SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
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幻想即興曲の決定稿?

2007年01月27日 00時00分01秒 | ピアノ関連
以前の記事で仲道郁代さんの演奏するときの表情を特集しました。
その後ラン・ランの記事のときにも話題にさせていただき、フォローをはかりましたが、彼女に対するさらなる(今度こそ)応援が必要と判断した私は、もうひとつの記事をこしらえることにしました。

まずは仲道さんのディスクの中ジャケの写真がいかにステキかということを申し上げるべしということで・・・。

ね、こういうのいいでしょ!?
私がおじさんであることを差し引いても・・・。

★ショパン:幻想即興曲
                  (演奏:仲道 郁代)

1.即興曲 第1番 変イ長調 作品29
2.即興曲 第2番 嬰ヘ長調 作品38
3.即興曲 第3番 変ト長調 作品51
4.幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66(遺作)
5.3つの夜想曲 作品9
6.アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 作品22
(追加収録)
7.幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66(初稿)
                  (1989年録音) 

ショパンの幻想即興曲と呼ばれている作品は、CMで中村紘子さんが華麗に弾いていたりしたこともあってか最も有名でファンタスティックな作品とされているものですよね。
ひょっとしたらショパンの作品をフツーに愛好してらっしゃる皆さんの中には「1番好き!」とか、「ショパンで最も華麗な曲じゃないか!?」と思ってらっしゃる方も多いのではないかと思います。
要するに代表曲であるということに異論を挿む余地はないのではということです。

この作品は《遺作》とあるようにショパンの死後、残されていた遺稿を友人のフォンタナが作品66として発表したものであります。

まずは、この曲がこうして人気曲として私を含め多くの人を魅了しているウラには、フォンタナのこうした尽力(?)がありました。
後世にある、われわれとしてはまことにありがたいことといわねばなりません。

しかし、実はショパンは理由はハッキリしませんが、遺稿はすべて処分してくれと言い残して亡くなっているようであり、現在巷に出回っているのはショパンの知るところではない、というか意志とは違っている事態らしいのです。
私としては、これだけの人類の遺産とも言うべき楽曲だから、出してくれたフォンタナさん偉いという意見には違いないのですが・・・。

しかし、またまた“しかし”なのですが、フォンタナは出版に当たって曲を改変してしまっていることをご存知だったでしょうか?
ですから、現在巷で聴くショパンの幻想即興曲は本当はショパン作曲(フォンタナ補筆)とか、フォンタナ編とされるべきと思われるシロモノなのであります。
(注:ここでの“フォンタナ”というのは、フォンタナ本人が楽譜をいじくったのか、誰か心得のある人に監修させたのかわからないので、フォンタナ一派ということでお考えください。)

で、さらに具合が悪いことにフォンタナ編のほうが(当然)出回ってしまっているため、みんなこれこそが“幻想即興曲”だと思っているのが現状でホンモノを知っている人は殆どいない・・・。
さらにさらに、私が聴いてもフォンタナ編の方が座りがいいことが悩ましい。
贋作の方がいい曲に聴こえる私の耳がおかしいのか?
ちょっとジレンマがある曲なのです。

もちろん《初稿》にしかない和声のスリリングさ(概ね全曲を通じて少しバランス感覚を欠いたようなスリリングさがあります。この曲がそもそも右手と左手のリズムを違えた作品であることから考えて、初稿のこの要素は間違いなくショパンが狙い、フォンタナが出版に当たって意図的に取り除いた(後退させた)効果であると思います。)がありますが、聴き慣れているためなのか“座りがいい”としか言いようがないよさが出版版にはあるのです。

ところでその《初稿》を発掘したのはかの大ピアニスト:アルトゥール・ルービンシュタインで、彼はもちろん出版してくれております。
どこから見つけたかは知りませんし、真贋も私にはわからないのですが、たいへん意義深いことだと思います。

