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「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (8-2)

2013年04月24日 |  関連(生物学医学)

(8) 消化性潰瘍 (つづき)

 前回記事(ココ)のおさらい。顆粒球原因説について安保 徹氏の解説をサイト「アトピー・ステロイド情報センター(ASIC)」から、
 
再び、胃潰瘍、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチについて(前編)
http://atopy.info/essay/8.html

* 胃潰瘍学説の検証

 胃潰瘍の成因を「顆粒球説」とすると、すべての胃潰瘍の成り立ちを矛盾なく説明できる。ストレスの持続(精神的なものも身体的なものも含む)→交感神経緊張→血流障害と顆粒球増多→粘膜障害である。 このような簡単な理論で胃潰瘍の成因を説明できるのであるが、これを納得させる最も単純な事実は、病理標本で見ると胃炎の粘膜や胃潰瘍の周囲には多数の顆粒球が浸潤しているということである。特に急性炎症にこの傾向がはっきりする。


(C) コルチゾールが関与する際の成因

 (B)で一般的な成因をみたので、ステロイド剤の副作用で消化性潰瘍が起こる機序についてみておこう。一般的には、次のように考えられているのだろう。キョーリン製薬のサイトから、

薬剤による胃潰瘍(ステロイドを含め)
http://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/journal/upload_docs/120556-1-01A.pdf (pdfファイル)

林田: [ステロイド性胃潰瘍]の発症の機序はいかがでしょうか。

吉川[望海氏(昭和大学内視鏡センター長)]:ステロイドに関しましては、仮説でしかないのですけれども、リン脂質にエステル結合したアラキドン酸が遊離する段階で作用するホスホリパーゼA2をステロイドが阻害して胃粘膜のプロスタグランジンが減少する。そのために胃粘液の分泌が減少して、胃液あるいはペプシンに対する粘膜の抵抗性が弱まって防御作用が弱くなり、そこにステロイドの胃酸分泌促進作用が加わってステロイド性胃潰瘍が発症するという仮説があります。

 また、ほかの考え方といたしまして、投与されたステロイドホルモン、ステロイドホルモンというのはコレステロールでもあるわけですけれども、その一部は生理的なものとして普通は尿から排泄されますが、外から投与されたものは、多くは体の中に停滞して酸化コレステロールになって、その酸化コレステロールが微小血流障害と顆粒球の増多を起こして組織を傷害して、ステロイド性胃潰瘍を発症させるという考え方もあります。
 

 前者は、胃粘液減少・胃酸過多が原因とする説で、胃酸原因説の一種とみられる。後者は、血流障害と顆粒球増多からくるとするもので、顆粒球増多原因説の一種と言えるだろう。

 まず、後者からみていこう。「酸化コレステロール」が登場するけれど、これは、ステロイド剤の化学構造はコレステロールの骨格を持つので代謝が難しいとされ、自然と蓄積していく傾向があり、また、体内にとどまれば自然酸化などのため酸化コレステロールに変性していくこととなるためである。この酸化物は、周辺組織に悪さをすると考えられている。サイト「社会問題研究会」(http://www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/)から、

病気を難治化させるステロイド剤
http://www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/iryou/iryou200suteroido.htm

 ステロイド剤もコレステロールと同じしくみで悪玉に変化します。使い始めたばかりのころは体外にステロイドを排泄できるので、消炎効果だけを得ることができます。たとえばアトピー性皮膚炎に外用で使用した場合、初めのうちは消炎作用が発揮され、皮膚はものの見事にきれいになります。
 ところが、そのまま年単位でステロイド剤を使い続けると事態は変わります。ステロイド剤は徐々に体に蓄積され、やがて酸化コレステロールに変化して周辺の組織を酸化し、新たな皮膚炎を起こすようになるのです。体内で酸化が進むと交感神経の緊張が強くなり、穎粒球の増加による組織破壊も進行して炎症は悪化の一途をたどります。 (強調は引用者)


 また、コルチゾール、あるいはステロイド剤自体に全身での顆粒球増多を招く作用がある点を指摘しておく必要があるだろう。この点については、また別の機会に(確か、(15)で扱うことになっていたはず)。


