ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

2023年8月にテーマ・タイトルを変更(旧は外国語関連)
2015年4月にテーマ・タイトルを変更(旧は健康関連)

はじめに・・・

 外国語テーマも長く続かずなので、従来の健康ブログに戻してみようかと思いまして・・・ 備忘録的に残しておくと旧タイトルは「タイ語、漢字を使って覚えるの?」でした。(2023.8月記)

 従来の健康ブログ時に記事を書いていて、何故か、そろそろ外国語でも勉強した方がより良いかなーと思いつきまして、以来ちょこちょこと続けてきましたが、なんとなく、ある事を覚えると別の事を忘れてしまうモードに入ってしまったようで、知識量が停滞しつつあるような感じになりました。

 そこで、本ブログを外国語学習ブログに変更して、自分の備忘録的にまとめておこうかなと思いまして・・・。

 しかしながら、少し飽きたのか内容を増やしすぎたのか、書くのに手間がかかるようになり、時間がとれない時は、別ブログ「単語帳の素材?」にてライトな記事を書くことにしました。(この別ブログも徐々にライトでなくなり、記事を500本ほど書いたところで滞り中・・・)

 なお、健康ブログ時代の記事は、コチラの 入り口 からどうぞ。(2015.4月記)
 最近の健康系記事はカテゴリー「タイ語以外(健康2019)」からどうぞ。

進化の考え方:ラマルクとダーウィン

2023年09月26日 | 健康法

 御先祖様から伝来の生活様式は、過去の経験の積み重ねで成り立っている。かつて経験した事象に対しては、何らかの自動的な制御法が身についている(例えば、植物毒への対応。ユーカリの葉には毒性があるが、それを主食にするコアラは解毒できる)か、あるいは制御できない類のものならそのような事象に至らないよう極力回避するだろう(例えば、毒のあるものは味覚や本能で回避する)。生活様式には、生きるための知恵が詰まっている。
 運動して体を鍛えるという生活習慣は、スポーツするアスリート級の人なら当然のことだろう。しかし、現役を引退しても同じレベル(同世代のトップ級)で体を鍛え続ける人はそれほど多くないのではないか(コーチや監督になって太るのはよくみかける)。他方、音楽の場合は、かなり上手い人ならもともと素養があって好きで始めたものだろうから、趣味として生涯にわたり長く訓練を続けることが多いだろう。
 体を鍛えることと音を楽しむこととでは、継続性に大きな違いが生じることから、次の世代への伝わり方も違いが生じると思われる。


 一例を引っ張り出すと、当時8歳の女の子(また特殊な例ですまぬ・・・)。南米の日系5世らしく、祖父(3世)が楽器の演奏を教えていたらしい。当時は日本語はできなかったようだが、親がなじみの日系人のサークルではカラオケが流行っていたらしく練習して上達したらしい。動画サイト youtube から:

瀬戸の花嫁を唄うブラジル人女の子
   https://www.youtube.com/watch?v=1cCSLGIPiPg
 (興味があるなら、この子を日本のTV番組が取材した動画もどうぞ。"MELISSA KUNIYOSHI Imagens do programa Sekai Marumie"というタイトルで検索を)

 


 脱線はほどほどにして、本題に戻り、ラマルク的な進化の考え方とダーウィン的な進化の考え方を簡単にまとめておこう。

 ラマルク的な進化の考え方においては、生物の進化は、
・下等で単純なものから高等で複雑なものへという方向の中で、生物はその時の生存環境に対応したある種の意図・目的を選び出す(前進的な進化、目的選択により変化の方向性が存在すると仮定)、
・それらによく適した生活様式を通じて、よく使うものは発達し、使わないものは衰える方向へ向かう(用不用説)
という感じだろう。

 他方、ダーウィン的な進化の考え方においては、生物の進化は、
・意図も目的もなくただただ変化していく(変化はすれど方向性がないと仮定)
・たまたま変化した形質形態のうち、その時の環境における生存闘争で有利な方が優越種として生き延びる(適者生存説、自然淘汰説。偶然の結果を通じた進化。注1)
となるのだろうか。

(注1)ダーウィンの有名な著作「種の起源」の原文題名は "The Origin of Specied by Means of Natural Selection, or the Preservasion of Favoured Races in the Struggle for Life" である。自然選択と生存闘争における優越種の保存とが等価ということらしい。

 
 動物をみる限りは、もどちらの考え方もあり得ると思われる。ある時はラマルク的に進み、ある時はダーウィン的に進むのであろう。
 ラマルク的な進化の例は、エピゲノム遺伝論をみればいろいろあるだろう。大規模な変化を伴うもの(例えば、サメ(軟骨魚類)のひれがカエル(両生類)の足に変化など)は、こちらで説明した方が分かり易いだろう。
 ただ、獲得形質の遺伝を初めから終わりまで観察するには、時間幅が最低でも10万年から100万年あたりは必要のような気がするので、明解に実証しようとするとなかなか困難と思われる(注2)。
 ダーウィン的な進化の例は、蛾の工業暗化の話が有力なのだろう(注3)。生物の体表の色などの小規模の変化を説明するのに便利なのではないかと思われる。

