数トップは2年連続で千葉大だった。今春は大阪大がAO・推薦入試の「世界適塾入試」を導入し後期日程を廃止した。その影響で、神戸大文学部や法学部の後期が大幅増。横浜国大は都市科学部を開設するなど学部の再編を行い人気だった。
有名私立大では、多くの大学で志願者数が前年を上回り、関係者の多くが「バブルのようだった」と話す。表の通り、6大学で志願者が10万人を超えた。最多は4年連続トップの近大。14万人超えは、1992年の早大と日大以来のことだ。理系学部の同一学部内で学科併願ができる新たな入試方式を導入。編集工学研究所の松岡正剛氏監修の新図書館を設置するなど、話題作りも奏功した。
2位の法大は15学部中13学部で志願者が増えた。「国公立大志望者の併願が多かった」とは大学通信情報調査部の井沢秀部長だ。「都心の市ケ谷キャンパスの整備を進め、校舎が一部完成した。知名度の高い田中優子総長が分かりやすい言葉で情報発信し、受験生の母親層に受け入れられている」とも指摘する。
今年初めて志願者が10万人を超えたのが東洋大だ。情報連携学部を赤羽台新キャンパスに開設し、約3000人の志願者を集めた。国際地域学部を国際学部と国際観光学部の2学部に改組し、こちらも人気だった。
ちなみに、早慶上智、東京理科、明治、青山学院、立教、中央、法政、学習院や日大、東洋、駒沢、専修に加え、関大、関西学院、同志社、立命館、京都産業、近大、甲南、龍谷の22大学で志願者減は中央のみで、今年の有名私立大の人気が分かる。
●有名国立後期廃止も影響
その要因はどこにあるのか。大西部長は「難関国立大がAO・推薦入試を拡大する中、後期試験を廃止し、従来は後期を受けていた受験生が、センター利用方式などで難関私立大に出願するケースが増えた」と指摘。石原部長は「就職状況の好転が文系学部人気の復活につながり、この系統が多い私立大に追い風となった」とも話す。
さらに、石原氏は「保護者の意識変化も見逃せない」と言う。今の受験生の保護者は、バブル崩壊後の不況期に大学を卒業した世代。「少しでもいい大学に進学させたいと、有名大を目指す傾向が強い」と説明する。
●定員厳格化進学実績落ち込み
一方、今年は難関私立大の合格実績を減らした進学校が多かった。文部科学省が私立大の入学定員厳格化に取り組んでおり、難関私立大が合格者を絞り込んだからだ。2年前まで、大学全体の定員が8000人以上の大規模大の場合、定員の1.2倍以上の学生を入学させると助成金が不交付となった。それが今年は1.14倍、来春は1.10倍と基準が厳格化される。そのため、合格者を絞り込む大学が多く、進学実績が落ち込んだのだ。
では、来年以降の入試はどうなるのか。いよいよ18歳人口の減少期に突入し、大きな転換点を迎える。今年の志願者増は文字通り“バブル”だったことになりそうだ。そうした中、福岡工大(11年連続)や工学院大(8年連続)など、志願者を増やし続けている大学がある。校地の整備や入試改革、学部改革など、スピード感のある改革が、生き残りのキーワードになりそうだ。
◆2017年志願者数ランキング
国公立大
順位 大学 志願者数 前年比(人)
1 千葉大 11,718 361
2 神戸大 10,024 135
3 北海道大 9,636 ▲283
4 東京大 9,534 2,565
5 首都大東京 8,561 80
6 横浜国大 8,468 629
7 京都大 8,362 9
8 富山大 8,195 424
9 大阪府立大 8,146 ▲293
10 九州大 7,945 206
一般入試のみ
私立大
順位 大学 志願者数 前年比(人)
1 近畿大 146,896 26,981
2 法政大 119,206 17,230
3 早稲田大 114,983 6,944
4 明治大 113,507 5,007
5 日本大 112,583 8,025
6 東洋大 101,180 16,294
7 立命館大 96,126 1,196
8 関西大 84,586 1,994
9 千葉工大 74,466 ▲2,029
10 中央大 74,029 ▲1,246
主要な私立大約100校を調査。一般入試のみで、2部・夜間主コースなどを含む。▲は減少。3月末現在、大学通信調べ