SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
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リスト没後120年特集 (その14 忘れられたロマンス)

2006年12月13日 00時35分51秒 | 器楽・室内楽関連
★リスト:晩年の作品集
             (演奏:ジョス・ファン・インマゼール(hp)、セルゲイ・イストミン(vc))
1.夜 Sz.699(1866) 
2.墓場の子守歌(エレジー第1番) Sz.195a(1874) 
3.子守歌 Sz.198(1881) 
4.エレジー第2番 Sz.131(1877) 
5.灰色の雲 Sz.199(1881)
6.忘れられたロマンス Sz.132(1880) 
7.リヒャルト・ヴァーグナーの墓に Sz.202(1883) 
8.尼僧院の僧房(ノンネンヴェルトの僧房) Sz.382(1883) 
9.執拗なチャールダーシュ Sz.225-2(1884) 
10.別れ Sz.251(1885) 
11.悲しみのゴンドラ Sz.134(1885) 
12.凶星!(不運) Sz.208(1886)
                  (2004年録音)

今回はチェロ入りの曲が混じってます。
時代楽器を使った演奏で、インマゼールは19世紀末の2台のエラールのピアノを使い分けているそうです。イストミンは18世紀末のチェロということらしい。。。
とにかくこの微細なニュアンスときたらもう。。。現代楽器では表現できない(その代わり現代楽器のほうがずっと安定した音色が出ると思うけど)世界が目の前に現れてぞくぞくします。
古楽器ってあまり得意じゃないけど、この演奏には引きずり込まれてしまいました。
演奏というより「余韻」に、です。

また“灰色の雲”がとんでもなく不穏な曲であることもこの演奏を聴くと明らかになります。弾いている楽器の音色からして不安定なんだから、それはそれはゾクッとしたものになります。それを計算して作曲したリストも、期待通りに再現したインマゼールもグッジョブです。
現代ピアノで演奏するとどうも頭が勝ってしまったような演奏が多い(それを目指して演奏しているからだと思いますが)ように思われますが、リストが表現しようとしたのは、何も“未来音楽の嚆矢”という理屈を体現したというだけではなく、聞いた実感としてなんとも言えないすわりの悪い不安感を惹起させる、なおかつ耳に不自然でない音楽だったのではないでしょうか。この感覚は発見です。インマゼールあっぱれ!

冒頭、じっくり演奏される“夜”の和声で雰囲気が下準備された後、適宜チェロ曲がの間にピアノ独奏曲が挿まれるという“展覧会の絵”のような構成であり、これもアイデア賞もの。最後の“凶星!”でふっと途切れるように終わる。。。
うーん、いいプログラムだなぁ~。
寒々とした中に、ほんのりと人肌のぬくもりをという気分の時には最高かもしれません。

★《エレジー》
                  (演奏:キム・カシュカシャン(va)、ロバート・レヴィン(hp))

1.ブリテン:ラクリメ 作品48
2.ヴォーン・ウィリアムス:ロマンス
3.カーター:エレジー
4.グラズノフ:エレジー 作品44
5.リスト:忘れられたロマンス
6.コダーイ:アダージョ
7.ヴュータン:エレジー 作品30
                  (1985年録音)
ヴィオラの第一人者であるキム・カシュカシャンの佳作アルバムです。
全曲の曲名を敢えて書いたのも、その全体の出来が素晴らしいからにほかなりません。
タイトルどおりそれぞれの作曲家によるしんみりした曲が並べられていますが、よくもまあこんないい曲ばっかり探し当てたものだと感心してしまいました。昼下がりの公園のベンチで穏やかな日差しを浴びて、何をみやるともなく物思いしているようなアンニュイな気分がいっぱいです。
もう少しさみしい雰囲気かもしれませんが。。。
“なくした恋の傷あとでものぞいてるのかしら?”っていう感じかなぁ~。

ECMレーベルの初期の名録音ですよね。
レーベル・プロデューサーのアイヒャーが狙っていた効果がわかります。
このころって、ウィンダム・ヒルとかはやってたころですよね。そういえば、“環境音楽”っていう言葉、どこいっちゃったんだろう?
ジャズにせよクラシックにせよ、変に新しい味付けを施そうとしなかったこのレーベルのほうが、奇を衒っていない分だけ息が長かったということなでしょうか?
いずれにしてもウィンダム・ヒルはアッカーマンを失ったのが痛かった。。。

かたやECMは今やピアニストではシフ、ヴァイオリニストではクレーメルをも抱える一大勢力。
卓抜な企画と優秀な録音、なによりアーチストを含む制作者全員の丁寧な作品作りが今の隆盛を築いたに相違ありません。

この作品は、その礎を固める中心的な石のひとつでありました。

★忘れられたロマンス
             (演奏:スティーブン・イッサーリス(vc)、スティーヴン・ハフ(pf))

1.リスト:忘れられたロマンス S132
2.グリーグ:チェロ・ソナタ イ短調 作品36
3.リスト:エレジー 第1番 S130
4.リスト:エレジー 第2番 S131
5.A.ルビンシテイン:チェロ・ソナタ 第1番 ニ長調 作品18
6.リスト:尼僧院の僧坊 S382
7.リスト:悲しみのゴンドラ S134
                  (1994年録音)
こいつも切ない。。。
イッサーリスは時代楽器ではありませんが、ガット弦を使用していることで有名ですよね。
だからいきなり大迫力にはなりませんが、さっき時代楽器を聴いちゃったから。。。
朗々と言っていいかわかりませんが、スケールは随分と大きくなりました。でも、音が安定した分、さっきと違ってもっとひんやりした感触は伝わってきます。音色はあったかいんですけどねぇ。

A.ルビンシテインのソナタだけが唯一明るい光彩を放っていますが、後は概ね孤独な心情を吐露したような作品。
そんな中、“尼僧院の僧坊”はなぜか水辺をイメージします。特に、ピアノの音がきらきら輝くさまは照り返してくる光という感じでしょうか。
ハフのそれは暮れかかった磯の岩場で、少し離れたところにいる人がもう黒いシルエットにしか見えないぐらいにとっぷりしてきた最後の残照の照り返しっていう感じかなぁ。
先ほどのインマゼールは、もう少し早い時間の川の瀬に照り返した光っていう感じ。

でも、どの録音を通してもリスト晩年の寂しさみたいなものがありますが、チェロ(カシュカシャンはヴィオラ)で演奏されることでものすごく救われている。
チェロの持つ人肌の温かさ。。。
リストでなくとも、恋しくなるときがありますよね。

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