(注2)ダーウィン派によれば、獲得形質の遺伝を否定した実証としてヴァイスマン(「ワイスマン」とも書かれる)の実験がある(ラマルク派からみると実験自体が突っ込みどころ満載で、一般向け記事だとダーウィン派でも最近言及・紹介する人が減っているような・・・)。サイト「人物小史」から:

7.[オーガスト・ヴァイスマン] 1834-1914 [生殖細胞連続説]
 http://ymorita.la.coocan.jp/hist1.htm#2-7
> 卵の細胞質の中に、生殖細胞質(生殖質)と体細胞質(体質)が区別されると考えた。そして、生殖細胞質を配分された細胞が生殖細胞となって次の代に伝えられ、体細胞質を配分された細胞は体細胞となって、その個体を構成し、生殖細胞に栄養を与える役目をするとともに、その個体の生命を維持する。したがって、個体の死は体細胞の死を意味し、生殖細胞には死はなくて、あたかも原生動物に死がないのと同じように、世代から世代へ送られて行くと考えた。
<エピソード> ・・・
・この説によると決定子に変化が起きない限り種は不変である。彼の説によると獲得形質の遺伝は不可能である。彼はそれを証明するために21代にわたってハツカネズミの尻尾を切断し続けても生まれる子供に変化がないことを示した
・ダーウィンの説の中で自然選択だけを強調したのでネオ・ダーウィニズムと呼ばれる。<


(注3)蛾(オオシモフリエダシャク)の例については、サイト「FNの高校物理」の記事から:
オオシモフリエダシャクの工業暗化
   http://fnorio.com/0080evolution_theory1/peppered_moth1/peppered_moth1.htm
(種名を読むときにどこで間を置くか心配なヒトは、シャク蛾の一種で幼虫期はエダに擬態し羽がシモフリ模様のオオきなもの、という理解で対応するとよいかも)


 ラマルク的な進化の考え方とダーウィン的な進化の考え方は本来、共存可能なはずだろう。しかし、19-20世紀にかけて弱肉強食主義を信奉する人々がダーウィン説を社会思想へ援用し始めたことから、おかしくなってしまったようだ(注4)。ラマルク説は間違っていて、ダーウィン説が正しいという排他的な関係になってしまった時期が長くつづいていたように思われる。

(注4)社会思想における自然権論(「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」という天賦人権説の考え方に同じ)の下では、20世紀前半に隆盛した人種差別主義や植民地主義は高尚な考えとは言えずこれらを正当化するのは難しい。このため、生物の基本法則にあたる進化でのダーウィン説に白羽の矢が立てられ、同説以外を認めない態度をとった感じだろうか。


 ダーウィン的な進化の考え方だけが正しいとすると、矛盾点はいろいろあるので列挙しておこう。何故だか毛色が違いそうな路線も扱うファッション雑誌のサイト「Oggi.jp」の記事を要約すると:

ダーウィンの進化説には重大な矛盾点がある…?【知らなくても困らない。でも知ってるとちょっと楽しい宇宙の話】
 https://oggi.jp/98661


要約すると>ダーウィン進化説6つの矛盾点
 (1)カンブリア爆発が説明できない
 (2)コピー・ミスで進化するのか?
 (3)不利な形質も残っている
 (4)中間段階の化石が未発見
 (5)長期間進化してない生物がいる
 (6)突然変異の仕組みが説明不足<

 

 ラマルク的に考えれば、(1)については、生物の大絶滅後の回復期にあたり未開の生息環境が豊富にあり様々な生活様式が成立し得たから、(2)や(6)については、ラマルク的なものとそもそも関係がないから、(3)については、生存環境に依存して形質形態の有利不利が生じ得るものの、多少不利でも残ることもあるから、(5)については、よく使うものだけからなる形質形態(収斂進化)の場合は生活様式が変化しなければ進化もしないから、ということになり、特に問題にならなくなるであろう。
 (4)については、ダーウィン的ほどではないが、ラマルク的に考えても問題になり得るかもしれない。このため、生物の進化には停滞期(現在はこの期)と非停滞期(躍進期)とがあると考えを取り入れる必要があるか(注5)、あるいは、もっと別の考え方(注6)がよいのかもしれない。

(注5)生物が逆境に置かれると、細菌レベルでは突然変異が増大することが知られており、多発突然変異、あるいは進化の躍進期にあたるのかもしれない。その内容をブログ「生命進化の真実を求めて-植野 満」の記事から引用すると:

2.突然変異説の誤り
 https://blog.goo.ne.jp/um1123/e/32bc8396cb23111255c9814368cface7
>なお、突然変異がランダムに引き起こされるということに関しては、それに反する実験がすでに1989年にハーバード大学のジョン・ケアンズらによってなされている。それは、大腸菌の実験であるが、大腸菌は生命の危機に晒された場合、合目的的な突然変異の出現が普段に比べて一兆倍も出現したそうなのである。これらの事実からも突然変異のランダム性は失われるのである。<
(なお、同ブログでの一つ前の記事「1.ダーウィン進化論の問題点」 https://blog.goo.ne.jp/um1123/e/ce483d16b7a84a313603a60bac697f4c も興味深い)