概ね右手は一緒(一聴してわかるのは、下降パッセージの前のフレーズの繰り返し部分が違うことなどのほかわずかです)なのですが、左手の和声の付け方が変わるので曲の雰囲気が少し変わりますね。
中間部もフレージングが違うし、和声も違う。
そして最後のカオスみたいになるところは、実はもっとさっぱり簡潔です。フォンタナのように引っぱったほうが、そのあとの左手の主旋律の歌がロマンチックに聞こえる効果はあがることがよくわかるので興味深いですが、ショパンらしいといえばショパンらしい終わり方だと思います。

というのは、ベートーヴェンやシューベルトなどは提示部と再現部は同じであるのが普通、むしろその世界の中に長くとどめさせるような書き方をしているのですが、ショパンは別れの曲などの例で顕著に見られるように、魅力的なフレーズではあってもエピソードを省略するなどして聴き手を冗長に感じさせないためのエコノミーな工夫をする作曲家だと思われるるからです。

で、仲道さんはエライ!!
彼女がこうして2つの版を並行して録音してくれたからこそ、このように重要な曲の版の興味深い違いが鮮明に見えてくるように思うのです。
学究的な興味というよりも、フィンガー5が歌う“学園天国”と、キョンキョンが歌う“学園天国”を聞くような違いがあって楽しいと思いませんか?

もちろん演奏もこの当時から我が国を代表する女性ピアニストでしたし、堂に入った演奏でした。即興曲の第1番は今でも屈指の演奏だと思っています。

また、このディスクのように仲道さんに続いて、より多くのピアニストから《初稿》による幻想即興曲の名演を期待したいと思いますがいかがでしょうか?

なお、幻想即興曲という命名も作品66という番号を振ったのと同様、出版に当たってフォンタナ(のプロダクション?)がつけたもの。
この曲を人気曲にするためのマーケティング上の工夫としては大ヒットのアイデアではないでしょうか?

そういえば幻想即興曲はエキエル教授の新しい版ではどのような扱いになるのでしょうか?
記事を書くにあたってサイトを調べてみたけれど専門家じゃないのでわかりませんでした。
たいへん下世話なレベルでの内容も含めて、いろんな、興味があります。(^^)/

★珠玉のショパン
                  (演奏:アルトゥール・ルービンシュタイン)

◇ショパンの名曲16曲のオムニバス盤です。

再発見者ご本家の演奏です。
ショパン全集を2回録音されているこの方のノクターンなど、まったく饒舌なところはないにもかかわらず引き込まれてしまう演奏だし、ポロネーズも世評どおりの好演。
そういえば仲道さんご本人もお小さいころ寝るときにポロネーズの1番から3番まで続けて聞くのが好きだったとライナーのどこかに書いてらしたなぁ。
それも聴き終わらないと眠れなかったというところがエライ。

レコードをかけたことも、電気を消すのも忘れて朝を迎えるのが常の誰かとはちがうなぁ・・・。
ソイツは小さいときから、今に至るまでそうなのに・・・。
ま、わたしはその人が生まれてから今日まで一心同体で、毎晩寝るときにも付き合ってきたからよく知っているんですけど・・・。

どうでもいい人の話は置いておいて、本家です。
本家だからといって気負いも何にもなく、むしろ淡々とした中に味わいがにじんでくるという演奏。
それでも16分音符の主題はほとんど変わらないながらも、特にクライマックスで最高音から降りてくるところに付けられている左手の和声が異なるだけで、かくも曲の印象が変わるのかと思わせられました。

却って素朴に弾かれたときのほうが違いが際立つのかもしれませんね。

ショパンのこれだけ人口に膾炙した作品であればこそ、より多くの奏者による聴き比べを楽しみたいものです。ぜひ皆さんチャレンジしてくださいよ!

