高校生の時、週1回、全員参加の部活動があり、私は読書クラブというのに入った。
顧問の国語教師が指定する本を読むだけで、先生がその作品の解説をするでもなく、読書感想文を書いたり述べ合ったりするでもない、実に気楽なクラブだった。
そのとき読んだ本を挙げると・・・
「小僧の神様」
ご存知、志賀直哉の名作である。
ちなみに、志賀直哉を小説の神様というのは、この作品から来ている。
短編集だったので、他に「城の崎にて」、「清兵衛と瓢箪」などの名作に触れることができた。
「風車小屋だより」
作者のドーデが、プロヴァンスの廃屋となっていた風車小屋に住み着き、南フランスの美しい風景や村人から聞いた物語を、パリに住む友人たちに書き送るという短編集である。
この中に「アルルの女」がある。ドーデはその後、これを基にした戯曲を書き、ビゼーが曲をつけて広く知られる作品となっている。
「星」という作品は、ある羊飼いの思い出話である。
男は若いとき、山の上でひとり暮らして羊の番をしていたが、主家のお嬢さんに憧れていた。
月2回、食料を運んでもらうのだが、ある日、いつも運んでくれる人が都合で来れなくなり、お嬢さんがラバに乗って運んできた。
お嬢さんは帰って行ったが、川が増水して渡れなくなり、羊番の小屋に泊まることになった。
若者は火を焚いて暖め、お嬢さんと並んで座り、星空を眺めて星座の名前や物語を語ってあげた。
やがて肩に重みを感じたが、お嬢さんが眠くなって頭を乗せてきたのだった。
若者は、空から美しい星が落ちてきて肩に止まったのだと思った・・・
これらの作品は、名作といわれるものであり、国語教師が高校生に読ませたいというのはわかる。
少し意外だったのは、遠藤周作の「おバカさん」。
遠藤周作はこのあと「わたしが・棄てた・女」、「沈黙」などの作品を書き、狸狐庵のぐうたらシリーズがヒットして、日本を代表する作家となるのだが、当時は「高校生に読ませたい名作の作家」という評価はまだなかったのではないかと思う。
「おバカさん」はフランスから日本へやって来た、風采の上がらない青年ガストンが主人公である。
お人よしで、要領が悪く、人の世話ばかりしているおバカさんで、「わたしが・棄てた・女」や「沈黙」の主人公と共通する、キリスト教を背景にした小説だった。
私は、このあと多くの遠藤作品を読むこととなる。
何の気なしに入った読書クラブだったが、私のその後の読書人生に、多少なりとも影響を与えたのだった。