(注6)例えば、ウイルス感染が生物を進化させたとする、ウイルス進化説がある。これについては、再度ファッション雑誌のサイト「Oggi.jp」の次の記事が詳しい:
ウイルスが生物を進化させたのか? ウイルス進化論ふわっとまとめ 1-2【知らなくても困らない。でも知ってるとちょっと楽しい宇宙の話】 
 https://oggi.jp/99894 及び
 https://oggi.jp/99895
後者の記事から>・・・ここで、ウイルス進化論の要点をまとめていきましょう。要点は以下の通りです。
【1】遺伝子の突然変異が単なるコピー・ミスだけではなく、ウイルスが生物に感染した時にその生物の遺伝子を組み替えたりして起こる。
【2】ウイルス自身の遺伝子をその生物の遺伝子に挿入したりすることによって変異が起こり、それが次世代に引き継がれて、生物が進化する。<

 
 最後に備忘録的に、それぞれの進化の考え方の特徴をまとめておこう:

〔ラマルク的な進化の考え方〕

- 先メンデル遺伝論の時代に、豊富な博物学の知識から導かれたものだが(ラマルクは当時の博物学から生物学を新たに分離させた立役者)、動物のみを対象としたものである。
- 動物自身の意図・目的が進化に関与するので、人智を越えたものが生物を選ぶという思想(選物思想)とは異なる考え方である。
- 動物の具体的な習慣的動作が進化に関与するとしてかなり自力本願的で、偶然性を排している(将来の予測もできるかもしれない)。
- 生物種間による生活様式の工夫の競争(ニッチ獲得の争い。注7)はあるだろうが、同一種の中での生存闘争の形では前面に出てこない。


(注7)ニッチの意義については、例えば、環境イノベーション情報機構のサイトから:

ニッチ   【英】niche  / ecological niche
 https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2923

>生物学用語で、生態的地位のこと。
 動物であれば、餌となる植物や他の動物、隠れ家など、また、植物であれば、光合成に必要な太陽光や根を張るための土壌など、生物が自然の生態系内で生きていくために不可欠なもの(環境)がある。生物種が生態系内でこれらを巡る種間の争奪競争に勝つか、耐え抜いて、得た地位が生態的地位(ニッチ)である。ニッチを獲得できた生物種だけが生態系内で安定した生存が可能となる
 一般に、生物種は様々な生物の相互関係の中で適応して、ニッチを獲得しやすい特有の形態や習性を持つようになる(進化する)ので、生態系内には多様な生物種が複雑な相互関係の中で存在する。安定した生態系は、ニッチを持った多くの種で成り立っており、通常、空いているニッチはない。また、一般的には、ひとつのニッチを異なる種が占める(獲得する)ことはできないので、安定した生態系に新たな生物が侵入する余地はほとんどない。しかし、希には餌の食い分けや棲み分けが起こり(ニッチが分化され)、両種の共存が可能になることもある。<

 

〔ダーウィン的な進化の考え方〕

- メンデルの遺伝論と同時期の考え方であり、品種改良のための栽培植物や飼育動物(家畜、犬、鳩など)の観察が考え方の基礎にある(植物も対象化。動植物の品種改良の場合は、大規模な変化は起こりにくいし、選択は人為的選択によっている)。
- 自然が選択するという選物思想の一種であり、創造説(生物は神により選ばれ創造されたとの考え方。この場合、個体差はあれど生物は不変と考えることが多い)との距離は近い。
- 偶然性が支配すると考えるためかなり他力本願的で、結果の分析しかできない。
- 同一種内でのよく似たもの同士(普通の子と親とは少し違う形質形態の子)による生存闘争の存在を仮定している。
- 進化は個々に関連のない事象が偶然の積み重ねで起こるので、時間的にみれば一定の時間を必要とし、徐々にしか進まない。


動物の生体エネルギー論と進化

2023年09月14日 | 健康法

 前々回記事の生活様式との関連で、能力向上をもたらす上での生活様式の重要性の一例を(かなり特殊な例だけど・・・)。

 ついでに言えば、ゲノム遺伝論が全盛の時期にダーウィンの進化の考え方だけが正しいとする実例がほとんどないことから、今西 錦司氏が「生物種の集団(コロニー)がその集団の目標としてある方向に向かうと、その方向で多発突然変異が起こり得るのだろう」というような趣旨のことを述べたことかある。これは、その一例にあたるのかもしれない。
 一例というのは、音楽家の家系の3代目の当時8歳の女の子。父が作曲家、母がバイオリニストで、その練習姿を眺めながら3歳でバイオリンに触り「毎日5時間練習した後、先生と一緒に練習します」という環境・生活様式だと上手くなれるらしい。その演奏の一つ(サラサーテのツィゴイネルワイゼン)を動画から:

 