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
仲道郁代 (ロイヤルトランペット)
2007-01-27 08:59:32
私もそのCDは持っていますが、版が違うのか、ジャケットの写真も違うし中にもそんな素敵な写真はありません。大変残念です。
その中で「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は仲道さんの演奏を生で聴いて感動し、CDでも良く聴いていました。私の選ぶショパン五大名曲の一つです。
幻想即興曲の違いについてはわかりません。あまり好きな曲ではないのでよく聴きこんでいないのです…。
ルービンシュタインのCDは、ジャケットが同じ写真で「THE BEST OF CHOPIN VOL.1」という14曲からなる曲集を持っていますが、たぶん違うCDなのでしょうね。
高橋多佳子さんのCDで録音される前は「英雄ポロネーズ」はこれで聴いていました。
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そうだったんですか★ (クラウディオ アラウ)
2007-01-27 21:21:56
実は私が仲道郁代さんの演奏に親しんでいる歴史は高橋多佳子さんよりはるかに長く、シューマンはそのころ嫌いだったので持っていませんが、彼女の一連のショパン録音はほぼ発売日に入手しておりました。
邦人ピアニストを中村紘子さんと彼女しか知らなかった(!)と言う事情もあったと思いますが。。。

したがってご紹介のイメージ写真がついていたのは、マネジメントがやはりその愛くるしいルックスを保険としてかける必要を感じていた初期に限られるのかもしれません。
でもロイヤルトランペットさんにであれば、いつかご覧に入れることができるかもしれませんから・・・。
差し上げませんが。 (^^)v

アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズは非常に弾き栄えのする作品でもありますが、弾き栄えするように聴かせるためにはとんでもない苦労が必要な作品とも聞いております。
仲道さんはフレッシュに弾いてくれていますね。
ここでも、コンチェルトのところで管弦楽伴奏つきを弾いていてくれるので、同曲の伴奏つきと伴奏なしを聞きくらべることができます。
とても興味深い違いが感じられて、仲道さんのそういった部分での知的好奇心をくすぐると言うか、選曲がにくいんですね。
グラビアでくすぐられ、選曲でくすぐられと、おじさんはメロメロであります。

ルービンシュタインは限られた写真で、数多くの盤が出ていますね。
ベスト盤なるものも若干の曲の入れ替えを重ねていくつも出ていますし、リマスターも何度もされておりキリがありません。

私はこれであたりをつけてから、夜想曲全集と、バラードとスケルツォ集を入手しました。
夜想曲は質朴な演奏ながら吸い込まれるような魅力をたたえています。
これは他の誰からも感得できない感覚で、ルービンシュタインの名演だと思います。
仲道さんが惹かれたというポロネーズはちょっと私の感覚とちがうようです。
ほんとに、ちょっと、ちょっとちょっとですが。。。
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アン・スピ (ロイヤルトランペット)
2007-01-28 14:08:46
「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は私が選ぶ平成7年度の最優秀曲でした。
当時仲道さんがコンサートの最後の曲としてよく弾いていたので、あだ名は「お別れの円舞曲」です。
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アンコールで弾くには・・・★ (クラウディオ アラウ)
2007-01-29 01:12:25
しんどい曲でしょうね。
この曲で終えられるコンサートはハッピー・エンディングという感じでいいですね。
ただ私はこの曲にさえも、泣き笑いを感じてしまうのですが・・・。

それと「私が選ぶ」というのはいいですね!
さすがロイヤルトランペットさん。

ちなみにロイヤルトランペットさんに倣って「私が選ぶ平成18年の最優秀曲」は、デュオ・グレースのデビューコンサートにおける多佳子さんのソロの2曲!
ショパンの「即興曲第1番」と「エオリアン・ハープ」でした。
ピアノの音色、表現のうるうる度合いを思い出すだけで胸キュン状態です。

室内楽部門では、Tiaraのデビューコンサートでのブラームスのピアノ三重奏曲第1番かな。
3回聴いたのですが、初めてお目にかかったときの演奏が私には感動的に最高でしたね。
後、軽井沢で聴いた礒絵里子さんの「タイスの瞑想曲」、3人で弾かれた「愛の挨拶」も忘れがたい。そうそうTiara浜離宮でのアンコール「ブエノスアイレスの秋」も印象的でした。

ディスクはいうまでもないですね。
でも、ペドローニの「シューベルトD.960」は多佳子さんのラフマニノフ・ムソルグスキーと同率1位にしてあげたいかもですね。
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アン・スピ2 (ロイヤルトランペット)
2007-01-29 21:49:04
アンコールではなく、正規プログラムの最後の曲としてよく弾かれていました。

