SJesterのバックステージ

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誰よりもシューベルトを愛す

2010年02月17日 20時56分20秒 | ピアノ関連
★フランツ・シューベルト;ピアノ作品集Vol.3
                  (演奏;トゥルーデリース・レオンハルト)
《DISC1》
1.ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960
2.アレグレット ホ長調 D.566
3.スケルツォ 変イ長調 D.566
《DISC2》
※変ロ長調ソナタD.960の草稿 (第1楽章・第2楽章)
                  (2006年録音)

あきらかにアンテナが低くなっている。
どうしてこのようなディスクが発売されているのに、2年余りも気づかなかったんだろうか?

かの偉大なグスタフ・レオンハルトの妹にして、堅実なフォルテピアノ奏者であるトゥルーデリース・レオンハルトは、そのシューベルト演奏の解釈において余人をもって替えがたい境地にある唯一無二の存在であり、これはたまたま“私の”楽曲の嗜好の問題ではあるものの、私にとっては兄グスタフをしのぐ存在感をもっているアーティストである。

もちろんフローベルガーやヴェックマン、そしてバッハに至る一連の作品のうちの至上のものは兄グスタフの指先から生まれていることに何の異論もない。
それらは無駄なく画然としながら、ブランデーの琥珀色と香りに陶然とさせられるような瞬間を何度も感じさせられるものである。
しかしながら・・・
それでもなお、妹の素朴にして多彩な響により魅かれるのである。
芸術界・芸術史への貢献云々の大きさなんてものは、ひとつの曲を聴いてその世界に遊ぶときにはそんなの関係ないモンね・・・である。

しかし、この妹御・・・
レーベルに関してはあちこちさすらっている。
未だに“さすらい人幻想曲”の録音はないようだが・・・。

ディスクを発売したレーベルはジェックリンにカスカヴィル、そしてグローブ・・・他にもあるかも知れない。
しかしいくつかの例外を除いて録れているのは、殆どシューベルトではあるまいか?

ベートーヴェン、メンデルスゾーンなどの多少のディスクはあるようだが、知る限りではショパンやリストはなさそうだ。
それは彼女の弾きぶりを考えれば容易に理解できることではある。
素朴とひとことで言うと素っ気ないけれど、時としてふと立ち止まりつっかえたようにさえ聴こえることを辞さない表現は、リストはもちろんのこと、ショパンにあってもイビツに聞こえてしまうことだろう。

アファナシエフやザラフィアンツなど、現代ピアノでひとくせ・ふたくせ持っているのであれば確信犯で強烈な解釈も可能であろうが、そんなリスクをとる道はレオンハルト家の人の採る道ではない。
本当に自分の手になじみ愛おしく思える一握りの作曲家の、そのまた一握りのお気に入りをとことん愛奏する・・・それが流儀だといわんばかりの姿勢だと思う。
個人的には貴い態度であると好感を持っている。

さて、20年余の歳月を経て入れなおした変ロ長調ソナタ。
基本的な演奏設計は私が聴く限り全くと言っていいほど変わっていないのではないか?
その表現は彼女のなかでより熟成さえされたにもかかわらず、みずみずしさは増し、自由に思い切りピアノから強い音色が引き出されているようにも聴こえる。

ただレオンハルト家の演奏家である彼女は、やはりというか、決して則は越えない。
どうあっても気品を感じさせずにはおかない、卓抜した解釈・技量による成果である。

フィルアップの小曲、アレグレットとスケルツォもあまり聴かれる曲ではないが、彼女が付け合せに選んだ曲は例外なく愛おしく、彼女の曲に対する思いが透けて見えるようである。
結果として、コケティッシュな魅力を放つのである。

そして、このディスクならではの呼び物は、2枚目のディスクに収められている変ロ長調ソナタのドラフト・・・
草稿の演奏。。。

正直10分にも満たない演奏だが、私の・・・というより、数多あるピアノ曲のうちでももっとも通の愛好家に恵まれて止まないだろうこの曲が、どのような手順で作曲家の心なり頭からアウトプットされてきたのかを知ることは、タイヘンに興味をそそられるところである。

そして果たして第1楽章に関しては、和声やリズムを考慮する先にだいたいの旋律線があり、なんと、あの低音のトリルは旋律とともにすでに最初の段階で存在していた・・・この意味は解釈するうえで極めて大きなことだと思われる。

当然のことながら、完成稿と違う伴奏、そして旋律線にせよタダでさえ転調で流れるままに曲調が変わってしまう風情がシューベルトの特徴。
そうであったとしても、D.960はすごく偉大な作品に仕立てられているが、その順序を踏まえて演奏がなされているのだとすれば、低音のトリルにカッコとした存在感を感じさせるような演奏でないといけないのは当然である。

そしてやや闊達になった演奏も、当然のようにその草稿の意図を汲んで演奏されているんだなとわかる。


★フランツ・シューベルト;ハンマーフリューゲルのためのソナタVol.2
                  (演奏;トゥルーデリース・レオンハルト)

《DISC1》
1.ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.958
2.ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960
《DISC2》
3.ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 D.664
4.ピアノ・ソナタ 二長調 D.850 作品53
                  (1985年録音)

私が当初聴いたトゥルーデリース・レオンハルトのディスクがこちら。
喜多尾道冬先生が紹介されていたものだが、手に入れるまではいささか苦労をした。

初めて海外からネットで取り寄せたのがこれだったかもしれない・・・。
その後、銀座の山野楽器で見てずっこけてしまったが、何年も後だったので悔しいと思ったことはない。(^^;)

いずれも堅実な奏楽で、艶かなニュアンスについつい引き込まれ傾聴させられてしまうといったシューベルト演奏である。
シューベルトという人よりも、楽譜を尊重しているように聴こえるところもこのピアニストの血に相応しい気がする。

永く聴き継がれて欲しい・・・
そんな気にさせる演奏で、ときおり思い出しては無性に聴きたくなってしまうのだ。

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