Himari Yoshimura. 1st round String instruments / 20th International Competition for Young Musicians "The Nutcracker"(2019)
 https://www.youtube.com/watch?v=4H6BitFb9zw

 

 雑談はさておき本題に戻ると、いろいろ詰めていくと「動物とは何か」という疑問にぶつかる。西原克成氏の言説だと、エネルギーが渦を作るということになるけど、渦を作るのは物質とした方が座りがよさそうなので、これを改変すると次のようになるだろうか:

 

 動物とは、運動を通じて獲得・摂取した物を消化吸収して全身に供給し、供給物から生成したエネルギーを利用する新陳代謝によって物質の流れの渦(動的平衡)を形成しつつ老化を克服する生命体である。

 

 想像するに、流れの渦(その中心は内臓、心臓あたりか?)に鎮座するのが、心とか霊魂と言われるものかもしれない。この場合、脳は、本来は筋肉の協調による運動を制御するための電気回路であり、後にヒトは論理的な思考ができるようになったが、これは当初運動量の節約を目的として発達したものである、と考えるのだろう(故に、心を働かせると利他的にもなり得るけど、頭を働かせると省力化、すなわち利己的になりがちになるのだろう)。

 

 動物をエネルギー論的にみれば、新陳代謝用(基礎代謝)のエネルギー、運動用のエネルギー、その他のエネルギーを生み出す必要がある。その他のエネルギーからは、生殖用のエネルギーを捻り出す必要があり、その残りが余剰エネルギーと言えるのだろう。

 動物の生活様式は、基礎代謝エネルギー、運動用のエネルギー及び生殖用のエネルギーを確保できるものでなければならないという制約があることになる。例えば、哺乳類の基礎代謝エネルギーの場合、恒温を維持する必要があり、エネルギー摂取(energy intake)のうち5割以上は熱エネルギーに変換されていると言われている。
 運動用のエネルギーは身体活動の程度に、余剰エネルギーは肥満度などに依存して、同じ生物種であっても個体差による変動が大きいであろう(そもそも野生の動物であれば引き締まった身体をしており、肥満ということはあり得ないのだが・・・)。他方、生殖用のエネルギーは、変動はそれほど大きくないだろうが、残る基礎代謝エネルギーについては、利用が効率化されていればされているほど生存に有利ということになろう。

 

 進化は、生物種と地球環境の相互作用でおこる。この点に戻って再度考えると、生物種によつて相互作用の内容が異なるのは何故だろうか。
 その答えは、いろいろなものが成り立つと思う(例えば簡単なのは、それぞれ生息環境が違うから)。その一つとして生体エネルギー論的に考えれば、生物は常に基礎代謝を最適化しようとしているから、ということになるのではないか。この点を少し説明しよう。

 

 生物の一つの特徴として、生体のエネルギー恒常性を維持するため、基礎代謝向けエネルギー利用を効率化して最適化するようにしていることが挙げられる。生体エネルギー論的にみれば、そのような最適化はエネルギー支出の削減策の一つであり、エネルギー摂取(食餌・酸素摂取など)の必要性を軽減することに繋がる。
 このような最適化は、生体は、基礎代謝向けエネルギーが効率化されるよう、久しく使わない過剰機能(over-specification fundtions)には減衰調節(down-regulate)を、よく使うようになった機能には徐々に補強調節(upregulate)を施すことで実現しているようだ(生体の基礎代謝最適化仮説)。

 この最適化現象は、生物個体の一代かぎりで眺めればホルミシス効果(逆境が生物を強くする現象)に、生物種を累代にわたって眺めればラマルクの用不用説(よく使うものは発達し、使わないものは退化する現象)になるのであろう。

 以上のように、生体エネルギー論的にみれば、基礎代謝の最適化の結果自然と導かれることになるラマルクの用不用説には違和感が生じにくいのではないだろうか。この場合、生物の進化は、基礎代謝の最適化に伴う随伴現象である、とみられるのかもしれない。

 

 ついでに補足説明しておくとホルミシス効果の例は、前々回記事とも関係するが、


- 生活場における重力の存在が動物の骨・筋肉を強くする、
- 生活場に風が吹くことが樹木を強くする

などが挙げられる。また、ラマルクの用不用説は、次の二つの法則からなる(いろいろあるけど、西原克成「究極の免疫力」(2004年) から引用しよう。同書204-205頁):


1-「生育の限界を超えないかぎり、脊椎動物の器官の形と機能は使えば形も機能も発達し、使わなければ縮小してやがてなくなってしまう」((狭義の)用不用の法則)
2-「そして雌雄にこれが共通していれば、生殖を介してこれが子に伝えられる」(獲得形質遺伝の法則)


生活様式と獲得形質の遺伝

2023年09月07日 | 健康法

〔更新履歴:追記2023-9-8〕

 