恋人としばしの間別れる女性が、その寂しさを秘めながらも楽しく彼と踊る。そういう情景を連想させる「お別れの円舞曲」です。

平成18年度の最優秀曲は残念ながら恥ずかしくて言えません。
ブログでも開いたら公表するかもしれませんが。
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単身赴任先に・・・★ (クラウディオ アラウ)
2007-01-29 23:10:46
帰るために家族としばし別れるときには、かみさんに高速バス乗り場まで車で送ってもらうのですが、えてして「早くしろ!アクセルを吹かせぇぇぇ~!!」状態となるばかりで「お別れのワルツ」どころではないですねぇ。
あっ、私のことではないですね。

歴代の最優秀曲を公表いただけることを望みます。(^^)v
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最優秀曲 (ロイヤルトランペット)
2007-02-01 23:25:49
最優秀曲はその年にもっとも良く聴き、その年を象徴するような曲というのが条件で、その年の大晦日の最後に聴きます。他に優秀曲二曲(要するにベストスリー)を選出し、以上がその年の最後に聴く「最終三曲」と呼ばれます。
コンサートでもっとも良かった演奏は「最優秀演奏賞」となります。
「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は記憶違いで平成8年度の最優秀曲でした。
クラシックが最優秀曲になった年を主に紹介しますと
昭和58年 スーザ 組曲 王の宮廷で
平成4年 モーツァルト 魔笛k620から序曲
平成5年 モーツァルト 聖体の祝日のためのリタニアk243
平成6年 メンデルスゾーン 春の歌
平成7年 グリーグ ホルベルグ組曲
平成8年 ショパン アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
平成9年 ショパン 英雄ポロネーズ
平成10年 ショパン ピアノ協奏曲第1番
平成11年 ショパン 練習曲op.10-3別れ
平成12年 ショパン 「お手をどうぞ」のテーマによる変奏曲op.2
平成13年 ショパン ノクターンop.9-3
という感じです。
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ありがとうございます☆ (クラウディオ アラウ)
2007-02-02 00:37:54
驚きました。
サラ千よりも清水寺の今年の漢字よりも由緒があるとは・・・。
恐れ入りました。

ディスクじゃなくて曲をというのがニクいですね。

であれば私もあやかって・・・。
同じ基準で決定したいと思います。
平成15年以降は確定でいいと思いますが、それ以前は有史以前参考記録と言うことで。

平成18年 シューベルト:ピアノソナタ第21番 D.960
平成17年 ショパン:マズルカ 作品59
平成16年 スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番 作品19
平成15年 ショパン:バラード第4番 ヘ短調 作品52
平成14年 フォーレ:ノクターン第1番 変ホ短調 作品33-1
平成13年 リスト:孤独の中の神の祝福
平成12年 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 作品110
平成11年 ラヴェル:夜のガスパール 
平成10年 モーツァルト:交響曲第41番 《ジュピター》
平成 9年 リスト:ピアノ・ソナタロ短調
平成 8年 ショパン:幻想ポロネーズ 作品61
平成 7年 ドビュッシー:月の光
平成 6年 ショパン:バラード第4番 ヘ短調 作品52
平成 5年 チャイコフスキー:くるみ割り人形~花のワルツ
      (結婚式のキャンドルサービスで使った)
平成 4年 ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 作品60
平成 3年 ショパン:バラード第1番 ト短調 作品23
平成 2年 ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品35
平成 元年 ドビュッシー:映像第1集

記憶がちょっといい加減なところもありますが、多分こんな感じだったと思います。

私のセレクトには最も入れ込んだディスクという観点が大きな比重を占めます。

ちなみにバラ4が2度選ばれていますが、古いのはアラウの生誕100年前後に死ぬほど聴いた思い出があること、新しいのは高橋多佳子さんのショパンの旅路Ⅴです。
ホントは発売以降毎年トップと言っていいほど聴いてるんですけど・・・。
かくいう今も聴いてます。(^^)v
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