 次に、前者をみてみよう。コルチゾール、あるいはステロイド剤は交感神経の緊張を招くので、副交感神経に支配されることの多い分泌作用は、通常低減することとなる。この例の一つが胃粘液の分泌であろう。しかし、胃酸の分泌はこれとは逆方向となっている。

 このようにコルチゾールが胃酸分泌促進作用を持つ理由は、コルチゾールによる免疫抑制を補うためのものと考えられる。コルチゾールの作用の一つには、体内でのエネルギー消費の抑制を目的として免疫抑制作用がある(関連の過去記事はココ)。免疫系の多くは腸管で働いているとされており、免疫抑制があれば、腸管での感染防御が手薄になることとなる。

 他方、コルチゾールの分泌はフリージング(すくみ)反応を誘導するためであり、これは次の闘争・逃走反応のための準備という意味がある(関連の過去記事はココ)。闘争・逃走反応の際には活動量が多くなり、必然的に呼吸量も多くなる。このため、呼吸器系(肺)にいかずに消化器系(胃)の方へ紛れ込む細菌などの異物が多くなりものと考えられる。つまり、コルチゾールが分泌される時には、まもなく感染機会の増加が予想される状態にあると理解できる。

 腸管防御機能の低下がある下で感染機会の増加はやはりまずいということになれば、これを解消するためには、胃における感染防御機能を強化しておく必要があるということになるだろう。胃における感染防御の手段の一つは、強酸(胃酸)によって処理するというものである。


 ●の影響の場合、消化性潰瘍の成因には、別の経路もあるだろう。顆粒球原因説では、顆粒球が持っていた活性酸素が組織破壊を招くものとされている。高濃度に汚染されたものを「食べて応援」しているような場合には、食物に取り込まれていた放射性核種を含む粒子自体が十分な活性酸素の発生源となり、顆粒球を経由せずとも顆粒球の場合と同様な結果を招くものと考えられる(直接粘膜破壊原因説。2011年3月には宮城で出血性潰瘍が多かった点(末尾の関連記事参照)は、この影響かもしれない)。
 

 最後におまけで、組織障害時におけるコルチゾール(あるいはステロイド剤)の役割について理解を深めておこう。サイト「アトピー・ステロイド情報センター(ASIC)」から、

再び、胃潰瘍、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチについて(後編)
http://atopy.info/essay/9.html

* 痛みや炎症反応の正しい病態把握

 ステロイドホルモンやNSAIDsを長期使用することによって、炎症が悪化するメカニズムを述べてきたが、これを正しく理解するためには痛みや炎症がどのようにして生じているかをも理解する必要がある。・・・このような血流障害や組織障害の極期は、その局所や全身が交感神経緊張状態になっている。

 この血流障害や組織障害の部位には顆粒球が集まってきて破壊された組織を取り除く働きをするが、この過剰反応は自ずからの組織を自分でさらに傷つけることになる。そして、生体がこのような状態から逃れようとする反応が次に引き起こされる。つまり、副交感神経反射あるいは治癒反応である。この時、プロスタグランジン、アセチルコリン、セロトニン、ヒスタミンなどが分泌され、血流が回復し組織の治癒が進む。しかし、これらの物質は血管拡張や発赤や痛みを生み出し炎症として,私達の目に留まる。

図2 ステロイドホルモンやNSAIDsは病気の治癒にどのように関与しているのか


 このような反応が十分起こると、組織は修復され正常あるいは健康な状態に戻る。しかし、この副交感神経反射が強く起こり過ぎた時は、「虚血後再巻流」とも呼ばれる反応となる。上記した反応である。したがって、この治癒反応をゆっくりと進める意味で、ステロイドホルモンやNSAIDsの使用は意味を持っている。・・・


 組織障害の際に交感神経の緊張と顆粒球増多がセットで観察される理由が上手く説明されていると思われる。コルチゾール(あるいはステロイド剤)は、副交感神経が支配する各種の分泌作用を抑制することとなり、交感神経の緊張状態を維持する方向に作用するわけである。治療にステロイド剤を使ったとしても、何かを根本的に治すというものでないことがよく理解できるのではないだろうか。


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