 進化は、生物種と地球環境(生息環境)との相互作用で成り立つ。生息環境の中で生活様式が成り立つと考えることとなるが、環境要因と生活様式との切り分けはそれほど自明ではない。
 生活様式の中でも生体に力学作用を与えるものが重要との立場を採るが、普段の生活では余り意識されないものも多い。特に、物理的環境要因が関係するものは、力学的、電磁気学的あるいは熱力学的な作用を生体に及ぼし得るが、ヒトが制御できない要因(気圧、重力、自然放射線量など)と制御できる要因(生活場の気温、日光・紫外線量など)との二つに大別できるだろう。ヒトが制御できない要因は、暗黙の生活様式となり易い。例えば:


1.- 生活場は1気圧前後である、
2.- 生活場には地球引力(重力)が働いている、
3.- 生活場には風が吹く、

 

などである。

 

 上記1.について力学的にみれば、動物は1気圧の力学作用で押しつぶされないように1気圧に釣り合う力で内側から膨らみつづけている、ということになる。なので、動物をロケットで宇宙に連れて行って宇宙空間に放り出せば、ゼロ気圧なので膨らみ過ぎて破裂してしまうであろう。
 気圧の変化は力学作用の変化を招くこととなるが、このような調節が苦手で不快な症状が出る人が結構いるらしく(いわゆる気象病を患う人々)、次のような情報サイトがあり繁盛しているようだ:

頭痛ーる
https://zutool.jp/
低気圧頭痛・不調の原因や症状とは? -気象病の基礎知識
https://zutool.jp/column/basic/tenkitu_symptom

低気圧頭痛・不調の原因とは?
 低気圧頭痛・不調の主な原因としては気圧の変化が関係しています。気圧の変化感じ取るのが耳の奥にある内耳(ないじ)になります。・・・この内耳のセンサーが敏感だと、わずかな気圧の変化でも脳に対して過剰に伝わってしまいます。
その結果、頭痛、めまい、肩こり、ぜん息、うつ病といった様々な不調に繋がるのです。

 

 2.について力学的にみれば、普段運動しない人でも、ある程度身体活動をしている、ということになる。寝ている時は格別、座ったり立ったりしている時は、骨格のバランスを上手くとりながら筋肉(抗重力筋)で調整して重力に釣り合う力で骨格を支えていることになる。
 骨や筋肉の成長を司るものは、力学的な負荷であり、ヒトをロケットで宇宙空間に連れて行って長期滞在させると、残念ながら無敵ングにはなれずに骨そしょう症や筋力低下に悩むこととなる。

 

 3.については、動物にとっては野外では目や肺に風で舞ったゴミが入ったりするので、それに対する備えが必要ということになるが、植物にとっては死活問題となっているようだ。
 1991年に米国で、人工的な生態系を作り上げ自給自足の生活をすることを目的として、巨大な温室(バイオスフィア2)に科学者8人が2年間の予定で閉じこもる実験をしたことがある(月面に宇宙基地を作り長期滞在するための地上での予備実験なのであろう)。生態系の柱は樹木だろうということで、温室内にも多くの樹木が植えられた。最初は順調に育っていたが、実験が終わらないうちにその多くは枯れてしまった。理由は、ニクラス・ブレンボー氏の著作「寿命ハック」によれば:


「風は木にとっては手ごわい敵の一つだが、実のところ、必要不可欠なものである。絶え間なく吹く風に耐えることによって木はたくましく強く育っていく。風が吹かない場所では木は弱くなり、やがて自らの重さを支えられなくなって倒れる。」(同書78頁)


 風が吹かないと木が枯れる。ヒトが無重力空間に長期滞在すると大きな問題が生じるということが分かっていた筈なので、思考実験で思いつきそうなものだが、ムーンサルト(後方二回宙返り一回ひねり)ほどではないだろうがちょっとした捻りが必要で当時は世界一流の頭脳でも思い至らなかったのであろう。
 樹木は、生活場の風の強さ応じて遺伝因子により幹や枝の太さを制御しいてるのだろう(未だ人智が及ばない所にある、遺伝因子の自動制御の一例。ヒトの骨の強度の制御パターンに類似していそう)。樹木の種類によって制御パターンに違いがあると思われるが、そのことがある生活場所での樹木の植生に大きく影響しているのかもしれない。

 

 さて、生活様式が遺伝因子に影響を与える例があるのだろうか。


 この疑問に答えるために、先ず遺伝学の歴史についてみておこう。明らかに段階的な発展を遂げていると思われる:

1- 先メンデル遺伝論〔遺伝という現象は、いにしえより認識されていたのだろうけど、その機構については手探りの状況〕
2- メンデル遺伝論〔劣性遺伝などを解明〕
3- ゲノム遺伝論(DNA配列遺伝論、ワトソン・クリック遺伝論)〔ゲノムを解析できれば遺伝の謎が解けるという都市伝説に至った模様〕
4- エピゲノム遺伝論(エピゲノム制御を含む遺伝論、DNA発現制御遺伝論)〔ゲノムは生命体にとって、いわばご先祖様伝来の指令が書かれた古文書(DNA配列)だが、古文書自体よりも古文書を読み取る装置(エピゲノム制御)の方が複雑で高度なものであることが判明〕

 

 ゲノム遺伝論では、いわばDNA配列原理主義の立場なので、生殖時にDNA配列が決まりそれが遺伝系すべてを制御しているとし考えるので(例外は、突然変異によるがん化など)、生後に行われる生活様式を考慮の対象として取り入れにくい。

 

追記:ヒトのゲノムは塩基数にして約30億個ほど。ゲノムのいちばん多い動物は肺魚(1100個億)、次が両生類で哺乳類に比べ15-30倍の数のゲノムを持つ。ゲノム数は進化の度合いと関係しておらず、むしろ肺呼吸に慣れない時代にかなり膨張した模様。


 他方、現在主流のエピゲノム制御を含む遺伝論によれば、生活様式と遺伝因子とが密接に関係するとの立場であり、生活様式を考慮の対象に入れるのは当然のこととなっいる。

 このような関係はラマルクの進化法則のうち「獲得形質遺伝の法則」と言われているものだが、今ではその実例がいろいろあるけど、例えば、折茂英生氏 「エピジェネティクスと栄養」(2010年) https://www.nms.ac.jp/sh/jmanms/pdf/006040193.pdf の左欄下段から、戦時中のオランダの飢餓の事例(母親の生活様式(低栄養。流通が滞ったという社会的要因によるもの)による影響が子孫に伝承):

 

 第二次世界大戦末期の1944 年~1945 年の冬季,ドイツ占領下のオランダで発生した飢餓(Dutch Hunger Winter)時に妊娠していた女性から生まれた子供たちに,成人後に生活習慣病を発症するリスクの増加がみられた.最近彼らの子の世代,すなわち飢餓時に妊娠していた女性の孫の世代(F2)まで,生活習慣病の発症リスクが高いことが示された。

 

追記:エピゲノムの解説がなかったでござる:

エピゲノムの制御を受けた転写の方程式-エピゲノム異常の影響を反応素過程ごとに理解する- 2020年11月26日
 https://www.riken.jp/press/2020/20201126_1/
抜粋>補足説明
  1. エピゲノム
    細胞内の全DNAの塩基配列として記録された遺伝情報の総体を指す「ゲノム」に対し、DNAやヒストンの化学修飾などによって細胞の個性を記憶する情報の総体を「エピゲノム」と呼ぶ。<
(研究成果報告からの抜粋だけど、報告自体を眺めるとエピゲノム遺伝論での探究点に触れることができるかもしれない。ちなみにエピゲノム制御の結果、ヒトのゲノムのうち読み取られる部分(遺伝子)は約21-24千ヶ所ほど)

 

 他方、進化学について眺めてみると、ダーウィン的な進化の考え方が主流と思われる。これは、ゲノム遺伝学と相性がよいし、突然変異をベースとした概念なのでかなり緻密な枠組みを組み上げて確率過程の現象ととらえて数理進化学的な方向にも進んでいるところ。
 なので、その信奉者は何故かエピゲノム遺伝論を毛嫌いする傾向がみられる。おそらく、ラマルク的な進化の考え方、特に獲得形質遺伝の法則への強い反発なのだろう(数理進化学のようなものをやっていた専門家が、今更、生物種の生活様式を観察することが重要と言われても、方向転換できないのかもしれない)。

 エピゲノム遺伝論の時代においては、親世代の生活様式が重要であり、本ブログでは獲得形質遺伝の法則は当たり前田として扱っていこう。この点に関し、とりあえず見つけた雑多な資料を置いておこう:

 

「遺伝」 について
   https://byosei-neuroscience-institute.ncnp.go.jp/bucho/%E3%80%8C%E9%81%BA%E4%BC%9D%E3%80%8D%E3%80%80%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
>(獲得形質というのは、生まれた後で経験などによって得られたその人の性質のことです。 例えば、もともと運動神経の悪い人が猛練習によって野球がうまくなっても、その後生まれたその人の子供が生まれつき野球がうまくなるかというと、そうではありません。 つまり、獲得形質は遺伝しない、というのが生命科学上の常識なのです。)・・・<
>でも、最近では「生みの親より育ての親」という現象が少なからず報告されてきています。 これは、遺伝子そのものに組み込まれた情報ではないけれども、育て方によって、その遺伝子が修飾を受けて、結局育ての親と同じ性質が世代を超えて伝えられていく、という概念です。
 なかなか面白いんですよ、この分野の研究も。。。。
 たとえば、ネズミで観察されているんですが、子供の毛繕いをしたり背中を舐めたりと、きちんと子育てをする親に育てられたネズミは、自分が親になったときにはやはりきちんと子育てをするようになる。 逆に、あまり子育てをしない親に育てられたネズミは、親になってからやはり子育てをしなくなる。
 しかし、子育てに熱心でない親から生まれても、親を交換して子育てに熱心な親の元で育てられれば、将来きちんと子育てをするようになるし、また逆の現象も観察されています。 つまり、生みの親は関係なくて、どのように育てられたのか、ということが、その後のネズミの振る舞いを決定するわけです。しかも、これが何世代も受け継がれるんですよ、あたかも「遺伝」しているかのように。 つまり、生みの親より育ての親、という訳です。・・・

 

獲得形質は遺伝する? -親世代で受けた環境ストレスが子孫の生存力を高める-
 https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2017-01-11
>概要
 生物学では長らく、後天的に獲得した形質は遺伝しないと考えられていました。ところが近年になって、その通説を覆すような事象がいくつか報告されるようになりました。例えば、高カロリー食により肥満になった父ラットから生まれた娘ラットが、通常食で育ったにもかかわらず糖尿病の症状を示すという報告が挙げられます。このように、親が生育した環境によって子供の表現型が変化を受ける可能性が示唆されているものの、それがどのようなメカニズムで生じるのかについてはほとんど明らかではありません。 ・・・

 

後天的に獲得された形質は、次の世代へと遺伝する──「エピジェネティクス」の謎を独科学者らが解明
 https://wired.jp/2017/10/10/epigenetics-mechanism/
>親は子どもの発達を導く遺伝情報を提供する。親のエピジェネティックな情報は、子どもが最初に直面するであろう環境に適応するための、母親からもらえる最初のマニュアルのようなものといえるだろう。そして親世代が後天的に得た形質は、子ども世代、そして孫の世代へと受け継げられていくのだ。


生活様式の例

2023年09月04日 | 健康法

〔更新履歴:追記2023-9-6〕

 

 生活様式は「ある生物種の集団(コロニー)の成員が共有している生活の営み方」という意味であり、特にヒトの場合はある集団が持っている生活様式を広く総称して「文化」ということになるのだろう。

 

生活様式(読み)せいかつようしき(英語表記)ways of life
 https://kotobank.jp/word/%E7%94%9F%E6%B4%BB%E6%A7%98%E5%BC%8F-85612
ある社会あるいは集団の成員が共有している生活の営み方,とくに人間の基本的活動である生産(仕事),消費(余暇),再生産(家族生活)の本質と関係について共有している認識と行動の枠組みのこと。・・・<

文化(読み)ぶんか
 https://kotobank.jp/word/%E6%96%87%E5%8C%96-128305
>あらゆる人間集団がそれぞれもっている生活様式を広く総称して文化とよび、個別文化はそれぞれ独自の価値をもっているから、個別文化の間には高低・優劣の差がつけられないとする。採集狩猟、定住食糧生産、都市居住者の商工業を営む人々の生活様式にはそれぞれ独自な価値があり、その間に甲乙はないとされる。・・・<

 

 とりあえず例として、以前の記事で言及したアイアイ(原猿類)に関して生活様式(特に食性)を見ておこう。

どうぶつ図鑑「アイアイ」 | 東京ズーネット
   https://www.tokyo-zoo.net/encyclopedia/species_detail?code=354
>特徴:マダガスカルだけにすむ原猿類で、アイアイ科で現存するただ1種の動物。長い尾、大きな耳をもち、夜活動します。木の中の昆虫をさがして食べると報告されていますが、島泰三先生の綿密な観察によると、主食はカンラン科 Canarium属のラミーの果実で、切歯で穴をあけ、細長い中指で中身をかきだすそうです。現地では森林破壊により個体数が減っています。<

 

 動画で見た方が分かり易いと思うので:

キモカワ猿】アイアイの狩りが衝撃的!1本だけ長ーい中指でミルワームを食べまくる【どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU】
  https://www.youtube.com/watch?v=cK8II3DxJeg

 

   上記動画からのショット:

     図1:主食のラミーの実に噛みつくアイアイ(猿だが切歯がリスのように発達していて堅い実を割ることができる)

 


        

     図2:殻を割ったラミーの実から中指を器用に使い中身を掻き出すアイアイ(黒い竹ひご様のものが中指)

 

 

      

     図3:アイアイの手指(中指・薬指が長く、中指は特に細長い)とラミーの実のかじり痕

 


        

     図4:タッピングしながら大きな耳を傾けるアイアイ(木の枝や竹などの中の空洞の有無や、

     中にいる好物の昆虫(ミルワーム)の居場所を反響音の違いで聞き分ける)

 

追記:

 猿のアイアイの形質形態の特徴をまとめておくと:

・口(歯)は、前歯(切歯)が発達していて硬いものを噛める一方、犬歯・臼歯はそれほどでもなく軟らかいものが主体の食性(主食のラミーの実を割るにはペンチを使うぐらいの力が必要。好物の昆虫はミルワームなどで外骨格のゴキブリ、バッタはお嫌いの模様)
・手指は、中指・薬指が長く、特に中指は異様に細長い(ラミーの実から胚芽を、竹の空洞から好物の昆虫を掻き出すのに便利)
・耳は、身体の大きさの割に大きい(タッピングによる音を聞き分けるのに便利)

 

 想像するに、歯と手指は、ラマルク的な進化の考え方(用不用がベース)で説明すると良さそう(食事の際に働く力学作用により徐々に変形してきた)。
 耳は、ラマルク的な考え方、ダーウィン的な考え方(突然変異がベース)のいずれでも説明できそう(タッピングの際に耳を自ら動かす力学作用によって、あるいは突然変異後の自然淘汰によって徐々に大きくなった)。


遺伝の本質と健康

2023年08月27日 | 健康法

 

 遺伝の本質は何であろうか。趣旨が分かりにくいかもしれないので言い換えてみると、生物には親の形質・形態を子に伝える現象があるがその目的は何だろうか、ということになる。

 微視的(ミクロ)な方向へ思考を巡らせると遺伝因子へ還元して行く話となるのだが、それだと分子レベルの細かな話になって全体を見失い、よく分からなくのが落ちだろう。ここでの考察ではその道は有用そうではないので、巨視的(マクロ)な方向へ眺めてみよう。


 すると、親から子への「生活様式の伝承」というのが浮かび上がり、これ以外には思いつかない。生物種の生活様式が遺伝因子や道具の形成に繋がる(生活様式遺伝因子・道具形成仮説。前回記事を参照)という立場からすると、最も自然な見方にあたるだろう。

 

 ある生物種が特定の生活様式(食性がその主要部分)を採用している場合でも、生息環境自体は日々変動したり季節変動をすることから、生物種側には生体恒常性(homeostasis、ホメオスタシス)を維持するための機構が備わっているのが一般的である。当然これも遺伝の対象になるはずであり、環境変動に対する自動制御機構が遺伝因子に含まれているのだろう。

 

 健康を維持するということは、常に生体恒常性を維持することが必要不可欠だろう。それを容易に達成するには、進化の過程で獲得したであろう生息環境の変動に対する自動制御機構を最大限発揮させることが重要になるだろう。
 遺伝子が想定していない生活様式を実践する場合は、制御の方法が判明していない課題に遭遇する可能性が高くなり、試行錯誤を重ねつつ新たな道を切り開いていく必要があるだろう。他方、遺伝子が想定している生活様式を実践する場合は、いつか来た道であり、ご先祖様から伝承された制御方法を活用することにより、容易に生体恒常性を維持してトラブルを回避することができるだろう。

 

 以上が、ヒト遺伝子想定的生活様式実践(健康)法を推進する理由にあたるのだが・・・(分かり難くてスマヌ。理解が深化すればもう少し分かり易く書けそうなのだが、現状はこの辺りが限界か)。


生活様式と生物進化

2023年08月26日 | 健康法

 健康法を考察するためには、その生物の進化過程を踏まえる必要があるだろう。進化は、生物種と地球環境(その種の生息環境)との相互作用で起こるからだ。

 そのような相互作用の在り方(種の生態などに反映)は様々であり共通性は少ないかもしれない。しかし、相互作用の原動力は、生物種が採用した生活様式に伴い生体に働く力学現象にあることは間違いないだろう(こう考えるのは、ラマルク的な進化の考え方を基盤にしているからだろうか)。

 

 島 泰三氏の著作「親指はなぜ太いのか」(2003年)では、猿のアイアイの形質形態の観察から出発して論考を展開しているが、その意義をまとめると次のような感じになるだろう:

 アイアイ(原猿類)の形質形態(耳・口・手の特異な形)を観察しその合理的理由を解釈
→ 今西錦司氏の棲み分け理論を「食べ分け理論」に組み替えた上で、食性と口・手に関するの相関を霊長類に演繹し、食性が霊長類の口(歯)と手の形を決めている(口と手連合仮説)を提唱
→ この仮説の応用として、ヒトの口と手の形から初期人類の食性と、食性関連の移動方法について推論を展開(骨食を採用し直立二足歩行になったと結論)

 

 この辺りの話は、西原克成氏の著作「究極の免疫力」(2004年)が簡潔にまとめているので引用しておこう(207頁):

「哺乳動物の歯と顎と顔の形は、食物の性質が一定に決まると、それにしたがって変化します。食べ方、噛み方、餌のとり方で、身体のすべての形が少しずつそれに適したように変化し、これが親子代々に続き累代に及ぶと亜種が分離します。つまり、『種の起源』は、突然変異や適者生存ではなく、行動様式の変更そのものにあり、行動様式の力学現象つまり重力作用そのものこそが、進化の原動力だったのです。」

 

 島氏の論法を応用する目的でさらに演繹すれば、次のようにできるだろう:

 島氏の口と手連合仮説
→ 食性は生活様式の主体であり、口や手の形は結局遺伝因子ということであり、島説は、生活様式遺伝因子形成仮説に衣替えできそう
→ 現生人類(ホモ・サピエンス)を含むホモ属の進化には二つの様式があり、生物学的な進化と文化的な進化である。前者は遺伝因子に、後者は道具に制御されていると見られるので、上述の仮説はホモ属においては「生活様式遺伝因子・道具形成仮説」と発展させられそう。

 

 生活様式遺伝因子・道具形成仮説を考察上の基本法則として設定すれば、生物種の生活様式が進化を主導するということとなり、ヒト遺伝子想定的生活様式実践(健康)法の意義が見えてくるのではなかろうか。